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お人よし悪魔と駄女神さま  作者: 瑞沢ゆう
四章 それぞれのケジメ
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世界樹の迷宮

 突きつけられた刃──

 ヨシュアにとって初めての死の恐怖。


 五感全てがこの相手には抗えないと信号を出す。そんな危険な状況の中、ヨシュアはこの危機を脱出する為に賭けに出る。


「ロ、ロリババアは大好きなんです! 凄くタイプです!!」


 一歩間違えれば死が待っている状況でその発言はどうなのか……。審議が問われるが──果たして、この賭けが吉と出るか凶と出るか。


「へ~。ふむふむ。そっか~! ヨシュアたんはラファたんが好きなんだね?」

「は、はい! 大好きです! だから……落ち着いてお話しませんか?」


「え~。どうしよかっな~? ラファたん困っちゃ~う」


(よし。なんとか上手く誤魔化せた……)


 もじもじと体をくねらせ浮遊するラファエルに、危機を脱出したと一安心するヨシュア。しかし、ヨシュアの発言は地上で物議を醸していた。


『アイツはどんだけすけこましなんだ……』


 レメクやゴルゴン含め、エルフ達は呆れ顔。メーサとララは新たなライバルの出現かと、戦々恐々としていた。


 すけこまし認定を図らずも受けてしまったヨシュア。

 だがこれだけは知って欲しい。

 ヨシュアは生きる為に必死だっただけだと……。


「と、とりあえずお茶でもしないか?」


 もじもじラファエルにありきたりなナンパを仕掛けるヨシュア。こんなナンパに引っ掛かるのは余程暇をもて余した女性だけだろう。


 まあ、ラファエルはその暇をもて余し過ぎた女の一人だが。


「う~ん。ちょっとだけだよ? 何もしないって約束だからね?」

「何か、する訳ないよ。お話したいだけだから……」


「本当かな~? どうしよう! ラファたん襲われちゃう! キャハッ!」


 本当に何かしたい訳ではないヨシュアは正直に答える。

 どちらかと言えばこのまま帰って欲しい位だ。


 そんなヨシュアに、ラファエルは手で目を覆い恥ずかしがっている。わざとらし過ぎる仕草。これがロリババアの真骨頂かと、薄ら寒さを感じるヨシュアだった。


 その後──ゴルゴン宅でラファエルを囲みお茶会を始めたヨシュア達。このお茶会の真の目的はラファエルが何をしに来たのかを聞くためだ。


「それで、ラファエルさんはどうして此処に来たのかな?」


 ヨシュアがお土産にと持って来た帝国産のオヤツ。それを食べて機嫌が良さそうなラファエルに、ヨシュアはそれとなく質問を投げ掛ける。


「んぅ? 勿論遊びに来たんだよ?」

「じゃあ、遊びは終ったしこの後は帰るのかな?」


 頼むから帰ってくれと願うヨシュア。オヤツを口一杯に頬張ったラファエルはそんなヨシュアの期待に答えるのか? ゆっくりとオヤツを味わったラファエルが、口を開いた。


「帰らないよ! あっ! ラファたん、ヨシュアたんにお願いが有ったの! それ聞いてくれたら帰るよ!」


 お願い──嫌な予感をひしひしと感じるヨシュア。


 だが、お願いを聞かないと帰ってくれないのらば聞くしかないだろう。何せこの大天使とまともに戦っても、今のヨシュアでは勝ち目がないのだから。


「お願いって、なんだい?」


 お願いの中身を待つ時間──皆、緊張の面持ちでその答えを待っていた。


「うーんとね! 世界樹の迷宮に潜って強くなって来て欲しいの!」

「世界樹の迷宮? なんだいそれ?」


 世界樹の迷宮とは何か? 皆が不思議そうな表情をしている中──メーサの母と父ゴルゴンだけは苦々しい表情をしている。


 その表情からして、世界樹の迷宮について何かを知っているようだった。そして、ラファエルがヨシュアの疑問に答える前に、ゴルゴンが勢い良く席を立ちヨシュアに叫んだ。


「行ってはダメだヨシュア! 世界樹に入って出てきた者は今だかつていないのだ!!」

「あ~もうっ! ラファたんが喋ろうとしたのに! で、行ってくれる? ヨシュアたん!」


 行ってはダメだと言うゴルゴンの叫びに怒るラファエルだが、ゴルゴンの叫びなど直ぐに忘れかの様にヨシュアへ問い掛けた。


 と言っても、ラファエルの中で答えはイエスしか無い。もしもヨシュアが断るなら──この場の全員を皆殺しにして、ララを連れて帰るだけなのだ。


「……分かった。その代わり、俺が出て来るまで何もしないと誓ってくれ」

「ダメだヨシュア! 迷宮に入ったら出て来れんぞ!」


「ゴルゴンさん……世界樹の迷宮とは一体なんなんです?」

「それは……分かった。説明するから思い直してくれ」


 ヨシュアの問いに一瞬言い淀んだゴルゴン。しかし、これを話して思い止まってくれればと、腰を落として重い口で世界樹の謎を語り出した。


「世界樹の迷宮──私達エルフが世界樹を守る前から存在していた難攻不落のダンジョンだ。世界樹の不思議な力を知っていた者達はその力の源がダンジョンに有ると踏んで無謀にも潜って行った。だが、その者達がダンジョンから出て来た事は無い。その中にはヨシュア──お前に匹敵するほどの強者もいたのだ。そいつはかつての魔王。そして、俺の親友でも有った男だった……頼むヨシュア! 私はもう失いたく無い……」


 ゴルゴンが失った友。

 その男はかつて最強と呼ばれていた魔王だった。


 決して屈せず。

 決して負けない。

 

 戦場を駆け、若くして魔王に成り上がったゴルゴンの親友。

 その男が魔王の地位に満足出来ず次に目をつけたのが、当時禁足地としてエルフ達が封印し、隠していた世界樹の迷宮だった。


 彼は言った。


「俺が此処から出てきたら次は世界を征服しに行くぞ」


 ゴルゴンは返した。


「此処から出て来た者はいない! 頼むから行かないでくれ! 大切な親友を失いたくない……」


 そんなゴルゴンを振り切って彼は最後にこう言った。


「俺は必ず出てくる。待ってろ親友──」


 それが彼の最後の言葉。


 悪魔族では有り得ない白い肌の異端児として魔王に成り上がった青年はその日を最後に姿を消した。

 

 遠い過去を思い出し、ヨシュアに懇願するゴルゴン。

 その辛そうな表情にヨシュアも想いを汲み取りたかった。


「ごめんなさいゴルゴンさん……きっと、俺が行かなければこの場にいる者達やエルフは皆──殺されます。だから、行かないと」

「おー。良く分かってるねヨシュアたん! もし行かないって言ったら、全員殺してララ様連れて帰るだけだよ~」

「ラファエル! 今すぐ帰りなさい! これは女神の命令です!!」


「はぁ? 偉そうにすんなよ? 弱小豊穣女神ごときが」

「…………」


 凄んだララを蹴散らすラファエル。その様子から、天界では豊穣の女神より大天使の方が実質的な力は上だと物語っていた。


 ララを蹴散らした時に発した殺気。

 それは全員がヤバいと感じ誰も口を開こうとしない。


 そんな中、ヨシュアはそっと立ち上がり、ゴルゴンに目を合わせた。


「ゴルゴンさん。迷宮の入り口に案内して下さい」


 覚悟の籠った瞳。その瞳を持った青年をヨシュア以外に知っていたゴルゴン。同時に、この瞳をした者は止まらないという事もゴルゴンの脳裏には深く刻まれていた。


「また止められないのか……」


 そんな一言を呟いたゴルゴンは、ヨシュアを伴い迷宮の入り口へと向かって行く──



 世界樹の根元──そこには土に隠され、偽装の魔法が掛けられた秘密の扉が存在している。


 ゴルゴンの親友が迷宮に入ってからというものその扉が外から開かれた事は無い。万が一中から出られる様にしては有るが、万が一は今まで起こった事は無いのだ。


「──これが世界樹の迷宮への入り口……」


 ゴルゴンによって偽装の魔法が解かれ、秘密の扉が姿を現す。

 複雑怪奇な術式模様が描かれたその扉を開け放つゴルゴン。


 扉の下の階段。その先は──真っ暗な暗闇が何処までも続いている様な二メートル四方の穴がポッカリと開いていた。


「ヨシュア……本当に行くのか」


 ゴルゴンのすがる様な瞳。

 その瞳を見ない様に視線をずらし、ヨシュアは答える。


「行きます。でも、大丈夫です! 俺は必ず出て来ます。待っていて下さい」


 かつての親友と同じ言葉を吐くヨシュア。

 ゴルゴンは唇を噛み締め、俯くしか出来なかった。


「ラファエルさん。居るんでしょ?」


 何も無い空間を見つめ、ラファエルを呼ぶヨシュア。

 次の瞬間──何も無かった空間が歪み、狭間から突然現れた様にラファエルの姿が現れる。


「あ~あ……バレちった! 流石ヨシュアたん! ラファたんが大好きって言葉に嘘はないね!」


 ヨシュアで無ければ到底ラファエルの気配を感じる事が出来なかっただろう。その証拠に、突然現れたラファエルにゴルゴンは冷や汗を垂らしてその恐怖の存在に困惑していた。


「今から行って来ます。俺が出て来たら帰って下さいよ」

「分かってるよ~。ラファたん約束は守るもん! まあ、出て来れたらだけど!」


 ラファエルの返答を聞いたヨシュアは、背後に続く穴に振り向くと、その歩みを暗闇に消そうとしていた。


「待ちなさいよヨシュア!」

「そうだ! 俺達を置いてくなんて許さねえぞ!」


 ヨシュアが迷宮に入ろうと暗い穴に足を掛けた時──

 背後からした二人の親友の声が、ヨシュアの歩みを止めた。


「レー君にメーサ……ダメだ! 二人は連れていけない」


 何をしに来たのか検討がついたヨシュアは、近寄ってくる二人にそんな言葉を掛ける。だが、そんな言葉が返ってくる事は二人共重々分かっていた。


 それでも、ヨシュアをまざまざ一人で死地に向かわせるほど、二人は冷たい友では無い。


「うるさい! あんたがなんと言おうと私は着いてくからね!!」

「俺もだ!! 格好つけてんじゃねえ!」

「二人共……」


 ここまで言われるとヨシュアの心も揺らぐ。だがここまで言ってくれる友だからこそ、連れていけないのだ。


 誰も帰って来ない迷宮。


 そんな所に親友二人を連れていけるほど、ヨシュアの心も冷たくは無い。


「ダメったらダメだ! 二人は──」

「感動的な友情だね! 連れて行きなよヨシュアたん! うん! これはラファたんからの命令です!」


 本当は着いてきて欲しい。そんな思いを心に閉まい、断腸の思いで二人を拒絶しようとしたヨシュア。そんなヨシュアの言葉を、ラファエルは残酷な命令で掻き消した。


「くっ……でも!」

「良いから行けよ。早くしないと皆殺しちゃうよ?」


 二人を想うヨシュアを踏みにじるラファエル。

 その表情は、愉快極まりないと笑っていた。

 

 ラファエルの圧に屈し、拳を握り黙るヨシュアの背中をレメクとメーサはそっとさする。


 そしてとうとう──


 レメクとメーサを連れたヨシュアは難攻不落の世界樹の深層へと足を踏み入れて行く。


「絶対に帰ってきてくれ……」


 ゴルゴンのそんな思いを背に──

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