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お人よし悪魔と駄女神さま  作者: 瑞沢ゆう
四章 それぞれのケジメ
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白き闘技場

 それぞれの闇を魅せた幻想を、まさかのララに救われたヨシュア達。幻想を抜け出した者達を、誘うかのように現れた階段。


 ヨシュア達の目的は迷宮からの脱出。

 ここで引き返している暇はないのだ。


 ただ、ヨシュアは時間の感覚がおかしい事に、なんとなく気づいていた。それでも先を急ぐのは、外に待っているメーサの父ゴルゴンの、寂しげで儚い顔が浮かんでいたからだった。


 本当の父インフェルノから愛情など感じる事が出来なかったヨシュアにとって、分け隔てなく真っ直ぐな情をくれるゴルゴンは、本当の父以上の存在なのだ。


 そんなゴルゴンを、いつまでも待たせておく訳にはいかないという思いが、ヨシュアの足を進ませていた。


 暗闇の中、階段を降りるヨシュア達。一歩一歩慎重に降りていくが、階段の先が一向に見えてこない。真っ直ぐ降りる階段に螺旋階段……様々なバリエーションが次々と現れてくるのだ。


「いつまで続くんだよ……」


 それまで静かに降りていたヨシュア達だったが、いつまでも続く階段に我慢の限界がきたレメクが文句を呟く。


「戻るのだけは絶対いやよ!」

「私もです……」


 今までに下ってきた時間を考えれば、メーサとララの気持ちも分かる。階段は、下るよりも登るほうが遥かに大変だ……。


「もう少し頑張ろう。さっきの夢よりマシだろ?」

「確かに……」

「ヨシュアの言う通りだな。階段ぐれえ屁だ!」

「ヨシュア様……私は疲れたのでおんぶして欲しいです!」


 ヨシュアの励ましの言葉で気力を取り戻すメーサとレメクだが、ララは空気を読まずおんぶをせがむ辺り流石だ。


「もう少し頑張れない?」

「無理ですわ……おんぶー!」

「うっさいわね馬鹿女神! おんぶなら私がして上げるから黙りなさい!」


「それは嫌ですわ! 私はヨシュア様に甘えたいだけですもの」

「あんたね……」

「ハハ……もう少し頑張ったらおんぶして上げるよ」


「はーいっ!」

「そうやってヨシュアが甘やかすからつけあがるのよ! 私だって、甘えたいのに……」

「しょうがないな……交代でおんぶして上げるよ」


「ほ、本当に!?」

「ああ、だから二人共もう少し頑張って下りようね?」


「「はーいっ!」」

「たくっ……お前は天性のすけこましだな」


 甘い言葉でメーサとララを奮い立たせるヨシュア。これが計算ではなく天然なだけにたちが悪い……レメクの言う通り、天性のすけこましなのだろう。いずれそのツケが回ってくるだろうが……。


 その後は文句を言わず突き進むヨシュア達。

 時間にして約半日は階段を下っていた。


 富士山の頂上から五合目まで、下りで約三時間半かかると言われているだけに、半日だとその三倍以上は下っている事になる。


 それだけ長い間下っていれば、当然疲れが出て足が重くなる。

 女性陣、特にララは、疲労困憊といった表情でヨシュアの横顔をチラチラと伺っていた。


「ララちゃん背中に乗って」


 それに気づいたのか、歩みを止めてしゃがんだヨシュアは、ララへ背中に乗るように言葉をかけた。


「えっ……乗ります乗ります! フフッ」


 それまで死んだような顔で階段を下っていたララは、活力を取り戻したように、明るい表情でヨシュアへ身を委ねる。


 ヨシュアの背中はゴツゴツと男らしく、黒い翼は自分を包みこんでいて暖かい。ララは、未だヨシュアと夜を共にしてはいないが、まるで一つになったかのような気分だった。


 その高揚は顕著で、嬉しさがこみ上げにやけが止まらない。だが一方のメーサは、その憎たらしい笑みをムッとした顔で睨んでいた。


「顔が怖いよ……後でメーサも乗せて上げるから、ね?」

「ウウゥゥッッー! ……分かったわよ!」


 待てば良い事は分かってはいる。分かってはいるが、好きな男の背中で別の女が至福を味わっている事に、どうしても我慢出来ないメーサだった。


 こんなやり取りを、ララとメーサが交互に行う事更に半日──


 丸一日もの時間を費やし階段を下っていたヨシュア達に、とうとう念願の光が見え始めた。


 その光源にいち早く反応したのは、体力が少ないという理由でメーサより長くおんぶされていた元気なララだ。


「ヨシュア様! あれを見て下さいませ! 光が見えてきましたわよ!」

「本当だ……」

「やっとか……」

「あ~、もう限界……」


 元気なララとはうってかわり、疲労感滲み出るヨシュア、レメク、メーサ。まあ、丸一日階段を下りっぱなしだったのだ。オアシスにも似たその光源を見つけ、気張っていた気持ちが緩んでも致し方ない。

 

 数分後──ヨシュア達が光源へ近くにつれ、その光は眩しさを増していく。そして……遂に、階段の終わりがやってきた。


 階段の終わりにたどり着き、光の先を潜るヨシュア達。

 その先に何が待ち受けているのか。

 出口か、はたまた更なる困難なのか。

 その不安に、ヨシュア達の表情は雲っていた。


「これは……」

「なんだよ此処は……」

「ちょっと待って! 真ん中に誰かいるわよ!」

「あれは……ヨシュア様達かしら?」


 ヨシュア達が丸一日かけて階段を下り、たどり着いた場所。

 そこは、真っ白な壁と床に囲まれた不思議な空間。


 円状になったその空間は、ちょっとした催し物を行うホールほどの広さだ。やはりそこには出口などなく、ただ白い空間が、ヨシュア達を出迎えただけであった。


 だが、出迎えたのは白い空間だけではない。三人の者達が空間の中央に佇み、ヨシュア達を待ち受けていた。


 そしてその姿は、ヨシュア、レメク、メーサと瓜二つの姿形をしていたのだ。しかし、本物のヨシュア達と明らかに違う点が一つあった。


「あちらのヨシュア様達は、真っ黒ですわね……」


 ヨシュアの背に乗ったままのララが呟く通り、中央に佇む偽物達は、漆黒の肌で此方を睨んでいる。


「なんなんだよあいつら!? なんで俺達にそっくりのやつらが……」 

「今度は一体何よ! まさか自分で自分を倒せなんて言わないでよ!」

「良く分からないけど、向こうのメーサが此方に歩いて来てるよ」


 真っ黒な肌をしているとはいえ、自分と瓜二つの者が現れて困惑するヨシュア達は、入り口に固まったままだ。すると、それに痺れを切らしたように、真っ黒な偽メーサが、ヨシュア達へ近づいていた。


「な、なによ!!」

「…………」


「なんなの!? 何か言いなさいよ!」


 ゆっくりと近づいて来た真っ黒な偽メーサが、ヨシュア達の目の前へたどり着く。不気味に感じたメーサが、真っ黒な偽メーサへ問いかけるが、偽メーサは黙っているだけだった。


 その場に立ち尽くす偽メーサ。数十秒の間、本物のメーサを睨んだかと思うと、おもむろに口を開いた。


「あんた、馬鹿よね。なんで早くヨシュアをものにしないの? お姉ちゃんが死んで邪魔がいなくなったのに。あんたがさっさとしないから、変な虫が付くのよ?」

「な、なによ!! あんたに何が分かるの!!」


「分かるわよ。だって、私はあんただもの! 折角ヨシュアがその気になって受け入れてくれようとしたのに、あんたは変なプライドでそれを邪険にしたのよ! そんなの馬鹿よ! さっさとやって、子供でも作ってれば今頃二人で幸せに暮らしてたのに! それをあんたは壊したのよ!!」

「うるさい!! そんなの……そんなの分かってるわよ!! うるさいうるさいうるさい!!」


 自分の本音とも言える言葉が、偽メーサから突きつけられる。

 決して、姉が死んで嬉しいなどと、思ってはいなかった。


 だが、偽メーサから出る言葉の数々は、過去に自分が思っていた事ばかりだったのだ。その事実が、メーサの心をかき乱す。


 そして、心の奥底では、姉が死んで良かったと思っていたのかと、自分の歪んだ思いがどうしようもなく嫌になる。それを表すように、子供のような喚きを偽者にぶつけるメーサ。


 対して偽物の方は、そんな喚きを涼しい表情で見ていた。そして、メーサが項垂れるのを待っていたかのように、話し出した。


「だだは終わった? ……なら、私とあんた、どっちが生きるに値するか勝負よ」

「なに訳わかんねえ事言ってんだ!! あっち行け偽物! ──って、あれ……?」


 偽物の言葉に反応したのは、メーサではなくレメクだった。仲間が傷つけられた事に怒りを覚え、怒鳴りながら偽物を突飛ばそうとしたのだ。


 しかし、突飛ばそうとしたレメクの手は、空虚を虚しく泳がせていた。


「残念♪ 私はメーサ以外に触れられないよ。だって、私はもう一人のメーサだもの」

「なっ……どういう事だよ?」

「分かった……勝負よ! あんたなんかに負けないんだから!」


 偽物の言葉にレメクが困惑していると、顔を上げたメーサがその挑発に乗り、ツカツカと白い空間の中央へと歩いて行ってしまった。


「待ってメーサ! 挑発に乗っちゃダメだ!」

「うるさいっ! これは私の問題なの! ヨシュアは黙ってて!」


 最早、ヨシュアの言葉にさえ反抗を示すメーサ。メーサの心は、偽物の言葉を否定したい思いで一杯だったのだ。


「それじゃあ……決着つけるわよ? 因みに、ここでは魔法が使えるから、思う存分戦えるわよ♪」

「ええ、望む所よ!!」


 白い空間の中央で相対する偽物とメーサ。中央に居たヨシュアとレメクの偽物は、いつの間にか反対側の端へと移動しており、二人の戦いを見据えている。


「切り刻め! エアロスラッシュ!」

「私を守りなさい! プロテクトウォール!」


 偽物の攻撃魔法で始まった戦い。言うなれば、『ダークエルフVSハイエルフ』との戦いだ。偽物と本物による、己の存在を賭けた戦いの火蓋が、遂に切られた。


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