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お人よし悪魔と駄女神さま  作者: 瑞沢ゆう
四章 それぞれのケジメ
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溢れる想い

明けましておめでとうございます!

今年も宜しくお願いしますm(_ _)m

 幻想のヨシュアを追いかけ、エルフの里のような森へ誘われたメーサ。甘い言葉と微笑みで語りかけるヨシュアに、いとも簡単に心を掴まれてしまっていた。


 そして、更に深い森の奥へと誘われてしまったメーサはまさに、エルフの里に酷似している集落へとたどり着く。昔遊んだ木に吊るされたブランコ。ヨシュアにせがんで押してもらっていたと、昔を思い出し懐かしむメーサ。


 そんな場所をヨシュアに手を引かれながら通り過ぎていくと、一軒の家の前で立ち止まるヨシュア。立ち止まったその場所は……居心地の良い我が家の前だった。


「メーサ……この家で、俺と一緒にずっと暮らそう。ここは俺達以外誰も居ない二人だけの世界だよ。俺はずっとこうしたかった。メーサと二人で永遠に愛し合っていたいんだ」

「ヨシュア……私もずっと一緒にいたい! お姉ちゃんやララや魔王なんかに邪魔されないで、ヨシュアを独り占めにしたかった!! 本当に……私だけを見てくれる?」


 切なる願いを込めてヨシュアを見つめるメーサ。

 心から愛する人ヨシュアはその想いに、優しく微笑み頷いた。


「勿論だよ。今もこれからも、ずっとメーサだけを愛すると誓う。だから……永遠に俺と一緒に居てくれないかい?」

「そんなの……当たり前じゃない!」


 ようやく叶った念願の想い。その喜びを表すようにヨシュアの胸に飛びつき、幸せな瞬間を噛み締めるメーサ。


(本当にこれは現実なの? 出来る事なら、このままずっとこうしていたい……)


 微笑みを浮かべて自分を抱きしめるヨシュアの胸で、メーサはそんな思いにかられていた。


 ヨシュアを好きになったのは、初めて会ったあの時から。

 人見知りの自分に、優しく微笑みかけ頭を撫でてくれた。

 転んで泣いたら、担いで運んでくれた。

 姉に泣かされたら泣き止むまで側に居てくれた。


 ヨシュアは、いつどんな時も優しかった。

 でも、それは自分にだけじゃない。


 困っている人が居れば駆け寄って助け、悲しんでいる人が居れば話を聞きに行く。ヨシュアは誰にもでも平等に優しい。

 

 だけど……今この瞬間から、そんなヨシュアは私だけの物。

 もう、あんな事言わせない。


 深く囚われるヨシュアへの想いに、メーサの心は鎖で繋がれていた。囚われてしまった原因は、魔界を飛び出すきっかけになったヨシュアの言葉からだった。



 当時、エリーユの一件から自暴自棄になってしまったヨシュア。そんなヨシュアをけしかけ、暴虐の限りを尽くさせるヨシュアの父インフェルノ。

 

 既に魔界で敵無しとなっていたヨシュアを、メーサ含め止められる者など誰も居なかった。親友の一人であるレメクは行方不明で消息が掴めず、頼りの姉は既にこの世から飛び立っていたのだ。

 

 苦しそうなヨシュアを遠くから見る事しか出来ない自分。そんな情けない状況に、酷く自分を責めたメーサ。ライバルだった姉のエリーユが死んだ事で、ヨシュアへの想いが一層強まっていた事も自分を責めてしまった理由でもあった。


 そんなある日──

 ヨシュアが本当の悪魔へと変わってしまう前に、せめて自分の想いを伝えよう。そう決心したメーサは豹変してしまったヨシュアを、昔良く遊んだ平原に呼び出す事にした。


「突然呼び出してごめん……」

「いや……それで?」

 

 

 張り裂けそうな思いで訪ねたメーサに、早く用を言えといわんばかりで冷たい態度を取るヨシュア。今までされた事がなかった冷たい態度に、メーサは体が強張って中々口を開く事が出来なかった。


「用が無いならもう行っていいかな」

「な、なんで……なんでそんな事言うの!?」


 突き放すようなヨシュアの言葉に、思わず声を荒げて抗議するメーサ。だが、ヨシュアは涙をこぼし抗議するメーサの姿に、無関心な表情でただ黙って見ていただけだった。


 好きな人にされる無関心な態度ほど、心を締め付けるものだ。

 バケツ一杯になったメーサの想いは、溢れ返って零れ落ちた。


「ずっと思ってた。なんでヨシュアはいつも私の想いに気付いてくれないんだろうって……さりげなく言った好きって言葉も、私は二番目で良いからって言葉も、全部はぐらかしてたよね。好きじゃないなら、振ってくれれば良かったのにっ!! でも……今分かったの……ヨシュアは私の事なんてどうでもいい存在なんだって。あんたが見てるのはお姉ちゃんだけ! 死んだお姉ちゃんの亡霊を、ずっと追いかけてる屍よ!!」

「……言いたい事はそれだけか?」


「わ、私なんて事……ごめんヨシュア……ごめん、なさい」


(こんな事を言いに来たんじゃない。ちゃんと好きだって……恋人になって下さいって……なんで私はいつも、素直に言葉が出ないんだろ……)


 本当なら今日、素直な気持ちをぶつけて振られるつもりだったメーサ。ヨシュアの気持ちが自分に無いことなど分かっていた。だからせめて、気持ち良く振られて想いを断ち切ろうとしていた。だが蓋を開けてみればご覧のあり様。必要のない言葉で好きな人を傷付け、当たり散らしてしまった。


 酷く項垂れ、涙で床を濡らすメーサ。そんなメーサの肩に、冷たい態度とは違う暖かい手が置かれた。


「ごめんねメーサ……君をこんなに追い詰めていたとは思わなかった。メーサの気持ちにはずっと前から気付いていたんだ。だけど……俺が好きなのはエリーユ一人。どうしてもメーサの気持ちには答えられなくて、気付かないふりをしていた。それに……メーサを振ってしまったら、もう友達には戻れないような気がしてたんだ。メーサは大好きな友達であり、妹でもあった。そんな存在を、手放したくなかったんだ。本当に、ごめんよメーサ……こんな俺で良かっ──」

「やめてよっ!! なんで優しくするの!? なんで愛してもいない私を受け入れようとするの!? そんなの……おかしいよっ!! もう、ヨシュアなんて嫌い!!」


 追い詰められたメーサの肩に優しく手を置き、柔らかな表情で語るヨシュア。自分の気持ちを殺してまで受け入れようとする無垢な優しさという凶器。

 

 そんな凶器の刃に、メーサの心はズタズタに切り裂かれた。ヨシュアの手を振り払い走り去るメーサの心は……曲がりくれねった道のように歪んでいた。


 その後──メーサは魔界を飛び出し、闇の住人として赤い血で手を染めていくのだった。



 ヨシュアの胸に抱かれながら、辛い思い出を呼び起こして瞳から涙が溢れるメーサ。だが、この涙は悲しい涙ではない。


 人間界でヨシュアに再会し、心の奥底に隠した想いが溢れてきてしまったあの時から、結婚だなんだと自分勝手に事を進めてきてしまったメーサ。


 ヨシュアに気がなくても、もう良いと思っていた。自分の気持ちを好きにぶつけ、重石を乗せて縛ってやろうとさえ思っていたのだ。


 でも……今はそんな事をしなくても想い人は自分だけの物になった。そして、自分だけを好きでいると言った言葉に嘘など隠れていないと確信出来た。ポロポロ零れる涙は、幸せで嬉しい涙だと知らせるサインなのだ。


「さあ、俺達の家で愛し合おうか……メーサ」

「はい……あなた」


 全身で感じるヨシュアの温もりと逞しさ。女の喜びを永遠に味わえるこの場所で、メーサは幸せな時間を過ごしていた。


 そして、一年の時が経ったある日。

 幸せな時間は、脆くも崩れ落ちる。


「あなた!! 朝ご飯出来たわよ」


 いつも通りに起きた朝の事。愛情込めて朝食を作ったメーサは、寝坊助な旦那(ヨシュア)が隠れている毛布を勢いよく剥がして朝の目覚めを伝える筈だった。


「とりゃっ! 起きろ! ……あれ? ヨシュアどこ行ったの!? 隠れてないで出てきてよ!!」


 隠れている筈だったヨシュアの姿はそこには無く、ただ冷たいシーツがベッドにひかれているだけだった。


 嫌な予感がしたメーサは家を飛び出し、必死にヨシュアへ呼びかけながら森中を探し回った。


「どこに居るの!! いい加減出てきてよ……」


 結局その日はヨシュアが現れる事はなかった。そして……次の日も、次の週も、次の月も、ヨシュアは現れない。


 今まで幸せの絶頂にいたメーサにとって、これほどまでに残酷な出来事はなかった。いつまでも現れないヨシュアの幻影を探して、さ迷う日々。あまりの絶望に自ら死を選び、ナイフを腹に突き刺した事もあった。


 だが、死んだと思った次の日には傷など無かったかのように目を覚ます。夢だと思い辺りを見回しても……当然ながら、いつも優しく微笑むヨシュアの姿はそこにない。


 それが追い打ちとなり、メーサの心を壊していく……。


「なんでいないの? なんで? なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」


 幸せの絶頂から一人ぼっちの地獄へと突き落とされたメーサ。

 心が壊れてしまうのも無理はないだろう……。


 それから──更に一年が経ったある日。


「あなた。今日はキノコスープを作ったの。どう美味しい? ありがとうあなた。作った甲斐があったわ。あっ、ちょっと……ご飯中はダメよ? もう……しょうがない人ね。ウフフフフフフフフフフフフフフ」


 見えない何かと会話を繰り広げるメーサ。

 メーサの心は、ボロボロに壊れていた。


 これ以上壊れないようになのか、自己防衛として幻想の中で幻想を見ているメーサ。これ以上見ていられない悲しい光景の中、メーサを現実へと引き上げたのは……。


 憎たらしい笑顔で、愛しのヨシュアにキスをしようとする女神の姿だった。


「ほら……起きないと、私が取ってしまいますわよ?」

「やめて! そんなの……そんなの……」


「ダメェェェェェッッッッー!! ……えっ!?」

「おはようメーサ」

「ちっっ!! 起きたのですね」


 幻想から目を覚ましたメーサの瞳には、いつもの微笑みで見つめるヨシュアと、もの凄く嫌そうな表情で盛大な舌打ちをしたララの姿が映っていた。


「どういう事? 私確か……あれ? ここって、お姉ちゃんの姿が見えた花畑じゃない?」

「そうだよ。どうやら、俺達は幻を見せられていたみたいだ。俺も散々な夢を見せられた……」


「じゃあ、あれは……」

「夢ですわよ。随分誰かとイチャイチャしていましたわね。私がヨシュアとイチャイチャしている間、空気と愛し合っていたのは滑稽でしたわよ? オーホッホッホッホッ」


「てめえっ……殺してやるっっ!!」

「あら怖い! ヨシュア様助けて下さいませ……」


 わざとらしくヨシュアの腕へ抱きつくララに、メラメラと殺意の炎が燃え上がってくるメーサ。


(ここで必ず殺してやるっ!!)


 そんな過激な思考で、ララに襲いかかる。


「八つ裂きにしてやる!!」

「や、止めて下さいませー!! 単なる冗談ではありませんか!」


「うるせえ! 逃げるな馬鹿女神!!」 

「イヤッッー!! ごめんなさいですわー!!」


 綺麗な花畑を、汚い言葉で追いかけ回すメーサと逃げ惑うララ。


 本当に殺しかけないほどの殺気を放つメーサだが、そんな自分を現実へと引き戻してくれたのは、憎きライバルであるララだという事をメーサはなんなとく分かっていた。それが、余計に腹立たしかったのだ。


 これでメーサを現実へと引き戻す事が出来たが、まだ一人……童心に返って見えない誰かと遊んでいる親友を引き戻さねばと、静かに近寄っていくヨシュアだった。

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