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お人よし悪魔と駄女神さま  作者: 瑞沢ゆう
五章 プリズンブレイク
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抜け出せない監獄④


「──主神様。これが真実でございます」

「のようだな……即刻、メタトロンの首をはねよ」


 冷静でいて冷酷な号令が出されると、いの一番に動いたのは、ミカエルであった。


「メタトロン!! よくもララ様を! 地獄でその罪を償うがいいっ!!」


 鬼の形相でメタトロンへ駆けるミカエル。

 しかし、その牙を止めた者がいた。

 

「待てミカエル」

「何故止めるのですかルシフェル様!」


 そう、メタトロンを罪人へと追いやった張本人。

 ルシフェルだった。ルシフェルはミカエルの肩を掴みその牙を止めると、いやらしい笑みを浮かべ語り出す。


「あやつに死罪は生ぬるい」

「それは……」

「それはどういう事だルシフェル。我の裁決にケチをつけるか」


 ルシフェルの“生ぬるい”という言葉に、主神が機嫌の悪そうな声でその理由を問いかける。


「ケチをつけるなど滅相もございません。ただ……こやつには死罪より重い地獄が相応しいかと」

「ほう、ならば説明せよ」


「では、僭越ながら……」


 ルシフェルは、主神の問いに待ってましたとばかりに嬉々と語り出す。


「あやつに相応しいのは、永遠の監獄! 主神様もご存じである下界の世界樹。その世界樹の中へあやつを永遠に閉じ込めるのです! 勿論、世界樹のシステムを熟知したあやつに、管理をさせます。管理を怠れば、あやつの部下の命が散るだけ……」

「ふむ、それで? まさかそれだけではあるまい?」


「勿論でございます! しかし、この罰は少々主神様のお力をお借りしなければなし得ないかと」

「我の力? 一体何をしろと?」


「世界樹へ閉じ込める際、結界を張って頂ければ幸いでございます。そして、その結界の中の空間に細工を施して頂きたいのです! こちらの一秒が、何百倍にも感じ、決して死ねないように!」

「ほう、それは面白い。結界の中ならばその細工も可能であろう。分かった、ルシフェルの申す通りにいたそう」

「有り難き幸せ!!」


 思い通りに事が運び、満面の笑みを浮かべるルシフェル。その笑みを、罪人へと貶めたメタトロンへ迷う事なく向けていた。

 

「違う! 違うのです主神様! どうか弁明の機会をっ!!」

「黙れメタトロン!! このごに及んで見苦しいぞ!! 目障りな罪人を連れていけっっ!!」


 ルシフェルの号令でメタトロンを押さえつける天使達。

 メタトロンは必死に自らの潔白を叫ぶが、誰一人彼女の言葉を聞く者は居なかった。そんな中、一人の女性が収まりつつある事態に待ったをかける。


「お待ちなさいっっ!!」


 清く透き通った声が神殿前に響くと、場は静寂に包まれる。

 全ての者は彼女を見つめ、息を飲んで次の言葉を待った。場がピンと張りつめるほど、彼女の存在は大きな者だったのだ。


「主神様……此度の一件、私に任せては頂けないでしょうか」

「どういう事だ大天使長」

「まだメタトロンの言い分を聞いておりません。通例通り、天界裁判にて裁くのが良いかと……」

「そうか……確かにそなたの言い分は最もだ」


 主神の言葉に安堵する大天使長とメタトロン。

 対してルシフェルは、顔を歪ませ大天使長を睨み付けていた。

 

「ですが主神様!! ララ様のお命を狙った非道なれば、この場で判決を下す事で二度とそのような愚かな行いをする者が居なくなると思われます! 何卒、賢きご決断をっ!!」


 大天使長とルシフェルの言い分で揺れる神殿前。

 どちらの言い分も否定出来るものではなかった。

 

 果たして主神の判決はどちらなのか、全ての者が固唾を飲んで主神の言葉を待っていた。


「大天使長よ。我はそなたの言葉にいつも耳を傾けてきた……」


 静かに響くその声に、大天使長に注目が集まる。

 それは、顔をしかめるルシフェルも同じだった。


 そして、誰もが大天使長の言い分で事が進むと思っていた。

 しかしその流れは、激流のような神の怒りで、洗い流されてしまう……。


「だがっ!! 今回ばかりは断じて許せんっっ!! ルシフェルの言い分通り、永遠の監獄にて罪を償えメタトロン!!」


 その瞬間、ルシフェルは心は歓喜にうち震えた。これで生意気な小娘は消え、自身の出世を邪魔する最大の敵に集中出来ると。


 そんなルシフェルとは打って代わり、小麦色の肌が青ざめていくメタトロン。突如やってきた濁流に飲み込まれ、溺れていくのが嫌でも分かった。


「あなたなんて事を……」


 最後の挨拶にやってきた双子の姉であるサンダルフォン。瞳は涙で溢れ、落胆を隠せないような表情でメタトロンを見つめる。


「違うのです姉上! 信じて下さい! 私は何もしていませんっ!!」


 姉に必死にすがるメタトロン。しかし、主神の判決が下った以上、何を言っても無意味であった。姉のサンダルフォンは、必死にすがる妹を抱きしめ、耳元で呟いた。


「もう遅いの。精々永遠の監獄でもがくことね。そうだわ、最後に一つ教えて上げる。貴女と私は双子……それが、何を意味するか貴女なら分かるでしょ? フフ」

「そんな……まさか姉上が……姉上っ! 姉上ーっっ!!」


◆◆◆◆


「こうして、私はこの監獄に閉じ込められたのさ」


 この世界樹という監獄に閉じ込められる経緯を話終えたメタトロンは、温くなった紅茶を啜り渇いた口を潤すと、衝撃で押し黙るヨシュアに視線をあわせた。


「どうしたヨシュア。何か聞きたい事はないのか?」

 

 メタトロンの自宅に案内されたヨシュア達は、木目が綺麗な長方形のテーブルを囲んで話を聞いていた。

 

 テーブルを挟んで向かい側のメタトロンの問いに、質問が溢れるヨシュアだったが、次々に沸いてくる疑問に整理が追いついていなかった。


 それはレメクやメーサも同じようで、突拍子もない物語を聞かされた子供のような顔をしている。ただ一人──気まずそうに、俯く豊穣の女神ララを除いて。


「聞きたい事は山ほどあります……母の事とか、ここから脱出する方法とか。でも、何から聞いて良いやら……」

「だろうな……ではこうしよう。今日はゆっくり休み、日を改めて質問を聞こう。色々あって、精神的に疲れただろう」


「はい、そうしてくれるとありがたいです……」

「うむ……。ではここの住人に寝床を案内させよう」 

 

 パンパンッ!


 メタトロンが両手を上げ軽く手を叩くと、玄関の扉を音もなく開けて青白い肌をした女性が入ってくる。


「お呼びでしょうかメタトロン様」

「ああ、お客人を寝床へ案内してくれ」

「畏まりました。では、こちらへ」


 青白い肌の女性の後を着いていくヨシュア達。

 レメクが先頭で出て行ったのだが、何故か顔を赤らめていた。


「ララ様はここに。少々お聞きしたい事が」

「うっ……で、ですわよね。分かりました」


 ララに聞きたい事。何故天界からこんな此処にいるのか、その辺りであろうと推測したヨシュアは、ララに軽く目配せをしてその場を後にする。


 外へ出ると、少し肌寒い風が吹いてくる。ヨシュア達が案内された場所は、田舎の農村のようなのどかな所だった。


 木造の住宅が数十件建ち並び、畑を耕す魔族の姿が見える。

 その中には、人間らしき姿も伺えた。

 

 山脈の影に隠れていく夕陽。上空を舞う鳥達。

 木の上で木の実をついばむ小動物。


 そんなのどかな光景は、この場所が脱出不可能な監獄という事を忘れさせてしまう。


 落ち着いた空気で少し穏やかになったヨシュアの胸中では、メタトロンへ投げ掛ける質問の数々が整理されていく。聞きたい事は沢山あった。


 しかし、沢山の質問の中でも、特に問題な事柄が一際大きく沸き上がってくる。


 “ここからどうやって脱出するのか?”


 その問題が一番厄介だとヨシュアは確信していた。

 なにせ、結界が張られたこの場所は、神が創りし監獄なのだ。

 最悪、一生出る事が叶わないのかもしれない。


 ただ、メタトロンが自分を見つめるその瞳には、光という希望が溢れていた気がしていた。もしかしたら彼女は、何かを閃いているのかもしれない。


 ヨシュアはそんな思いを抱き、夕陽の光の中へ消えいった─

次回の更新は5/30日を予定してます。

いよいよ迷宮から脱出するための修行に!?

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