僕は夢を見た(68) 王都攻防戦
玄関の扉を強く叩く音で目が覚める。
ここは夢の中の世界。
二階の自室から一階へと下り、玄関の扉を開ける。
外はザーザー降りの雨。
雨に濡れないようフードを被った男が二人玄関の前に立っていた。
男A:「よしひろう殿か?」
よしひろう:「はい。」
男B:「陛下の命でよしひろう殿をお迎えに参りました。」
よしひろう:「陛下の命?…」
寝起きでどうも意識が判然としない。
そこにエルマも現れた。
エルマ:「早く着替えてらっしゃい!」
と僕の向きを屋敷側へと向き直させ、背中を強く押す。
自屋へと戻り肌着から戦闘服である忍者スーツへと着替える。
剣と刀を装備する頃には意識もハッキリしていた。
颯爽と一階へと下りる。
よしひろう:「陛下の命?何かあったの?」
男A:「王都が怪物共に囲まれてしまっているのです!」
男B:「その数は数万とも…」
よしひろう:「マジか!?」
僕は陛下の使者の話を聞き、狼狽してしまった。
フードを被り確認のためにエルマを連れて空へと飛翔する。
王都の周りにある城郭の外に無数の蠢く物が見えた。
まるで虫に集る蟻のように城壁の外側にビッシリとそれらは存在した。
城壁の上に降り立ち、下を覗くとゴブリンやオークが一心不乱に城内を目指して蠢いていた。
城壁や城門の扉を手にする武器で殴りつける怪物達。
組織されたような動きではなく、何かに憑依されたかのように見える。
あまりの異様さに愕然とする二人。
城門はボロボロになりつつも、魔法使いの放つプロテクションの魔法によってなんとか持ち堪えていた。
よしひろう:「これは…」
エルマ:「陛下の所に急ぎましょう!」
王城の守衛に話をし、国王陛下との謁見の間に通される僕とエルマ。
そこには陛下、王妃、そしてエリー達三人の皇女が不安げな顔をして僕の到着を待っていた。
陛下の側には数人の騎士と魔法学校の校長先生、そしてレンジャーが一人控えている。
僕の姿を見るや否やエリーが駆け寄って来た。
エリー:「ヒロ!」
僕の胸に飛び込み顔を埋めるエリー。
その体をソッと抱き締める。
陛下:「よくぞ来てくれた。」
よしひろう:「陛下、これはいったい何事でしょうか?」
僕の質問に魔法学校の校長が答える。
校長:「憶測だが、黒の魔封石の力を解放した者の仕業かもしれん。」
校長:「アレにどのような力が秘められているのかは誰も知らぬのでな。」
陛下:「今、レンジャーに命じて黒の魔封石の在りかを調べさせておるのだ。」
陛下:「しかし、このままではこの王都がもたぬのだ。」
校長:「食料などを郊外に頼りきっているのでな。この状態が続くと三日ともたぬのじゃ。」
陛下:「騎士や兵士達は城壁を守るだけで精一杯の状況でな…」
陛下:「お主達しか頼れる者がおらぬ。どうか活路を開いてもらえぬだろうか?」
エルマ:「お任せください。」
よしひろう:「はい。なんとかやってみます!」
そう言いながらエリーの頭を撫でる。
よしひろう:「エリー…怖がらなくてもいいよ。大丈夫。なんとかする。」
エリー:「ヒロだけが頼みの綱なの。」
セナ:「よしひろう、エリザベート様は私がこの命に変えてでも守ってみせるわ。」
セナ:「だから、あなたはあなたにしかできない事に集中して欲しい。」
よしひろう:「ああ、わかった。」
出陣を前にレギオナと連絡をとる。
よしひろう:「(レギオナ、今どこにいる?)」
レギオナ:「(主殿の雑嚢の中に居ますわ。)」
よしひろう:「(いつの間に!?)」
少し驚く僕を怪訝そうに見つめるエルマ。
よしひろう:「エルマ、行くぞ!」
エルマ:「了解!」
謁見の間を出て、城を後にする。
外は相変わらずのザーザー降りの雨…
僕の首に手を回し、背中にしがみつくエルマ。
よしひろう:「飛翔!」
空高く舞い上がり周囲の状況を確認する。
西の門の方が森に近いせいか怪物が多くいるようだ。
怪物達は折り重なり城郭を越える勢いだった。
エルマ:「西の城門が突破されそうだわ!」
よしひろう:「よし!西に向かう!」
エルマ:「了解!」
西門の外郭にエルマを降ろす。
そこには必死にプロテクションを発動させ門を守っているロイ達魔法使いが数人いた。
疲労で倒れそうになりながらも僕らを見て笑顔を見せるロイ。
ロイ:「遅いじゃないか(苦笑)」
エルマ:「この程度でへばるようじゃ王家直轄の魔法部隊にはなれなくてよ(笑)」
エルマが西門にプロテクションの魔法を張る。
僕は刀を抜き、折り重なって今にも城郭を越えそうな怪物達に向け意識を集中させる。
すると城壁スレスレに赤く丸い魔方陣が現れた。
一気に力を解放する。
よしひろう:「爆砕陣!!」
魔方陣の内部で猛烈な爆発が起こり、内部の物を焼き付くし、粉々に粉砕する。
怪物の折り重なった山を消し炭にしたが、すぐにまた怪物達の山が出来始める。
よしひろう:「チッ」
よしひろう:「(レギオナ!エルマ達を守ってくれ!)」
レギオナ:「(御意!)」
雑嚢から梟が羽ばたき、エルマの所へ行った。
そして人の姿に変わるレギオナ。
急に目の前にレギオナが現れたため、驚くエルマ、ロイと他の魔法使い達。
レギオナ:「主殿の命によりあなた方を守ります。」
エルマ:「あ、ありがとう。」
僕は外郭から下の草原に舞い降りた。
刀を鞘に戻し、刀を抜く姿勢をとる。
怪物達が続々と僕目掛けて押し寄せてくる。
瞬間。
よしひろう:「烈風斬!!」
刀を一気に抜き放ち、目前に迫る怪物達を数十体横一閃に切り裂いた。
しかし、なおも雲霞のごとく押し寄せる怪物達。
僕の心に焦燥感が芽生え始めた。
一旦外郭の上に逃避し、体制を整える。
そこから他の門の状況を見ると、他の門の近くでも怪物達が城壁を乗り越えようと重なりあっているようだった。
西門前で再び爆砕陣を放ち、翻って北門でも爆砕陣を放つ。
次に東門でも爆砕陣を放ち重なりあう怪物達を蹴散らした。
しかし、怪物達の勢いは止まらない。
焦燥感ばかりが募っていく。
同じ頃。
王都の地下水道。
8人の男達が魔方陣を取り囲むように立ち、召喚魔法を唱えていた。
そこに9人目の男が慌てた様子で現れた。
9人目の男:「司教様!大変です!!王都に怪物達が集まってきています!」
9人目の男:「数万ものゴブリンやオークが!」
司教:「何故だ!!?」
司教:「なぜ魔神ではなくそんな雑魚どもが現れる!!」
謎の男:「ほほぉ!魔神復活が貴様の狙いか?」
司教:「誰だ!?」
謎の男:「レンジャーだ!」
レンジャー:「その魔封石は返してもらうぞ!」
そう言うや司教目掛けて突進していくレンジャー。
召喚魔法を唱えていたローブを着た男達がレンジャーに向けて魔法を放つ。
「プロテクション!」
見えない壁に阻まれて司教の直前で動きが止まるレンジャー。
レンジャー:「クッ!」
司教:「惜しかったな(笑)」
その隙にリターンの巻物で転移する司教と7人の男。
取り残された9人目の男。
逃げようとするその男の背後に二人目のレンジャーが現れた。
レンジャー:「お前には聞きたい事がある。」
そう言うやみぞおちに拳を打ち付け9人目の男を失神させるレンジャー。
その頃、地上では。
南方の門へ向かい、さらに爆砕陣を放とうとする僕の焦燥感が限界に達していた。
よしひろう:「爆砕…」
意識が飛んだ…
目が覚めたのだ。
ベッドからガバッと上体を起こす僕。
身体中から汗が吹き出ていた。
そして尿意も。
よしひろう:「ヤバイ…目が覚めちゃった…」
時刻は朝の6時30分。
二度寝するには遅すぎる時間だ。
この後の事が気になるも、仕事があるので仕方が無い。
このまま起床する事に。
こちらの世界でも雨がザーザー降っていた。
よしひろう:「すまん…エルマ…」
その頃、夢の世界では。
レギオナ:「あ…主殿が行ってしまわれた。」
エルマ:「え!?行ったってどこへ!?」




