僕は夢を見た(75) 死の前触れへの備え
エリーから借りている屋敷の自室のベッドの上で目覚める僕。
顔を横に向けて目覚める。
人肌の温かい感触が僕の頬に伝わってくる。
この感触はレギオナだな…
レギオナの太股に頬擦りしながら「おはよう」と挨拶をする。
レギオナ:「おはようございます、主殿。」
ガバッと上体を起こし、レギオナの体を引き寄た。
レギオナが「キャッ」と小さな悲鳴をあげる。
レギオナの体を倒し頭を僕の太股に乗せ膝枕をしてあげた。
よしひろう:「膝枕をされる気分はどうだい?(笑)」
レギオナはクスリと笑い、「心地よいです。」
と少し恥じらいながら答えた。
レギオナ:「あの…そろそろエルマ様がお迎えにいらっしゃいますわよ?」
それを聞いて慌てて身支度を始める僕。
よしひろう:「ジアが言ってたよね?今日から戦闘訓練をするって。」
レギオナ:「私は存じませんけれど…」
よしひろう:「そうか、じゃ、エルマに聞いてみるか。」
そんな話をしているとドアノッカーを叩く音が聞こえてきた。
慌てて玄関に向かう僕と、それに付き従うレギオナ。
玄関を開けると案の定エルマが朝食のお誘いに来てくれていた。
よしひろう:「おはよう、エルマ。」
エルマ:「おはよう、ヒロ…」
エルマの視線が僕の足元に向けられた。
そこには真っ白い子猫が一匹。
エルマ:「あら、レナはヒロの所にお邪魔していたの?」
子猫を抱き上げるエルマ。
エルマ:「朝食を食べにいらっしゃい。」
と一言言うとエルマは自宅に向けて歩き始めた。
それに付いていく僕。
よしひろう:「エルマ?」
エルマ:「何?」
よしひろう:「ジアの言ってた戦闘訓練って今日からだったよな?」
エルマ:「そうよ。確か王城の中にある武道場で待ち合わせのはず。」
よしひろう:「エルマも訓練するの?」
エルマ:「私はエリーとティーパーティーしてるから。」
エルマ:「一人で頑張って(笑)」
エルマの家で朝食のパンとサラダを頂く。
僕がサラダをモシャモシャと食べている横で子猫のレナが猫用の缶詰を食べていた。
ふとエルマが何気なく僕に質問を投げ掛けてきた。
エルマ:「レナって、レギオナなの?」
よしひろう:「!!?(ドキッ)」
レギオナ:「!!(ビクッ)」
よしひろう:「違うよ。」
素知らぬ顔で答える僕。
エルマ:「ふぅん…まぁ、いいけど…」
エルマがジーっとレナを見つめている。
僕も観念して本当の事を話す事にした。
よしひろう:「いや、その、実は…レギオナです。」
と、申し訳なさそうに真実を教える僕。
エルマ:「やっぱりね(笑)」
エルマ:「ずっと私達一家の事を守ってくれてたんだ。」
エルマ:「ありがとう、レナ。この場合はレギオナの方がいいかしら?」
レナは猫の姿のままで「ニャー」と鳴いて返事をする。
エルマ:「おっと、そろそろ出発しないと遅刻しちゃうわよ?」
よしひろう:「じゃ、行こうか?」
慌てて屋敷を出る僕とエルマ。
レギオナは既に僕の雑嚢の中に入っている。
エルマを抱き抱え空へと舞い上がり、王城へと向かう。
季節は冬へと向かっているのか少し肌寒い。
よしひろう:「寒くないか?」
エルマ:「うん。まだ大丈夫かな。」
王城の門の脇にある衛兵の詰め所で入城の手続きをする僕とエルマ。
そして案内役の衛兵に連れられエリーの部屋の前の待合室に通される二人。
セナがエリーの部屋の前で警護に当たっていたので軽く手を振り挨拶をする。
エリーの部屋から召し使いが現れ、「どうぞ中へお入りください」と僕らを招き入れる仕草をする。
招かれるまま部屋へと入るとエリーと一緒にジアが居た。
ジア:「あのー…ヒロ…(モゴモゴ)」
ジアの発した言葉の後ろら辺が聞き取れない。
ジアの召し使いが見かねて補足してくれた。
ジアの召し使い:「よしひろう様にはこれよりフリージア様と一緒に武道場に来ていただきます。」
よしひろう:「は、はい!承知いたしました!!(汗」
エルマ:「頑張ってね!勇者様っ(笑)」
エリー:「ヒロ、また後でね。」
よしひろう:「はーい。」
笑顔でエリーの部屋を後にするジアと召し使いと僕。
武道場はエリーの部屋とは反対側の建物にあった。
中に入ると多くの騎士達が実戦さながらの特訓を行っていた。
フリージアに気付いた騎士達が訓練を止め、一斉に片膝を着いて敬意をはらう。
ジア:「あの…皆さん…(モゴモゴ)」
ジアの召し使い:「姫様は続けるようにと仰っています。」
騎士達は一礼し、訓練を再開した。
ジアが僕の手を引き、武道場の奥へと連れてきた。
そこにはレンジャーが二人。
片膝を付き右手を胸に当て、姫様に敬意を表す。
ジア:「あの…(モゴモゴ)」
レンジャー:「承知いたしました。私たちの技を全てよしひろう殿に伝授いたします。」
ジア:「よろしくお願いします。」
レンジャー:「勿体なきお言葉、恐れ入ります。」
ジアは僕達を見守るように椅子に腰かけた。
よしひろう:「よろしくお願いいたします!」
レンジャーに向かい一礼する僕。
レンジャーが木剣を一振り僕に渡す。
レンジャー:「実践方式で体が覚えるまで繰り返すぞ!」
よしひろう:「はい!」
最初にレンジャーは相手の力を利用しつつ弱点を突く技を多く教えてくれた。
レンジャー:「よしひろう殿は飲み込みが早いですな!」
よしひろう:「ありがとうございます!(ハァハァ)」
しかし、それを見ていたジアは不満げだった。
召し使いになにやら耳打ちしているようだ。
召し使いがこちらにやって来て指示をだす。
召し使い:「よしひろう様は何故赤い甲冑を身に付けないのですか?」
召し使い:「私たちが望むのはレンジャーではありません!」
召し使い:「レンジャーを超える強者です。それを忘れないように。」
よしひろう:「はい!」
僕は意識を集中し赤備えの甲冑を呼び出した。
レンジャーの目の前で僕の体が火に包まれ、炎がパンッと弾けると同時にそれぞれの部位に真紅の装具が装着される。
レンジャー:「な、なんと…」
その甲冑の美しさに目を奪われるレンジャー。
召し使い:「実戦形式でレンジャーを超える力を身に付けなさい!」
レンジャー:「では、行くぞ!」
よしひろう:「はい!」
僕の剣の動きを読んで、先手先手でことごとく打ち据えられる僕。
よしひろう:「クッ!!」
よしひろう:「(「風」よ俺に力を貸してくれ!)」
風:「(我ニ身ヲ委ネ、ソノ動キヲ覚エルノダ)」
よしひろう:「(分かった!)」
力を抜くと体が勝手に動き始めた。
左手で刀を掴み、右手は水平方向で木剣を下側に向ける独特の構え。
レンジャーが斬りかかってくるのを下向きの剣を交える事でその攻撃先を反らすと同時に相手の喉元に剣を突き立てる。
レンジャーの額から冷や汗が一筋流れた。
今の動きを必死に覚える僕。
一度、双方が離れレンジャーがこれまでと違う構えをとった。
まるで居合い斬りのような構え。
僕の体は剣先を相手に向け、それを左手の籠手で支える構えをとる。
先に動いたのはレンジャーだった。
一気に間合いを縮め剣先を僕の持つ剣に当ててきた。
剣を弾くつもりだったようだが、僕の剣と左の籠手で挟み込むと左足を大きく前に出し足払いをし、レンジャーの体勢を崩し転倒させる。
そして喉元に剣を突き立てた。
レンジャー:「こ、これは…今までのよしひろう殿の動きとは全然違いますぞ!?」
ジアの横に置いておいた僕の雑嚢からレギオナがジーっと僕の動きを見ていたのを知ったのは少し後になってからだった。
召し使い:「次は2対1で。」
レンジャー:「ハッ!」
レンジャーが二人同時に掛かって来た。
その連携した動きに戸惑いながらも剣を交えた際に相手の腕を掴み、足払いをして1人目を倒し、それを盾にしながら二人目の喉元に剣をあてがった。
降参するように両手をあげるレンジャー。
20戦18勝2敗という結果に終わった。
よしひろう:「ジア!見ててくれました?」
と、ジアの方を見ると、スカピーと涎を流しながら寝てしまっている…
肩を落とす僕に肩を叩いて誉め称えるレンジャー。
レンジャー:「すばらしい動きだったぞ!」
よしひろう:「あ、ありがとうございました!!」
よしひろう:「明日もよろしくお願いします!」
召し使い:「フリージア様には私から報告しておきますわ。」
よしひろう:「ありがとうございます。」
丁度その時、正午を知らせる鐘が鳴った。
ジアも目を覚まし、エリーやエルマ達と一緒に昼食を摂る事に。
よしひろう:「ジア、酷いですよ。」
よしひろう:「僕の訓練、見ずに寝てたでしょ?」
ジア:「ご、ごめんなさい…(モゴモゴ)」
召し使い:「よしひろう様が勝つのが分かっていたから見るまでも無かったそうです。」
よしひろう:「そ、そういう事でしたか…」
エリー:「で、どうじゃったのじゃ?」
よしひろう:「大変勉強になりました!」
エルマ:「本当に?(笑)」
ジア:「でもね…ヒロ、刀の力に頼りすぎるのはダメですよ?」
ジアには全てお見通しって訳か…
よしひろう:「………はい。」
「風」の力に頼らず剣技を繰り出せるよう一つ一つ確実に技を覚えて行く。
それが目下の目標だ。
少し落ち込んだ僕をエリーが慰めるように話題を変えてくれた。
エリー:「ヒロのその赤い甲冑、すごく似合ってるのじゃ!」
よしひろう:「そ、そうですか?照れるなぁ。」
エリー:「その鎧に似合う実力を身に付けんとな(笑)」
よしひろう:「(グサリと胸に突き刺さるそのお言葉)」
特訓は午後からも続いた。
今度は「風」に頼らずにレンジャーと剣を交える。
結果、20戦0勝20敗…完膚無きまでに打ちのめされた。
僕のその情けない姿を両肘を付いてじっと眺めるジア。
レンジャー:「朝の強さはどこにいってしまったのですか?」
困惑するレンジャーに苦笑いで返す僕。
よしひろう:「(僕はどうすればいいんだ?どうすれば強くなれる?)」
その問いに「風」が答えてくれた。
風:「(主殿ハ考エスギル帰来ガアル。)」
風:「(相手ノ動キヲ読モウトシテモ仕方ガナイ。ソレデハ勝テマセヌゾ。)」
風:「(相手ノ動キニ合ワセ、攻撃ヲ受ケ流シ、隙ヲ突キ致命打ヲ与エル。ソレダケノコト。)」
僕は無意識に呟いていた。
よしひろう:「考えるな…か…」
よしひろう:「もう一本、お願いします!!」
レンジャー:「勝負!」
居合い斬りの姿勢でにじり寄って来るレンジャー。
僕は左腕を体の前に出し、剣を籠手の上に置く体勢をとった。
瞬間、一気に間合いを詰め剣を抜き放つレンジャー。
その間合いに無心で飛び込みレンジャーの抜く剣を右手の籠手に当て、受け流しつつ剣をレンジャーの首筋に立てる。
レンジャー:「お見事!」
その様子を見ていたジアが「フフッ」と笑った。
そして満足そうな笑顔で言った。
ジア:「今日のところは…(モゴモゴ)」
ジア:「続きは…(モゴモゴ)」
召し使いが手を叩きながらジアの言葉を代弁する。
召し使い:「はい、ここまで!続きは明日ということにいたしましょう。」
レンジャー:「ハッ!」
片膝をつき、左手で剣を持ち背中に腕をまわす。そして右手を胸に当てて深々と頭を下げるレンジャー。
僕もその仕草を真似して頭を下げた。
僕の手を取り、立ち上がらせると、そのままエリーの部屋へと向かうジア。
後ろから見えるジアの横顔をみると、何だか嬉しそうな顔をしているように見えた。
エリーの部屋に着くと、丁度ティーパーティーが終わったところで、召し使い達が片付けを始めていた。
エルマも帰り支度を済ませていた。
僕に気づくと労いの言葉をかけてくれる。
エルマ:「お疲れさま。」
エルマ:「ん?ジア様、とても嬉しそうに見えるのですが…何かあったんですか?」
ジア:「フフッ、秘密っ。」
おどけて見せるジア。
そして僕の手を握りながら…
ジア:「ヒロ?また明日ね?」
ジアの笑顔につられて僕も笑顔になってしまう。
今日一日の疲れが吹き飛ぶ感じがした。
よしひろう:「はい。また明日!」
城を出て、エルマを抱き上げ空へと舞い上がり帰路につく二人。
エルマ:「ジア様に気に入られたみたいね。」
よしひろう:「そうか?」
エルマ:「うん。というか、この国の未来を託している。そんな気がするわ。」
よしひろう:「重いなぁ…」
エルマ:「逃げる?逃げるのなら一緒に逃げてあげてもいいわよ?」
よしひろう:「……」
エルマの提案に黙してしまう僕。
エルマと一緒に…その誘惑に惑わされそうになる。
でも…でも…
逃げる?ここは僕の世界だ。
逃げられる訳がないじゃないか。
屋敷に着き、手を振って別れる二人。
エルマの問いかけには結局答えられ無かった。
どう答えるべきだったのだろうか?と考えながら屋敷の中へ入る。
すると雑嚢からレギオナが飛び出し、僕に話しかけてきた。
レギオナ:「主殿…」
よしひろう:「ん?何?」
レギオナ:「何故自身の力を信じていないのですか?」
よしひろう:「うーん…僕に力があるってこと?」
レギオナ:「前にも話をしました。主殿には私を遥かに凌駕するほどの力があることを。」
よしひろう:「うん。その話、覚えているよ。」
よしひろう:「でもね、情けない話だけどさ、その力の出し方が分からないんだ…」
レギオナ:「はぁ…それならそうと仰っていただければ手助け出来ましたのに。」
そう言うとレギオナは両手の掌を開き僕の方に向けた。
レギオナ:「私を殴ってみてください。」
僕は言われるがままレギオナを殴る。
レギオナは掌でそれを簡単に防ぐ。
防ぎつつ「もっと早く!」と指示をだす。
精一杯早く拳を突き出すが、レギオナの要求は止まらない。
レギオナ:「もっと早く!もっと!」
よしひろう:「これで目一杯だ!」
と根を上げた。
レギオナ:「それでは交代しましょう。」
レギオナ:「私の拳を全て受けてください。いいですか?」
よしひろう:「うん、いいよ。」
僕は掌を開き胸元で構えた。
最初はゆっくりとパンチを繰り出すレギオナ。
レギオナ:「このくらいなら余裕ですわね?」
よしひろう:「あぁ、余裕、余裕。」
レギオナ:「少しずつ早くしていきます。」
「パパパパパパパッ!」
掌に拳があたる軽快な音が屋敷に響く。
今がなんとか全てを受けている状態。
レギオナ:「もっと速度を上げますわよ。」
「スパパパパパパパパパッ!!」
全てを受けきれず、体に何発もパンチを食らう。
レギオナ:「諦めずに!自分を信じて!!」
レギオナの言葉を信じて「もっと早く!」と心の中で必死に念じる。
段々とレギオナの放つ拳が見えてきて、それに合わせて掌を動かすことができるようになってきた。
レギオナ:「もう少し速度を上げます。」
「シャアアアアアァァァァァァ!!!」
さらに速度を上げたレギオナの拳。
防ぎきれず何発も食らうが、これも段々と慣れてきて防ぐ事ができるようになってきた。
レギオナ:「どうです?私の拳が見えていますか?」
よしひろう:「み、見えてる!」
レギオナの拳を完全に見切れるようになった時、レギオナが今度は自分を殴るよう提案してきた。
言われるがままレギオナの掌に向けて拳を放つ。
レギオナ:「もっと早く!もっと!」
よしひろう:「もっと、もっと早く!!」
自身に言い聞かせながら速度を上げていく。
驚く事に気がつくとレギオナが放ったのと同等の速度で拳を放っていた。
レギオナ:「出来ましたわね。」
と言って笑顔を見せる。
レギオナ:「もっと自分の内に秘めた力を信じてください。主殿。」
よしひろう:「ありがとう、レギオナ。」
よしひろう:「不甲斐ない主人でゴメンな…」
レギオナ:「大丈夫です。自分を信じて…」
レギオナ:「私を活用してください。」
疲れたのかよろめいてレギオナの体に倒れかかる僕。
僕の体を受け止め、耳元で囁くレギオナ。
レギオナ:「行ってらっしゃい…」
優しいその言葉を聞きながら…
意識が遠退いていく。
目が覚めた。
つまらない現実世界がはじまるのだ。
ため息をつきつつ身支度をする。
親の「起きろ!ご飯じゃ!」
という不快な声を聞きながら階下のキッチンへと降りていく自分。
そう、ここは僕の大嫌いな世界だ。
祖父が亡くなった。
三年前の話。
外面が良く家族を省みなかった祖父が六年ほど前に脳卒中で倒れ、半身不随の状態で三年頑張った末での他界でした。
母から聞いた話では、人として碌でもない人間だったようで。
ただ、顧みると「寂しかったんじゃないかな…」とポツリと呟く母。
その祖父の妹さんから聞いた話では、「お兄ちゃん、小説家になりたかったらしいよ」と。
若い頃は親に反発して特攻隊に志願したりした祖父。
生まれる時代が違えばもう少し違った人生が送れたんじゃないかという思いを抱く。
生前にこの「なろう小説」を知っていたら、執筆したのだろうか…
そう思うと残念でならない。
気難しいが為に縁遠かった祖父。
僕の書く小説など恥ずかしくて祖父には見せられないな(苦笑)




