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お人よし悪魔と駄女神さま  作者: 瑞沢ゆう
一章 クビになった悪魔
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ルーキー狩り③ 回想編

ブックマーク、評価、大変ありがとうございます! 

──ダンジョン「深き闇」25階層目──


 順調過ぎるほど軽快にダンジョンを突き進んだヨシュア達は、現在25階層目までたどり着いていたのだが……普段なら此処まで来れる事などないゼマン達は嬉しい誤算にある意味困惑していた。


(しかし、雑魚だと思ってたが意外と使えたな。まあ逃げ惑ってただけだが、アイツにヘイトが集中したお陰で魔物も倒しやすかった。アイツ……仲間に入れてみるか?)


 ヨシュアを引き入れる相談をするため、ゼマンは二人の仲間達とひそひそと密談を始める。


「なあお前ら、アイツ仲間に入れてみねえか? 確かに、ゴブリンも倒せねえ雑魚だが、アイツのお陰でここまで来れたのは確かだ。仲間に引き入れた後もルーキー狩りとダンジョンでかなり稼げるぜ」


 ゼマンの提案にミリアとラバウルは思案顔をすると、先に口を開いたのはミリアだった。


「私は良いよ。でも……一つ条件が」

「条件? なんだ? 言ってみろ」


「あの子、私に惚れさせて貢がせても良いかな?」

「はぁ? ……ああ、まあ好きにしろ」


「ごめんね~二人には悪いんだけど、あの子良く見たら可愛いかなって。私って罪作りな女よね……」

「は、はは……」


((なに言ってんだこのババア))


「お、お前はどうだ? ラバウル」

「うーん……」


 ゼマンの問いに不満げな顔をするラバウル。


「なんだ? なんか引っ掛かるのか?」

「いや、そういう訳じゃない。僕はあの子の純朴な笑顔が苦痛に歪む所を早く見たいだけなんだ」


(ちっ、この異常者が……)


「な、なら……しばらく良いように使って金を稼いでから、頃合いを見て殺れば良いじゃねえか。それにルーキー狩りも同時にこなしてけばお前の欲望だって満たされんだろ?」

「うーん……そだね、お楽しみはとっておいた方が良いって言うし」と、連続殺人鬼顔負けの不気味な笑顔を浮かべるラバウル。


 その笑顔を見たゼマンとミリアは凍りつき、こう思う「こいつが仲間側で良かった」と、そして、この気色悪い笑顔と狂気を向けられる側はさぞかし恐ろしいだろう、と。


 そんな思いを振り払うかのようにゼマンは頭を軽く横に振ると、パーティーの加入を本格的に申し込むため前方にいるヨシュアに声をかけた。


「おーい、ヨシュア。ちょっと話しが有るから止まってくれ」

「んっ? はーい。分かりました」


 相変わらず素直なヨシュアにゼマン達はコイツはチョロいなとたかかをくくり、もしかしたら分け前もコイツならチョロまかせそうだと算段をする。


 しかし、そんな甘い事を考えていたゼマン達は、この後に起こる惨状など予想もしていなかっただろう……。


「で、どうしたんですか?」

「ああ、実はな……ヨシュア、お前、俺達のパーティーに加入する気はないか?」


 ゼマンの言葉を聞いたヨシュアは驚いた。こんな魔物一匹倒せないようなヘボ冒険者をパーティーに誘ってくれる人達がいるのかと、そして、なんて懐が広いんだと嬉しくもあった。


 ヨシュアの心は揺らいだ。魔物だろうがなんだろうが、生きとし生けるものの命を無闇に奪う事を躊躇うヨシュアにとって、パーティーに入るという事は、その行為を頻繁に目撃し或いは自分の手で命を奪うかもしれないという事だ、それを考えるとどうしても二の足を踏んでしまう。


 しかし、仲間という存在にあまり恵まれてこなかったヨシュアは、ここにきてのパーティー加入の誘いに、加入後の未来を想像する。彼らと笑いながら酒を酌み交わし、時に喧嘩もするかもしれない。だけど、そんな事も酒の肴にして笑い合える仲間。


 きっと、楽しい日々なんだろうな、と有りもしない想像をしたヨシュアは天秤が大きく傾いた、そして──お願いしますと口を開きかけた時、先に口を開いたゼマンの言葉によって、楽しい日々も開きかけた口も閉ざされ、黒い闇が辺りを支配する事になる。


「どうした? あっ、分け前の事気にしてんのか? なら心配すんな。ルーキーだからって差別する事はしねえよ! ちゃーんと、一割分けてやる。それに……殺しも楽しめるぜ?」

「ちょっとゼマン! そんな事話して良いの!?」


「仲間になるならいずれ分かる事だ、それに断られたらどの道殺すしかなくなる……」と、ラバウルを伺うゼマン。

「そうだね、僕は断ってくれた方が嬉しいよ」


「すいません。意味が良く分からないんですけど……殺すって?」


 いきなり出てきた『殺』のワードに頭を傾げるヨシュア、パーティー加入の話しをしていたのに何故そんな物騒な話しになるのか意味が分からなかった。


 そして、ヨシュアの困惑した表情に、ゼマンは意気揚々と自分達の悪行を語りだす。


「俺達はルーキーを狩ってるんだよ。残念ながら俺達のパーティーに入ってくれる奴が居なくてな、ルーキーを入れても一回限りで二度と入ってくれなくなる。だったらその一回で殺して身ぐるみ剥いだ方がお得だろ? 分け前も一人分減るしな、一石二鳥ってヤツだ、まあ──お前も直ぐに慣れるさ。で、どうだ? パーティーに入るのか? あっ、一つ言っとくが断ったらお前、殺すぜ」


 ゼマンの言葉が終わると、ヨシュアを見つめニヤニヤと笑う三人。その顔はここで断ればどうなるか分かるよな? とでも言いたげだ。


「ゼ、ゼマンさん達は一体、その手でどれほどの罪のない命を奪ってきたんですか……」


 プルプルと震えてくる体を両手で抱きしめ、抑えるように問うヨシュア。だが、その姿は怖くて震えているとゼマン達は間違った理解をしてしまった。


「ハッハッハ! そんなビビんなくても良いんだぜ? 数なんか覚えてねえ、俺達の両手じゃ数えきれねえしよ! 大丈夫、心配すんなよ、殺るのは俺達が殺ってやる」


 ゼマンの言葉を聞いたヨシュアは、自分の心を闇が覆っていく事に焦りを感じていた。

 

「何故いままでバレ無かったんですか」

「あん? ああ、そりゃバレねえさ、ダンジョンでは死体が消えちまうし。それに、俺達が狩りを始めた時期に丁度、近くに新しいダンジョンが産まれてな。元々未踏破期間が長いこのダンジョンは過疎化が一気に進んで今じゃルーキーパーティーがたまに低階層を潜るだけ、そして俺達が殺るのは11階層、バレる訳がねえ! だから捕まる心配もしなくていいぞ」


 自信有り気に答えるゼマンに、ヨシュア悟る。もう、この人達は手遅れだと。このまま逃げて通報した所で彼らが捕まる事は無いだろう、証拠となるものが証言しかないのだ。


 証言だけではゼマン達を処罰する事は出来ない。最悪、パーティー内の内輪揉めによる嫌がらせとして処理されてしまう可能性が高い。


 そして、ゼマン達の悪行を触れ回る事も出来るがそれもあまり意味が無いかもしれない。きっと、名前を変え違う土地でまた同じ行為を繰り返すだろう。


 そうなると、残された手段は──ゼマン達の悪行をここで終わらせる事。無惨にも殺されてしまった者達が眠るこの地で、罪を償わせる。


 それしか残されていない、とヨシュアは思えた。


 震える体がピタッと治まると、ヨシュアはゼマン達三人を見つめ、その瞳を赤く染めていく。


「罪を償って下さい、でなければ貴方達はここで命を散らす事になりますよ」


 穏やかな口調でゼマン達に最後の勧告をする。ここで彼等が大人しく言う事を聞けば殺さなくて済む。祈るような気持ちでゼマンの言葉を待つヨシュア。


 だが、ゼマンから放たれた言葉は、そんなヨシュアの気持ちを踏みにじるものだった。


「てめえ!! なに調子にのってんだ! ヒーロー気取りか? ああ!! 殺されたくなかったら大人しくパーティーに入れ雑魚が!!」


 その言葉を切っ掛けにヨシュアの心は闇に染まる。そして──


「グハァッ! お、お前、何を……」


 いつの間にかヨシュアの手に乗せられてい心臓を握り潰され、ゼマンは口から血反吐を吹き出し倒れこむ。


「キャッー!!」

「ゼマンが……死んだ? お前、その姿は……魔族?」


 ミリアの悲鳴、ラバウルの困惑した問い。しかし、今のヨシュアにそんな声は届かない。


 真っ赤な瞳、銀髪の髪、頭から生える二本の角、肌は真っ白に変わり背中から暗黒の翼を生やす。


 人の擬態から悪魔へと解き放たれたヨシュア──その姿は妖艶だが恐ろしい。そんなヨシュアは残っている二人の殺戮対象へとゆっくり歩み寄る。


「や、やめて! 来ないで化け物!!」

「くそっ!! ミリア! 俺が矢を乱射して時間を稼ぐ、その隙に魔法を!」

「わ、分かったわ!」


 二人は最後の抵抗を試みるため、動き出す。


 ミリアは目を閉じ、集中してやれば五秒で出来る筈だ、と焦りながらも魔法の詠唱を紡ぎだした。


 永遠に感じる五秒、ビュンッビュンッとラバウルが矢を放つ音が聞こえる。──後二秒、矢を放つ音が途切れた……矢が無くなったのだろうか? でも、もう詠唱は終わる、そしてこの化け物を黒焦げにしてやるんだ。


──残り0秒、詠唱をほぼ終えたミリアは目蓋を開け、最後の詠唱となる魔法の名を叫ぼうとした。


「燃やし尽くせ、ファイヤーバ、ッ……」


 ミリアの声が途切れる。それは、ミリアの目の前に恐怖と絶望をもたらすであろう悪魔が居たからだ。


「な、なんで……」


 おかしい、そんな筈はない、とラバウルの姿を探すミリア。しかし、見渡せどラバウルの姿は見当たらない。


 そして、念のため、とラバウルが倒れている最悪を想定し、地面を探していくと──いた、目を見開き恐怖の表情を浮かべたラバウルの顔だけが、そこには転がっていた。


「キャッー!! ──嘘、嘘よ!! なんで、なんで私がこんな……ねえ聞いて! 私、脅されてただけなの! だから許して……あ、そうだわ、私の体を好きにして! 性奴隷にでもなるわ! だから、おねがっ……グヒッ!!」


 脳髄をぶちまけ、悲痛な表情を浮かべ横たわるミリア。最早闇に心を支配されたヨシュアに、慈悲はなかった……。



──三人の無惨な姿を眺める。そして、心から闇が引いてくるとヨシュアは思う、


 (この血を、また洗い流さねばいけないのか)と。

 

 

 その後、ヨシュアはギルドをクビになるまでの三年間、冒険者からのパーティーの誘いも臨時加入のお願いも、全てはね除けてきた。


 この事が無ければ、ヨシュアはいずれどこかのパーティーに入って仲間と笑い合えていたかもしれない。そして、ギルドをクビになる事も無かっただろうし、ギルドマスターの不正もそこで正されていた事であろう。

 

 それが、幸か不幸かは分からないが……。

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