閑話01
僕の婚約者は変わり者だ。公爵令嬢でありながら剣を持ち、騎士を目指す。
ドレスのデザインを考えながら、出会った頃を思い出す。
『ごきげんよう、殿下。私はベラドンナ公爵家長女、クローチスと申します。婚約者として、これからどうぞよろしくお願いしますわ。』
最初に話した頃、クローチスは猫をかぶっていた。僕もその時は気づかないほどに。
僕がクローチスの素に気づいたのは偶然だった。
ベラドンナ公爵家へ行った時、たまたま裏でクローチスが剣の練習をしていたのだ。
その時の彼女は笑顔を浮かべておらず、ただ真剣な顔をしてひたすら素振りをしていた。
その時の強い瞳に僕は恋に落ちたのだ。
彼女は騎士になりたがり、そのために婚約破棄を望んでいる。
まぁ、そんなことさせないけどね。ついでに、マリアンヌとかいう男爵令嬢を標的にしたのは、僕に馴れ馴れしくしてきて、かつ、クローチスのことを悪みたいにいうことだ。
それに、なんかきな臭い家だしね。
薬入りの菓子を王族に渡すとか…………
「殿下、手が止まっております。」
侍従であるライルが声をかけてくる。
ライルはクローチスの素を知っているとともに、この作戦にも乗っかっている、数少ない真実を知る者だ。
(クローチスにはやっぱり薔薇が似合うんだよね。赤と青。どちらにしようか………)
「ねぇライル。クローチスの侍女にさり気なく赤と青、どっちの色の薔薇が好きか聞いとくよう、頼んでおいてくれ」
こっそりとだよ、と釘を刺しておいた。
クローチスを騎士にする上で僕の妻にする手はずは6割ほど整った。僕たちが学園を去る歳までに終わらせる計画だった。予想以上に進んだため、次の舞踏会で終わる。必ず成し遂げてみせようじゃないか。
「殿下!クローチス様ですが、『薔薇は白薔薇か黒薔薇が好きだな』ですって!」