04
(舞踏会の1番盛り上がる時、つまりは陛下が来場された時に婚約破棄をリオンが申し立てる。それが今回の肝である。それまでに、違和感を感じられたらアウト、マリアンヌがその前に私のことを訴えたらアウト。どちらにも気にしなくてはならない。)
クローチスが考えている時、リオンハルトがやってきた。
「そんなに心配しなくて大丈夫、マリアンヌ嬢は人気のようだ。なかなかこっちに来ないだろうね。君はちゃんと騎士になれるよ。」
リオンハルトが小声で睦言をささやくようなていで、こっそりと情報を伝える。
クローチスは淑女の笑みを浮かべながら、了承の意を頷いて示した。
実際は、リオンハルトにクローチスのためにと頼まれた彼女のファンクラブの令嬢たちが引き止めているのだが。
「両陛下のご来場です!」
王者の風格を漂わせながら歩く両陛下。
両陛下に言葉をかけてもらい、いざ、ダンスパーティーを……というところで、ある女子生徒の声が上がった。
「私はマリアンヌと申します。しがない男爵の一人娘です。この度は両陛下の耳にお伝えしたいことがあります!」
男爵令嬢が両陛下の御前に立ち、形式的な挨拶もなしに話しかけるその姿に、周りの貴族たちは大いに焦った。例外といえば、マグノリア公爵家、そして、マリアンヌの生家の男爵領主だけであった。男爵に関しては、むしろ満足そうに笑っている。
そこへ第二王子としてリオンハルトが婚約者のクローチスを連れ添って現れた。
マリアンヌと対照的な、完璧な礼をする二人に周りの人々は感嘆の声をあげる。
他の人の目を良い意味でも、悪い意味でもひく人間の集まるところに、みなの視線も集まった。最初に口を開いたのはまたしてもマリアンヌだった。
「ここにいるクローチス様はレオン様の婚約者にふさわしくありません!彼女は裏で、人を虐げる最低な人です!国民に対して心を砕く、そんな王子妃になれるはずがありません!」
会場にいたものたちはみなギョッとした。
公爵令嬢であり、じきに王子妃になるクローチスに対して不敬を働くマリアンヌに。
マリアンヌをひどく冷めた目で見る両陛下に。
ゆらりと、禍々しいオーラを放つ、クローチスファンクラブの会員たちに。
そして何より、ひどく愉快げな、凄絶な笑みを浮かべた第二王子に。