03
黒と白の良質な生地でできたドレス。アクセントに金の糸で刺繍をされていて、高貴な雰囲気が醸し出されている。黒と白。両方の薔薇の飾りが縫い付けてあった。
「これはまた、すごいのをもらってしまったな………」
今日でもう、彼との婚約は無くなるというのに……。クローチスはそう考えながらドレスを眺めていた。
思い出すのはまだ幼き頃のこと。クローチスは、剣をふるっているところをリオンハルトに見られた。隠すことはできない、と観念して、心のうちを吐露した。
昔から刺繍よりも剣が好きで、兄と共に習っていたこと。
王子妃なんて柄じゃない、騎士にずっとなりたかったこと。
たくさんいる婚約者候補の中の一人だというのに、リオンハルトは一緒に考えてくれた。
今回の作戦は、リオンがたてた。
『クローチスを僕の婚約者にしよう。そこで何か問題が起きれば、婚約破棄をする。婚約破棄をされれば、結婚はしなくてよくなるし、騎士になる可能性もぐっと増えるよ』
作戦は以下の通りである。
1.クローチスが嫉妬をして、ある女子生徒を虐める。
2.それを見かねたリオンハルトが舞踏会で婚約破棄をする。
3.クローチスは反省の意を示し、騎士として国に仕える。
家の名に傷がついてしまうとクローチスは考えたが、親もこころよく受け入れてくれた。
昔からの夢を叶えなさい、騎士で功績を挙げてくれれば問題ないのだから、と。
クローチスの両親は彼女が騎士に憧れていたことを知っている。彼女の兄はお前に期待しているぞ、という目で激励していた。
「クローチス様、殿下がお越しになられました。」
(今夜の舞踏会が終われば、リオンとはもう気安く話せないだろう。それどころか、顔を合わせることもないかもしれない。)
クローチスは胸のあたりを手でおさえた。
(迷うな、自分で決めたことだ、協力してくれたリオンのためにも成し遂げなければ……)
心は決まった。だが、クローチスの胸のもやは晴れていなかった。