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続・夢の中だけ勇者さま?  作者: 菅原よしひろう
王都攻防戦
15/34

僕は夢を見た(71) 内に秘めしその力

ここは僕の夢の中の世界。

薄暗い中、カーテンの隙間から優しい光が入ってくる部屋で目を覚ます僕。

後頭部に柔らかく温かな感触がする。

前にも同じような感触を味わった事を思い出す。

そう、これは膝枕の感触だ。


よしひろう:「レギオナ?」


僕は小さな声で呟き、目を微かに開けて上を見る。

ぼんやりと見える人影。

段々と輪郭がはっきりしてくる。


よしひろう:「エルマ…?」


僕を膝枕してくれているのはエルマだった。

これは僕の記憶の残滓だろうか?

もう二度と会えないと思っていた彼女が目の前に居る。

僕の瞼から涙かこぼれ落ちた。


よしひろう:「ごめん、エルマ。守ってあげられなくて。」


エルマは何も言わずただ微笑んでいる。


よしひろう:「僕がもっとしっかりしていれば、君を失うことは無かった…」

よしひろう:「僕に力が有れば死なせずにすんだ…」


とめどなく流れる涙でエルマの姿がぼやけてくる。


エルマ:「ヒロ、そんなに自分を責めないで。」


僕の頭を撫でながら優しく語りかけてくるエルマ。


エルマ:「あれは私がそうしたかったから。私がヒロを守りたかったから。」


僕は左手でエルマの頬に触れる。

その左手を上から被せるように手で触れるエルマ。


エルマ:「だからヒロは何も悪くない。」

エルマ:「大丈夫。大丈夫…」

エルマ:「自分を責めないで。ね?」


そういうとゆっくりと僕に顔を近づけて来た。

僕の唇とエルマの唇が触れあう。

長い長い口づけ。

悲しさのあまり泣き出してしまう僕。

エルマは顔をあげると遠くを見るような素振りで呟いた。


エルマ:「そろそろ行かないと…」


その言葉に動揺する僕。

声を振り絞るように呟いた。


よしひろう:「行かないで…」


しばらくの沈黙。


レギオナ:「エルマ様、それくらいにしておいてくださいませんか。」

よしひろう:「レギオナ?」


涙を拭きエルマの顔を見ると、悪戯っ子のように舌をちょっと出して笑っていた。


よしひろう:「エルマ?本当にエルマ?」

エルマ:「ええ、私よ。」


そういうと僕の左手を頬からエルマの左胸に当てた。

掌から心臓の鼓動を感じる。


僕はガバッっと上体を起こすとエルマをギュッと抱き締めた。

涙が溢れてくる。

今度の涙は嬉し涙だ。


よしひろう:「よかった…」

エルマ:「私が助かったのはヒロのおかげよ?」

よしひろう:「そうなの?僕、全然覚えていなくて…」


レギオナがベッドの傍らに座る。


レギオナ:「主殿は何も覚えていないのですか?」

よしひろう:「うん…」


顎に手をやり少し考え込むレギオナ。

そして提案をしてきた。


レギオナ:「私の見た記憶を主殿に流し込みましょうか?」

よしひろう:「そんな事ができるの!?」

レギオナ:「はい、出来ます。」

よしひろう:「やってくれ。よろしく頼む。」

レギオナ:「御意。」


レギオナが僕に近づく。


レギオナ:「目を閉じていてください。」


そういうと、額と額を合わせて来た。

僕の意識の中に映像が流れ込んでくる…


サザーランド:「それに、ここにいる全員皆殺すしな!(笑)」

サザーランド:「アヒャヒャヒャヒャ」

よしひろう:「ぶっ殺す!!!」

よしひろう:「なぶり殺す!!!」

よしひろう:「うぉぉぉぉぉ!!!!!」


雄叫びを上げる僕の姿がそこに有った。

しかし、突然両手をダラリと垂れ下げ動かなくなる僕。

抑揚の無い声で呟いた。


よしひろう:「セーフティーモード発動…」

よしひろう:「リミッター解除、レベル1。」


その言葉と同時に仁王立ちになる僕。


よしひろう:「装備装着。」


僕の体全体が炎に包まれた。

そして下半身から上半身に向けて順に炎がパンッと弾けると同時に防具が現れる。

軍足、すね当て、腰、籠手、胸当て、兜。

真っ赤な鎧武者の姿へと変身した。

赤備えだ。


その場にいた全ての者が驚愕の表情を見せる。


エリー:「な、なんと!?」

エナ:「いったい何が起きているの!?」


僕は倒れているエルマの横に立ち、レギオナに命令した。


よしひろう:「ワガ僕ヨ…」

レギオナ:「はっ!」

よしひろう:「マダ間ニ合ウ。コノ娘ノ装備ヲ全テ外セ。」

レギオナ:「御意!」


レギオナはエルマの上半身に身に付けている物全てを外していく。


サザーランド:「へっ!たかが姿が変わったぐらいで!」

サザーランド:「この俺様を無視して何様のつもりだぁ?」


レンジャーの防御を突破し再びよしひろうに切りかかるサザーランド。

鎧の隙間を狙い、左肩にナイフを突き立てる。


サザーランド:「ヘッ!ザマアねえな(笑)」


よしひろうの左拳がサザーランド目掛けて振り払われる。


サザーランド:「そんな鈍い拳が当たるかよっ(笑)」


と言った瞬間、サザーランドの頬によしひろうの拳がめり込んだ。


「ブフォッ!」と言う悲鳴にも似た言葉にならない音を発しながら数メートル先の壁に吹き飛んでいくサザーランド。

壁にぶち当たったところで、よしひろうが左腰に装備していたクナイをサザーランド目掛けて投げ放つ。

クナイはサザーランドの右手の掌を貫き、壁へと突き刺さった。


サザーランド:「ギャァァァァァ!!!」


あまりの激痛に悲鳴をあげるサザーランド。

よしひろうは左肩に刺さったナイフを自ら引き抜きその場に落とす。

カランという音とともに床に転がるナイフ。

そして再びエルマの方に向き直り刀を抜きしゃがみ込む。

エルマはレギオナによって上半身裸の状態になっていた。

その左胸には深い刺し傷が見える。

抜いた刀を左手に持ち直し、右の掌のスッと切る。

掌から滴り落ちる血をエルマの刺し傷に流し込むと傷口が淡い光とともに修復されていく。

傷口が完全に塞がると次にエルマの上体を抱き上げ、兜の頬当てを外し、エルマの唇に唇を重ねた。

「フゥー」っとエルマに息を吹き込むよしひろう。

よしひろうの口から光る物がエルマの体内へと入って行く。

「ビクッ!」っと体を仰け反らせるエルマ。

心臓の鼓動が再開され、血の気が戻ってくる。

生き返ったのだ。

エリーがエルマの元に駆け寄り、涙を流しながらエルマを抱き締めた。

意識を取り戻すエルマ。


エルマ:「エ、エリー…?」


その時、サザーランドは何とか右手に刺さったクナイを抜こうとしていたが、びくともしない。

かえって動く度に起きる激痛で悲鳴をあげていた。

エルマを蘇生させたよしひろうは頬当てを再び装着し、ゆっくりとサザーランドの方へ向き直す。

左手で鞘を掴み、右手を水平にして刀を下に向けた独特の構えをするよしひろう。

その構えのまま無言でサザーランドへと近づいていく。


サザーランド:「ヒィィィィ!」

サザーランド:「メ、メス一匹に本気になるこたーねーよな。な?(笑)」


あまりの恐ろしさに悲鳴をあげ、ひきつった顔でふざけたように笑うサザーランド。


エナ:「ヒロ!その男を殺しちゃダメ!!」

よしひろう:「否。」

エナ:「ヒロ!ダメ!!」


よしひろうがサザーランド目掛けて刀を振り下ろした瞬間。

「ガキン!」

ジアがその刀を剣で受け止めた。

恐怖で失禁するサザーランド。


ジア:「ヒロ!我らが言葉が聞こえぬのか!?」


ジアの方を向くよしひろう。


よしひろう:「何故邪魔ヲスル?」

ジア:「…そなた、よしひろうではないな?」

よしひろう:「如何ニモ。我ハ「一型隼ノ風」ナリ。」

ジア:「ジア:「風?…刀か?」

よしひろう:「肯定。」

ジア:「何故よしひろうの身体を乗っ取ったのだ?」

よしひろう:「我ヲ造リシ神ヨリ与エラレシ使命。」

ジア:「使命とは?」

よしひろう:「使命トハ我ガ主ヲ守ルコト。」

ジア:「エルマを蘇生させたのもそなたか?」

よしひろう:「否。我ガ主ノ持ツ力ヲ使用シタ。」

ジア:「その姿もか?」

よしひろう:「肯定。」


ジアの質問に答えると再びサザーランドに刀を向ける。


ジア:「その男を殺すというのなら、私を倒してからにしろ!!」


剣をよしひろうに向けるジア。


よしひろう:「承知。」


サザーランドの手に刺さったクナイと自身とを繋ぐワイヤーを刀で切り離す。

そしてジアに向き直り、先程と同じ構えをする。

対峙するジアとよしひろう。

ジアが先に仕掛ける。

剣を右に左にと繰り出し、よしひろうの隙を窺う。

しかし、その全てを軽く受け流し隙一つ見せない。

よしひろうが剣を受け止めた瞬間、ジアが剣を滑らせ、よしひろうの懐深く潜り込む。

それを見透かしたかのごとくジアの右手を左手で掴み足払いをして転倒させるよしひろう。


ジア:「クッ!」


倒れたジアによしひろうの渾身の一撃が振り下ろされた。

その一撃を何とか防ぎ、態勢を整えるジア。


エナ:「まさか…ジア姉様が押されているなんて…」

エリー:「王国最強のジア姉が!?」

ジア:「ドレスが邪魔をする!」


そう言うとドレスの裾を剣で切り裂いた。

再び激しい剣の応酬が繰り広げられる。

一寸の隙もないよしひろうに疲労の色を滲ませるジア。


ジア:「もはやこの手を使うしかないか…」


ジアは中腰になり剣を腰の左の位置に持ってきた。

その切っ先はよしひろうに向けられている。


エナ:「そ、その構えは!!」

エナ:「ジア姉!ヒロを殺す気!?」


エナがジアに駆け寄ろうとするのをフローラが制止した。


ジア:「こうでもしないと勝てないの!」

エナ:「だ、だからって…」


フローラの腕の中で涙ぐむエナ。

刀を構え直しジアに対峙するよしひろう。


ジア:「我が剣は虚、我が刃は空。」

ジア:「そは朧なる残光の如く。」


言葉を発しながら意識を集中していく。

そして、一気によしひろうの間合いに入って行く!


ジア:「秘剣!月光!!!」


ジアの剣が残像を残しながらよしひろう目掛けて振り払われた。


よしひろうの刀がジアの剣を受け止めたように見えたが、剣は刀をすり抜けてよしひろうの首目掛けて突き進む。


「ガキッ!!」


その剣の切っ先が首をかすめようとしたその時、よしひろうが左の籠手に付いた鉤爪でジアの剣を受け止めた。


ジア:「ク!この剣ではこれが限界か!」


よしひろうはすかさず右の籠手の鉤爪も剣に掛け両手を広げるように力をかける。


「バン!!!」


凄まじい音を出して折れるジアの剣。


ジア:「ば、馬鹿な!?」


剣を折られ呆然とするジアの首筋ギリギリ目掛けて強烈な突きを放つよしひろう。

そのあまりに強烈な突きに恐怖心からか、剣を手放し呆然としてその場にへたり込むジア。

ジアとの一戦を終え再びサザーランドに向かうよしひろう。


レンジャー:「よしひろう殿、お止めください。」


制止するレンジャーを振り払いサザーランドの下へとたどり着く。


サザーランド:「た、頼む!助けてくれ!!何でもする!!」


サザーランドの言葉を無視し、刀を振りあげるよしひろう。


エナ:「お願い!止めて!!」


涙ながらによしひろうに訴えかけるエナ。

しかし、その言葉を無視して刀が振り下ろされた…


「バキッ!!」

サザーランド:「ギャーーー!!」


あまりの痛みに叫び声をあげるサザーランド。

刀の峰でサザーランドの両足の脛を強打したのだ。

脛の骨を粉砕されのたうちまわるサザーランド。


よしひろう:「コレデ最早逃ゲレマイ。」


そう言うと刀を鞘に収め、サザーランドの右手に刺さっていたクナイを抜き腰に戻す。


よしひろう:「姫ヨ、ソナタノ願イ聞キ入レタゾ。」

エナ:「あ、ありがとう!」

よしひろう:「我ガ主ガ目覚メルヨウダ…」


よしひろうの身に纏う赤備えの鎧がパーンという音とともに赤い火の粉となって消え去る。


ジア:「「風」よ!またそなたと一戦合いまみえたい。叶うか?」

よしひろう:「時ガ来レバ。」

ジア:「楽しみに待っているぞ!」

よしひろう:「承知。」

よしひろう:「サラバダ。強キ姫ヨ。」


よしひろうの体が光の粒子となり消えて行く。

その姿をその場にいた全ての者が唖然としながら見守っていた。


エリー:「勇者とは姿も消せるものなのか!」

エルマ:「ヒロ…」


映像がここで途絶えた。

そして、そのまま僕の身体を抱き寄せムチュっと唇を重ねてくるレギオナ。


よしひろう:「!?」

エルマ:「!!!」


エルマ:「どさくさに紛れて何をしているの!?」

レギオナ:「あら?エルマ様と同じことをしたまでですわ?」

レギオナ:「主従の誓いをしたのですから、主殿を悦ばせるのも従者の役目ですから。」

レギオナ:「それとも妬いてらっしゃるのですか?(笑)」

エルマ:「ななな、なんですって!?」


顔を赤くして怒るエルマ。

クスクスと笑いながらエルマをからかうレギオナ。


レギオナ:「以上でございますわ。主殿。」


僕は頭を抱えていた。

エルマやレギオナとキスした事など頭から吹き飛んでいた。

先日起床した時に掌と左肩に痛みが有った理由は分かった。

が、まさか僕にあのような隠された能力があったとは。

能力の事を質問されても正直な話、僕には説明しきれない。


よしひろう:「エリー達の目の前で姿を消した事についてはどう説明しようか?…」

よしひろう:「つーか、「風」だっけか?おまえ、なんて事をしてくれたんだ!」


刀に向かって悪態をつく僕。

いやいやいや…

そんな事よりも皇女様との事の方が気になる。

操られていたとはいえ、第一皇女と剣を交えたその事実に。

冷や汗が頭の全ての毛穴から吹き出るような感覚。


よしひろう:「こ、これは…姫様に大変な無礼を働いてしまったんじゃないか?…」

エルマ:「ジア様とのこと?」

よしひろう:「うん…」

エルマ:「ジア様なら気にしてないと思うわよ?」

よしひろう:「そうかな?(汗)」

エルマ:「だって、すごく喜んでいたもの。」

エルマ:「やっと自分より強い男が現れたー!って。」

よしひろう:「マジで?」

エルマ:「マジで。」


少し冷静になって、今の幸福感に僕は気づいた。

エルマが生きていた。

こうやって再び会話をすることができる喜び。

例えそれが他愛もない会話だとしても。

僕の涙腺が再び緩んでくる。


エルマ:「ヒロ?」

よしひろう:「ん?」

エルマ:「朝食まだでしょ?食べてく?」

よしひろう:「はい!いただきます!」

エルマ:「それじゃ、行きましょうか?」

よしひろう:「うん。」


エルマの後をついて行く僕。

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