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お人よし悪魔と駄女神さま  作者: 瑞沢ゆう
四章 それぞれのケジメ
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氷鬼VS炎鬼

「お呼びのようだ……」


 中央で此方を睨む黒き魔人の呼び出しに、ボソッと呟くレメク。その表情は、緊張からなのか、どこか強張っているように見える。


「固くならないで、ありのままの自分を受け入れて来なさい」


 緊張したレメクに、先ほど戦いを終えて帰還したメーサがアドバイスを送った。見事勝利を納めた先輩のアドバイスに、レメクは自然と疑問が口から溢れていた。


「どういう事だ?」

「私、分かったの……この戦いはただ勝てば良いものじゃない。大事なのは、自分を許して、全て受け入れられるかよ。答えはきっと、相手が教えてくれる。その言葉を『冷静』に考えて、自分に勝つのよ」


「分かった……んじゃ、行ってくるぜ」


 メーサの言葉を黙って受け入れ、戦いへと進むレメク。

 その背中を、仲間達は静かに見送った。

 

「来たな、レメクさんよ」

「ふんっ! 同じ顔に名前を呼ばれるとは、気持ち悪いな。やるならさっさとやろうぜ」


 両拳を打ち鳴らし、戦意を高ぶらせるレメク。対して偽レメクの方は、戦意の欠片もない表情でそれを見ていた。


「まあまあ、落ち着けよ。何も矛を交えようって訳じゃない。どちらが生きていくに相応しいか、話し合おうって事だ」

「……話し合う? ふざけんなっ!! 勝手に現れておいて、俺が生きるに相応しいからお前は死ねって話し合いに、誰が納得すると思ってんだ!!」


「……冷静になれよ。今までの人生を振り返ってみろ。そうやって熱くなって失敗した出来事だらけだろ? 表面は冷静なふりして涼しい顔を取り繕ってるが、心はいつも煮えたぎってる。それが、ダメだって言ってんだ」

「あ? どういう事だよ」


 暴論だと憤るレメクに、偽レメクは涼しげな表情で反論の言葉を口にする。既に話し合いの局面を見せるこの戦い。ペースは完全に、偽レメクが握っていた。


「思い出してみろ。お前が兄貴より成績が良くならないように手を抜いておけば、親父が兄貴を見放す事もなかっただろ? 何故、お前が手を抜かなかったか、俺には分かる。兄貴に負けたくなかったんだよな。表面は兄貴を庇うふりして、根底では兄貴に勝った事が嬉しくて仕方がなかった。その勝ち気な性根が、兄貴を追い込んだんだよ!!」

「…………」


 偽レメクの語る真実に、言葉が出ないレメク。レメクが兄より上の成績を出すまでは、兄はいつも父の期待と愛情を独占していた。それが羨ましくなかったと言えば嘘になる。


 兄に勝ちたい。父と母の愛情を独占したい。そう思った事もあったのだ。だから、兄の評価が著しくない事が分かっていながら敢えて手を抜かなかった。


 たった一度で良かった。一度だけ兄に勝ち、家族から褒めて欲しかったのだ。その後は、兄より少し下、位で調整するつもりでいた。


 まあレメクとしては、一度自分が兄を超せば、弟に負けたと発奮し、自分なんかが追いつけない所まで、兄は走っていくと思っていた。


 しかし、現実は思い通りにいかないものだ。


 お分かりの通り、兄は腐り、父と母はそんな兄を見捨てた。そして、それが周り回ってレメクやヨシュア達へ“不幸”という名の牙で襲いかかった。


 全ては自分の業が元凶。そんな思いを、レメクは誰にも知られず心にしまいこんでいた。


「どうした? 図星過ぎてぐうの音もでねえか? ああそうだ! エリーユが死んだのもお前のせいだぞ? 兄貴に呼び出された時、馬鹿な兄貴を信じて飛び降りちまうから、兄貴はエルフの里へ向かっちまった。あん時兄貴を殺してればエリーユは死ななくて済んだし、ヨシュアやメーサが闇を抱える事も無かったのにな~。……お前、生きてる価値ねえぞ」

「う、うるせえぇぇぇぇっっ!!」


「レメク!! 落ち着きなさい!!」

「そうだ!! そいつの言葉を鵜呑みにしちゃダメだ!!」


 とうとう火山が噴火し、熱く滾る思いを解き放ってしまったレメク。ヨシュアとメーサは冷静さを失ったレメクを落ち着かせるため叫ぶが、一度噴火してしまうと、鎮火するまでその体は止まる事はない。


 仲間の言葉が耳に入ってはいた。だが、動き出してしまった体は最早、自分でもコントロール出来なかったのだ。足は地を踏み込み、腕の筋肉が強張る。


 気づけば、拳は既に偽レメクへと放たれていた。


「ぐはぁぁっっ!」


 魔族としても騎士としても誇って良い巨体が地面へ転がる。

 その巨体を見下ろす巨体。その瞳は冷たく冷静だった。


「だから落ち着けって言ったんだ。冷静さを失ったお前の拳なんざ、虫も殺せねえ」

「ぺっ、くそっ……」


 口内の血を吐きながら立ち上がるレメク。

 そう、巨体を転がされたのは、本物のレメク自身だった。


 相手にするのは自分自身。ただ力任せに放った拳など、冷静な相手には掠りもしない。実力が同じ、もしくは上なら、避けられた上に反撃さえ喰らう事になる。それさえ、冷静さを失ったレメクは、忘れていた。


「本当にお前はダメな奴だ……。そんなのが今まで表にでしゃばっていたかと思うと、怒りを通り越して呆れるぜ。そんな奴と話し合いなんか無意味だな。さっさと死んで、俺の中で眠ってろ!!」


 心底、見下したような視線をレメクに向ける偽物。話す事さえ無意味だと告げると、敵意を向けレメクへと構えた。


「お前はお父様譲りの炎。俺は……これだ」


 偽物が手の平を上に向けると、そこから氷柱が飛び出す。


「お袋譲りの氷って訳か……やってやろうじゃねえかっ! そんな氷、俺の炎で溶かしてやるよ!!」

「やってみろ……お前の炎が届く前に、氷の刃で殺してやる」


 氷鬼(偽レメク)は両手に氷の刃を形成して構え、炎鬼(レメク)は両手に炎を纏わせて迎え撃つ。


 斯くして、炎鬼VS氷鬼の激突は始まってしまった──


「いくぞっ!!」


 先制は炎鬼から。炎を纏わせた拳を氷鬼へと放つ。

 氷鬼はその拳の軌道を冷静に読み、避ける筈だった。


「ガアッッ!」


 拳を避けた筈の氷鬼を襲った謎の痛み。

 チリチリと肌を焼き、胸部に鋭い痛みが走る。


「俺の炎が、魔法みてえに扱い難い炎じゃねえって事、お前が一番分かってるだろ? この炎は、そう……俺の体の一部だ!! バーニングウィップ──」


 炎鬼の手に握られていたのは、しなる炎の鞭。炎鬼は炎を自在に操る事が出来る。それは魔法のように魔力を消費したり、複雑なイメージを要したりはしないが、魔法のように敵へ飛ばしたり、他の物質へ付与させたりは出来ない。


 炎の精霊が元となっていると語り継がれている炎鬼族のルーツ。その炎鬼が操るのは、純粋な炎なのだ。


「くっ、小賢しい真似を……」

「小賢しかろがなんだろうが、勝てば官軍さ」


「ならば俺は守りを固めるとしよう」


 氷鬼がそう言うと、左手に氷の盾が形成されていく。その盾をガッチリ体の前に突きだし、完全に守りの体勢へと入っていた。


「けっ、守ってばっかじゃ、勝てねえぜ?」


 炎鬼は守りを固めた氷鬼を一瞥し、炎の鞭を豪快に振るった。

 

 炎の鞭が氷鬼を連打していくが、その攻撃は全て氷の盾で防がれている。炎の鞭が氷の盾に当たる度に、ジュウッジュウッと、音を鳴らす。


 何百度にもなる炎鬼が振るう炎だが、その熱では氷の盾を溶かす事が出来ないようだ。


(鞭じゃダメか……なら、剣で盾ごと叩き斬ってやる!)


 炎の鞭では氷の盾を破壊出来ないと悟った炎鬼は、炎の鞭を炎の剣に変え、再び氷鬼へと攻撃を振るう。


 本物の剣のように、物理的攻撃を加える事は出来ない炎の剣。

 だが、対象が氷の盾ならば、熱く鋭い炎で寸断出来るのではないかと炎鬼は考えたのだ。


 そしてその答えは、直ぐに分かった──

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