「修行相手、in"the妖精王」
お待たせしました。
次の朝。ヨシュアは一晩考えた質問の数々をぶつけるべく、さっそくメタトロンの家を訪ねていた。
トントントンッ。
「ヨシュアです」
「ああ、入って良いぞ」
メタトロンの許可を得て家の中へ入ると、テーブルを囲んだ仲間達が優雅に紅茶を啜っていた。
「あれ? 皆早いね」
「ヨシュアが遅いのよ」
「本当だぜ、太陽はもう真上に来てるぞ。まあ、偽物の太陽だけどな」
「ヨシュア様も色々頭を悩ませていたのでしょうから、致し方ありませことよ」
「……待たせてごめんね」
「兎に角座りなさい」
メタトロンに促され椅子に腰を落とすヨシュア。
全員が揃い、先ず話を切り出したのはメタトロンだった。
「これだけ考えたのだ。どんな質問が飛んでくるか戦々恐々としてくるよ」
冗談めかして話すメタトロンだが、緊張気味のヨシュアを気遣っての事だった。それが伝わったのか、ヨシュアは少し表情を緩めて口を開く。
「そんな恐い質問はありませんよ。俺が聞きたいのは一つだけです」
「ほう……その一つはなんとなく分かるが、本当に良いのか? あの方の事を聞かなくて」
あの方とは恐らく、ヨシュアの母である天使の事であろう。
ヨシュアも、その事を聞きたくないと言ったら嘘になる。
ただ、此処に母が居ない以上は話を聞いた所でピンとくる事はないだろうとも思っていた。
「良いんです。今は兎に角、先に進まないといけませんし」
「そうか。それで、何が聞きたい?」
「はい。多分皆が聞きたい事だと思いますが……この監獄から、脱出する方法はありますか?」
ヨシュアの質問の後、一瞬の静寂が訪れる。
仲間達の唾を飲み込む音だけが、静けさの中で共鳴していた。
「ふむ……ハッキリ言って無理だな」
メタトロンの一言でヨシュア達の表情は暗く沈む。
此処に永遠に囚われるとして、どうやって生活していくのか。
外に残した者達や、国は大丈夫だろか。
ヨシュアと永遠に添い遂げられるなら、それはそれでありかもしれない。此処にお肉はあるのだろうか。
誰が誰とは言わないが、それぞれの脳裏に浮かぶ不安。暗い雰囲気が漂う中、それを掻き消すような言葉が囚われの天使から放たれる。
「そんなに落ち込む事はないぞ? ヨシュアが来た今、脱出の可能性は0では無くなったからな」
「それは本当ですか!? 一体どうすればっ!」
「まあ落ち着け。方法は今からゆっくり話す」
「分かりました……ん? それより、俺が来た今ってどういう……」
「私達を閉じ込める結界は、主神が張り巡らした強力なもの。私も最初の頃は、破壊を試みて何度も挫折したものだ……。この結界を破れるとすれば、主神の他に一人しか居ない。それこそ、ヨシュアの母上であるあの方しか浮かばん」
「母さんが……でも、母さんは此処に居ない」
「そうだな。だが、ヨシュアがいる」
「俺を買い被り過ぎですよ……」
いくら魔界や人間界に敵が居ないと言っても、神の力に匹敵するとは思えず、ヨシュアは自傷気味に苦笑いを浮かべた。
「確かに、今の状態のお前では無理だろう。しかし、お前に眠っている力は自分が思っている以上に凄まじいぞ? 正に、あの方と同等の力を私は感じている」
「そうなんですか? でも、そんな力をどうやって……」
「そう、問題はそこだ。いくら力があろうと、それを出すには鍛練が必要だろう。だから……修行するぞヨシュア!!」
「しゅ、修行!?」
「ああ、修行だ! お前の秘めた力──私が叩き起こしてやる!!」
「は、はぁ……修行とは一体……」
「まあ、修行内容は後で説明しよう。しかし、修行するのはヨシュアだけではないぞ」
「あっ? 俺達も?」
「私達が修行したってヨシュア以上に強くなんてなれないわよ」
「私もですの!?」
「いや、ララ様は結構です。それ以上力を付けたら世界が消滅してしまいます」
「そうですわよね……ん?」
「別にヨシュア以上に強くなれとは言わん。ただ、外はなにかときな臭い。ラファエルが絡んでいるのも不気味だしな。万が一外に出た時、天騎使達が待ち構えている可能性もある。だから、少しでも戦力は上げておいた方が良いだろう」
ララをさらっとディスったメタトロンは、外に出た際のリスクを提示しながら戦力強化をヨシュア達に言い渡した。
「俺達もあんたと?」
レメクの問いに、メタンロンはいたずらっぽく笑みを見せる。
「いいや、それぞれに相手を用意しておる。ヨシュアは私。レメクは……入って良いぞ」
メタンロンの声に反応するように開かれた玄関。
ゆっくりと扉から現れたのは、昨日ヨシュア達を寝床へと案内した青白い肌の女性だった。
「来たな、フローラ。さあ、自己紹介しなさい」
「はい、メタンロン様……本日からレメク様の修行相手を勤めさていただきます氷妖族のフローラと申します」
氷のように透き通った青い髪と肌。妖艶な雰囲気を漂わせる女性に、レメクの鼓動は高鳴っていた。
「氷妖族のフローラ……ん? いや、まさかっ! 二百年前の魔王に仕えていた伝説の氷使いフローラか!?」
「あら、知っていらっしゃったのですね。懐かしい呼び名でございます」
「氷使いフローラの名前は、絵本でも出てきてたよね……」
「突如姿を消したとされていたけど、ここに居たのね……」
ヨシュアとメーサがそれぞれの感想を呟く中、レメクだけは言葉が出て来なかった。それは正に、魅了の魔法にかかったかのように、固まっていたからかもしれない。
「さて、レメクの修行相手が分かった所で、次はメーサの修行相手を呼ぶとしよう。出て来て良いぞー」
石のようにフローラを見つめて動かないレメクを尻目に、展開は次へと動き出す。
「よっしゃーっっ!! 久しぶり皆! 元気だった?」
メタンロンの呼び声に現れたのは、小さな羽をバタバタと忙しなく動かす妖精だった。
「え……これが私の修行相手?」
小さな妖精に動揺を隠せないメーサ。こんな小さな相手になんの修行をしようと言うのか、不安がこみ上げてくる。
そんな中、ヨシュアだけは瞳を輝かせ、小さな妖精を見つめたまま勢い良く立ち上がる。その反動で隣に座っていたレメクとメーサは床に転げるほどだった。
「どうしたんだよヨシュア……」
「急になんなの……」
「間違いない……エリーユだよね!!」
メーサの姉、そしてヨシュアの初恋相手であり、自ら命を奪ってしまったエリーユの名を叫ぶヨシュア。その叫びに呼応するように、小さな妖精は胸を張ってドヤ顔で答える。
「流石ヨシュア! そうよ、私はエリーユ! 妖精王エリーユなのよ!!」
「「え……ええぇぇぇぇーっっ!!」」
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