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夢幻と白

作者: つちたぬ



ここは、どこだ?

白い天井、そして四方の白い壁に囲まれた一室で

俺は起きた。

「あ、(はがね)、起きた?」


紫髪の美少女が俺の名(鋼)を呼んだ。

誰だこの美少女?それに随分と馴れ馴れしいな。

「どこかで会いましたっけ?」


俺の返事に紫髪の少女がムッとした。

「まあこの姿じゃ分からないと思うけど、私よ、(すず)よ。

 私も目覚めたらこんな姿になっていて驚いたのだけど」


鈴、赤井鈴(あかいすず)。そういえば幼馴染みがそんな名前だ。

最も、俺の知る鈴は、容姿も並の下くらいで

どちらかと言えば可愛いとは言えない少女だ。

じゃあ、俺の姿はどうなってるんだろ?

俺は白いベッドから飛び起きると、鏡を探し始めた。

幸い、鏡はすぐ横の壁に掛けられていた。

「俺の姿は、そのままだな」

「まあ鋼が変わってたら、私に分かるわけないもんね」


俺の独り言に、鈴が返す。

ごもっとも。

「して、ここはどこなんだ?」

「私もよく分からないのよね、気が付いたら

 鋼と二人きりでこの部屋にいたのよ」


鈴が困惑気味に返答する。

この四角で白い部屋には、ベッドが一つ、鏡が一つ、

テーブルが一つ、椅子が4つ、扉が一つ。

「あの扉を開けてみよう」


俺が提案し、鈴も頷く。

白い扉に近づき、ドアノブを回す。

ギィっと軋む音を立てて扉が開く。

扉の向こう側には、青い空と白い地面?が一面に広がっていた。

他に目立つものはないか見回してみたが、何も見つからなかった。

そのとき、バサッバサッと羽音がしたと思ったら

上方から人影が降りてきた。

「鋼さん、ですね?お待ちしておりました」


人影が喋った。

それは、白い衣服に金髪碧眼の少女で、背中には純白の翼が生えていた。

「天使だ」

「天使、とは何でしょう?私の名はレビィ。種族は()(びと)です」


レビィと名乗る少女が答えた。

「さあ、こちらへ」


俺はレビィに右腕を引かれた。

俺の体は、抵抗なく宙に持ち上がった。

全体重がかかっているはずの右腕には何の痛みも負担もない。

「ちょっと、置いてかないで!」


鈴が叫んだときには、俺とレビィは遥か上方に飛んでいた。

「貴方の存在に、98体の獣が興味を寄せています。

 貴方はその1体と契約を結ぶことができます」

「獣?契約?なんのことやらさっぱりだ」


レビィの電波的な話に、俺は首をかしげる。

「この世界には、特別な98体の獣がおり、

 気に入った相手と契約をすることで

 獣の特別な力の一部を使うことができるようになります」

「ふうん。で、どの相手と契約するのが一番いいんだ?」

「それは私にも分かりません」


俺の素朴な疑問に、レビィは答えられないようだ。

「じゃあここから一番近い獣の位置は分かるか?」

「はい、そちらにお連れします」


レビィに手を引かれて、俺達は青空の中を飛んだ。

最初にいた小屋はあっという間に見えなくなった。

青空には雲一つ浮かんでいない。


5分ほどすると、明るい灰色の動物らしきものが見えてきた。

それは、近づくにつれぐんぐん大きくなり、

レビィと俺が近くに着地する時には

全長30メートルほどの大きさになった。

形状は、クジラのそれだ。

「98体の獣のうち最大の獣、カリホルンです」


レビィが紹介する。

「待っていたぞ、鋼とやら。わしと契約するのだ」


クジラのカリホルンが咆える。

「契約するにはどうすれば?」

「わしの尾びれまで移動せい」


カリホルンに言われるまま、俺とレビィは徒歩で

尾びれまで向かう。

途中、直径1メートル、高さ5メートルほどの木が

何本かカリホルンに倒れ掛かっていた。

「なぜ体についた木を振り払わない?」

「倒木は、獣を束縛しているのです」


俺の疑問にレビィが答える。

こんな木があの巨体をね。

俺が何気なしに倒木の一つに触ると、

倒木がぐらりと動き、カリホルンの反対側に倒れた。

「おおっおおおっ。

 鋼よ、すまんが、全部の倒木に触れてくれい」


カリホルンが興奮気味に咆える。

俺は、合計3本の倒木に触れ、それらは皆、

カリホルンを解放するように倒れた。

「わしに力が戻る!感じるぞ。

 鋼よ、ちょいと離れておれ」


俺とレビィは言われるまま、カリホルンの巨体と距離を取った。

「ぬん!」


軽い地響きと共に、カリホルンに人間のような脚が四本生えた。

正直キモい。

「あれがカリホルンの本来の姿です」


レビィが補足する。

カリホルンは四つの脚で体をゆっくりと動かし、

俺に尾びれを向けた。

「契約だ、尾びれに手のひらを向けい」


俺が右手を挙げると、カリホルンの尾びれから

脈打つような光が2度、放出され

その一部が俺の手のひらに吸い込まれて消えた。

「契約成立だ。よろしくな、鋼」


こちらに向き直ったカリホルンが挨拶する。

「こちらこそ」


握手する手が相手にないので、俺は手のひらを振った。

さて、俺の身にどんな力が授かったのだろう?



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