01
「リオン。周りの様子はどうなっている?」
そう問いかけたのは先程平民の少女を虐めていたはずの公爵令嬢、クローチス・ベラドンナである。彼女は虐めていた時とは違い、凛とした光を宿しながら、真逆と言っていいほど口調を変えていた。
その言葉になれたように答えるのは、マグノリア王国第二王子、リオンハルト・マグノリア。彼女の婚約者である。
「一部を除いて、周りは君の演技を疑っている様子はないよ。完全に騙されている。さすがだよ。」
彼女の態度が素なのだろう。
「そうか、それは良かった。」
ホッとしたように息をつく彼女には、微かな笑みが浮かんだ。
その笑みを愛しげに見つめる瞳に彼女は気づいていなかった。
「そうだ!マリアンヌの持っていた菓子、回収してくれたか?」
「もちろん、君が落とすだけならともかく、踏み潰すところまでしたんだしね。何かあると思ってライルに拾わせたよ。調べておくようにいっておいたけど…」
マリアンヌとは、彼女がさっきまで虐めていた少女の名である。
「安心した。あの中には、薬が入っていた。少し判断力を鈍らせるくらいの効果だが、用心するにこしたことはない。」
「そうだね、ありがとう」
そして2人は他愛もない話をし、お茶会を終了させる。
「じゃあまたな、リオン。」
「あっ、待って。クローチス、次の学園での舞踏会だけど……」
「ああ、そんな時期だったか…。」
「ちゃんと覚えててよ、もう。ドレスは僕に任せて欲しいんだけど……」
「…?構わないが…」
「そ、ありがとう。君に似合う最高のものを用意するよ。」
リオンハルトはそう言って、はにかむような笑みを浮かべる。
クローチスの頰に赤みが増した。
リオンハルトはよく甘い笑顔、なるものをよくするが、未だにクローチスは慣れていないのだ。
「あ、ああ。期待している、それじゃあな!」
そう言い残し、クローチスは去っていった。
残されたリオンハルトは、幸せそうに微笑んでいた。