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続・夢の中だけ勇者さま?  作者: 菅原よしひろう
王都攻防戦
16/34

僕は夢を見た(72) エリザベートの憂鬱

いつものようにエリーから借りた屋敷の自室で目覚める僕。

カーテンの隙間から優しい朝の光が差し込んでいる。

起き上がり、身支度をする。

そろそろエルマが朝食に誘いに来る頃だ

案の定、ドアノッカーを叩く音が聞こえた。

階下に降り、玄関のドアを開けるとエルマがニコニコしながら立っていた。


エルマ:「おはよう。朝食よ。」

よしひろう:「あいあいさー(笑)」


エルマの後について行く。

朝食が終わったところでエルマが話を切り出した。


エルマ:「今日、エリーのところで女子会があるの。」

よしひろう:「へー。」

エルマ:「連れて行ってもらえないかな?」

よしひろう:「いいよ。」

よしひろう:「で、いつ?」

エルマ:「これから。」

エルマ:「着替えるから、ちょっと待っててね。」


そう言うとエルマは着替えに自室へと向かった。

待つこと数分。

エルマは僕が初めて会った時に着ていた薄い黄色のドレスに着替えてきた。

顔にはほんのり薄化粧。

思わず見とれてしまう程の美少女だ。

こんな美少女に「貴様っ!」って怒鳴られたのを思い出して少し苦笑い。


エルマ:「ん?どうしたの?ニヤニヤして。」

よしひろう:「ニ、ニヤニヤしてたか?俺!?」

エルマ:「ヒロは考えてる事が直ぐに顔に出るから分かりやすくて面白いわ(笑)」

よしひろう:「うーむ…」


これは失態だ。

自身の身を正さねば。


エルマ:「さぁ、行きましょうか?」

よしひろう:「あいあいさー。」

エルマ:「その「あいあいさー」って何?」

よしひろう:「「了解しました」って意味だよ。」

エルマ:「ふーん…。ヒロのもう一つの世界での言葉?」

よしひろう:「そう。」


エルマを抱っこし、空へと飛び上がる。

朝の涼しげな風が心地よい。


よしひろう:「そのドレスだと寒くないか?」

エルマ:「そう思って一枚羽織ってるから大丈夫。」

よしひろう:「この間の傷、痛んだりとかしてない?」

エルマ:「全然平気。前より何だか元気になったような気がするわ。」

よしひろう:「マジか(苦笑)」


そうこうするうちに王城の門までたどり着いた。

衛兵に通行許可証を見せ、エリーに会えるよう手続きをする。

エリーの部屋の前にある待合室に通される僕とエルマ。

衛兵はその場にいたセナに何やら話をし、立ち去って行った。


セナ:「おはよう。」


にこやかに挨拶をしてくるセナ。


よしひろう:「おはよう。」

エルマ:「おはようございます。」


セナ:「姫様は今、着替え中なの。」

セナ:「申し訳ないけど、もう少し待っててね。」

よしひろう:「はい。」


セナが少し考える仕草をし、僕に質問してきた。


セナ:「よしひろうって、この世界の人じゃないの?」


言葉につまる僕。


よしひろう:「はい…」


セナが続けて質問してくる。


セナ:「見たこともない赤い鎧姿に変身したけど…あれは何?」

よしひろう:「僕にもよくわからない。ただ、あの姿は僕のもう一つの世界での戦闘服かな?」

セナ:「へぇー。興味が尽きないわね。」


しばらくするとエリーの部屋の扉が開き、エリーが現れた。


エリー:「よく来たのう。」

エリー:「ヒロもよう来た。」


駆け寄ってきて僕の胸に顔を埋めるエリー。


エリー:「変わりはないか?」

よしひろう:「いつもどおりですよ(笑)」

エリー:「あんな事があった後だから心配しておったのじゃ。」


あんな事とは、サザーランドとの一戦の事だろうとは理解できた。

自分が自分ではなくなった時の事だ。


よしひろう:「大丈夫です。ありがとう、エリー。」


そう答えると、エリーが僕の胴に手を回し、ギューっと抱き締めてきた。

僕は優しくエリーの頭を撫でてやる。


よしひろう:「今度、また一緒に空を飛びましょう。」


僕の胸に顔を埋めたまま頷くエリー。

エリー付きの召し使いが声を掛けてきた。


召し使い:「立ち話も何ですから中でお話をしてはいかがですか?」


エリー:「そうじゃの!」


エリーは僕の顔を見ると少し寂しそうな顔をした。

そして申し訳なさそうに言った。


エリー:「今日は女子会なんじゃ…」

エリー:「ヒロには悪いが席を外してもらえんかの?」

よしひろう:「あああ…」

よしひろう:「そういう事ですか(苦笑)」


エルマに向き直り質問する僕。


よしひろう:「いつ頃迎えに来ればいい?」

エルマ:「え?えーっと…夕方?4時くらいかな?」

エリー:「そうじゃの、だいたいそのくらいの時間じゃな。」

よしひろう:「了解しました。」

よしひろう:「ちょっとテラスをお借りしてもいいですか?」

エリー:「良いぞ。」


テラスから空へと舞い上がる僕。


よしひろう:「それじゃ、4時に!」

エルマ:「あいあいさー!」

エリー:「あいあいさー?」


聞きなれない言葉に怪訝な顔をするエリー。

僕はそのまま武器屋へと向かった。

一ヶ月前に頼んでおいた刀の偽装を受けとるために。

武器屋に到着し、店内へと入る僕。

それを店の主人が見つけて声を掛けてきた。


店主:「旦那!よく来てくださった。」

店主:「おい!皆の衆!ワシらの命の恩人が来て下さったぞ!!」


店の奥から職人達が手を休めて表へ出てきた。

一斉に握手を求めてくる職人達。

あまりの歓迎ぶりに面食らう。

王都での怪物達との攻防戦の話が街中に広まっているようだ。


よしひろう:「あの…頼んでいた刀の偽装は出来てますか?」

店主:「おう!最高の逸品が出来てるぜ。」

店主:「早速着けてみようじゃないか!」


店主へと刀を差し出す僕。


その頃、女子会では…


エリーとエルマとセナが丸いテーブルを囲って席に付いていた。


エリー:「エルマ、傷はもう大丈夫なの?」

エルマ:「はい。何ともありませんわ。」

エリー:「一度は死んだ身なのに…やはりヒロは勇者であったの!」

エリー:「聞きにくい話じゃが…死んだ時とはどんな感じじゃった?」

エルマ:「え!?えーっと…朧気ですが…」

エルマ:「自分の身体を離れて見ていたような気がします。」

エリー:「ほぉぉ!!なんとも不思議よのう。」

セナ:「あの時は私もついていながら何もできませんで。」

セナ:「申し訳ありませんでした!」


深々と頭を下げるセナに、困惑した表情を見せるエルマ。


エルマ:「き、気にしないでください。」

エリー:「それにしても不思議なのはヒロの力じゃ。」

エリー:「死した者を蘇らせるとは。」

エリー:「しかも王国最強のジア姉様を屈服させる力までもっておる!」

エリー:「まさに勇者なのじゃ。」


その言葉にその場の全員(召し使いを含めて)が頷いた。

テーブルに置かれた紅茶を一口飲み、エリーが話の核心を突いた。


エリー:「でな?」

エルマ:「?」

セナ:「?」


エリー:「母様から言われたのじゃが…」

エルマ:「はい…」

エリー:「ヒロを婿にしてはどうか?と…」

エルマ:「なりません!(4倍角文字で)」


エルマのあまりの大きな声にビックリするエリー。


エリー:「な、な、何故じゃ?」

エルマ:「身分が違いすぎます。」

エルマ:「一国の皇女たる者が平民と結婚するなどもっての他です!」


うつ向きションボリするエリー。


エリー:「そうかのう…?」

エルマ:「そうですとも!私のような貧乏貴族と結婚するならまだしも、皇女様とは釣り合いが取れませんわ!」


ん?と眉を潜めるエリー。


エリー:「今、何かシレッと変な事を言わなんだか?」

エルマ:「え!?い、いや…そんな事は…ないと思いますが…」


顔を紅潮させて黙り混むエルマ。


そこに「エリー!おっはー!!」

と元気のよい掛け声とともに部屋に入って来たのはエナことエカテリーナだった。

その後ろにはモジモジしながらジアことフリージアも一緒だった。


エリー:「姉様!おはようございます。」


エルマとセナは席を立ち挨拶をする。


エルマ:「おはようございます。」

セナ:「おはようございます。」


すぐにエリーの召し使いが、エナとジアの椅子と紅茶を用意した。

エリーの頭を撫でながらエナが質問する。


エナ:「何の話をしていたのかな?」


エリーが少し頬を染めながら答えた。


エリー:「ヒロの話。」

エナ:「へぇー。あのエリーの勇者様の話か(笑)」


少しからかうような仕草を見せるエナ。


エナ:「で?ヒロがどうしたの?」

エリー:「母様が婿にって…」

エナ:「えぇぇぇ!?(8倍画文字で)」


紅茶を吹き出しそうになりながら、驚きを隠さないエナ。


エナ:「婿にって、誰の婿?」

エリー:「エリーの…」

エナ:「ダメよ!」


即答で返すエナ。


エリー:「な、な、なんでなのじゃ?」

エナ:「ヒロは私が狙っているんだもの!」


臆面もなく答えるエナにエリーとエルマが凍りつく。


エリー「なんと!?」

エルマ:「何ですって!?」


人差し指を立てて説明を始めるエナ。


エナ:「亡国の危機を救った勇者でしょ?国民からも愛されているわ。」

ジア:「あの…(モジモジ)」

エナ:「それに何と言うか、あの少し頼りなさげな所が母性をくすぐるのよね。」

ジア:「ねー…(モジモジ)」

エナ:「まあ、顔は60点で冴えないけれど、そこもいいわ。」

ジア:「もー…(モジモジ)」

エナ:「顔も知らない隣国のバカ王子と結婚させられるくらいなら、ヒロと結婚する方が100倍良いに決まってるじゃない!」


エナの言葉に全員唖然とした。

言っていることは確かに的を射ている。


ジア:「聞けぇぇぇ!!!(16倍角文字で)」


ジアの突然の叫びに全員がビクッとする。


ジア:「あの男は王国最強と言われていた私を倒した男だ!!我が婿にするのが相応しい!!」

ジア:「それにだ。エナ、エリーよ、知らぬ者に嫁がされる事を考えたくはなかろう?」


頷くエナとエリー。


ジア:「だったら、我ら皇女全員がヒロを婿に迎えればいいではないか!」


エリー:「ええええええ!?」

エナ:「ジア姉様、頭いい!」


意を決してエルマが言い放つ。


エルマ:「それでは私が困ります!」


ジア:「ん?何故だ?何ならエルマもヒロに嫁げばよいではないか?」


エルマ:「そ、その手があったか!!」


その話にセナも反応する。


セナ:「その話、私も乗った!」

エリー:「ええええええ!?セナまで!?」


話がどんどんと混沌(カオス)化していく。


エリー:「ヒ、ヒロは私を選んだと母様が仰ってたのじゃ!」

エリー:「誰が良いかはヒロが決めることよの?エルマ?」


「コホン」と咳払いを一つしてエルマが口を挟む。


エルマ:「私はヒロとキスをしました。」

エリー:「な!?何じゃと!?キ、キ、キスぅ!???」


頭が爆発するエリー。

ジアが不適な笑みを浮かべてそれに応える。


ジア:「蘇生の際の口づけ、アレは紙風船をプーッと膨らませたようなものだ(笑)」

エルマ:「ち、違います!!あの後にキスをしたんです!!」


顔を真っ赤にさせて反論するエルマ。


その頃武器屋では…


店主:「どうでい?旦那?」

よしひろう:「確かに、特注した甲斐がありましたよ!!」

よしひろう:「見間違えるほどカッコよくなりました!!」

よしひろう:「お代はいかほどでしょうか?」


手持ちが少なかったため怖る怖る聞いてみる。


店主:「国を救った勇者様からお代はいただけないよ!」

よしひろう:「え!?いいんですか?」

店主:「あたぼうよ!」

よしひろう:「ありがとうございます!!」


時刻は4時になろうとしていた。

約束の時間に遅れないよう、エリーの部屋のテラスへと向かう。

テラスに舞い降りるよしひろう。

その腰には生まれ変わったように美しくなった刀が一振り。

テラスから部屋に入ると3人の皇女とエルマ、セナ、召し使いが何やら揉めているような、そうでないような…

僕を見つけたジアが僕に歩み寄ってくる。


よしひろう:「えっと…な、何事でしょうか?」


と言った矢先にジアは僕の後頭部を鷲掴みにし、自分の顔に引き寄せた。

そしてディープなキス…


「ヒョー!?」


その場の皆が目が点になる。


キスを終えるとジアはエルマに向き直り言い放った。


ジア:「キスが何だって?(笑)」

エルマ:「な!?(驚愕)」

よしひろう:「!????」


エナが深いため息をつきつつ言う。


エナ:「ジア姉様にはかなわないわ~」

エナ:「今日の所は解散、解散っと。」


エナの言葉に促され、皆が自室や持ち場へと戻っていく。


エリーもため息をつきつつ聞こえないような小さな声で一言。


エリー:「私もキスしたいのぅ…」


エリーの憂鬱はまだ始まったばかりだった。

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