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お人よし悪魔と駄女神さま  作者: 瑞沢ゆう
四章 それぞれのケジメ
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メーサの罠

──エルフの里。深き森の中がその存在を包む、謎深き種族であるエルフ。そんなエルフの里へ悪魔が飛来する。


(此処に来るのも久しぶりだ……)


 暖かい森の囁きが吹くエルフの里では、エルフ達がのどかに暮らしている。そんな平和な里をヨシュアは考え深そうに眺めていた。


「ヨシュア! 遅いー!」

「メーサ。ごめんごめん! 今行くよ!」


 巨木をくり貫いて作られた家の窓からヨシュアを発見し、叫ぶメーサ。どうやら、ヨシュアの到着を窓側に待機してずっと待っていたようだ。


 思い出深いその家を見つめ、森の澄んだ空気で体を満たす様に、深く息を吸い込んだ。そして、メーサが待つ家へ走り出す。


 家の玄関へと到着したヨシュア。玄関の前で覚悟を決めた様な表情をすると、意を決して扉をノックした。


『コンコンコンッ』


「ヨシュアです! お久し、ぶりです」

「ああ……入れ」


 ヨシュアへ返事を返したのはメーサの父ゴルゴンだ。

 エリーユの事件以来、里を訪れていなかったヨシュア。

 厳格なゴルゴンの声に鼓動が高鳴るのを感じた。


「失礼します」


 ヨシュアが扉を開け中に入ると、窓側にメーサが座っているのが見える。そして玄関を開けて直ぐのリビングにはゴルゴン、メーサの母、レメク、ララがテーブルを囲んで座っていた。


「久しぶりねヨシュア君。元気そうで良かったわ……」

「挨拶にも来なくてすいませんでした……」


 メーサの母の優しげに微笑む顔を見て頭を下げるヨシュア。そんなヨシュアに声を掛けたのはゴルゴンだった。


「まったくだ!! あれ以来一度も来ないとはふざけるのもいい加減にしろ、ヨシュア!!」

 

 あの頃と変わらない雷がヨシュアへと落ちる。そんな雷にヨシュアの目からポタポタと滴が垂れた。


 ゴルゴンの声は怒りに満ちた声ではない。親が子を想い、叱る声だ。その慈愛に満ちた雷が、ヨシュアの痼を溶かしていく。


「お前は優し過ぎるのだ! あの事件は決してお前のせいではない! 世界樹が自らを守ろうとお前を暴走させただけにすぎん。寧ろ、暴走によって敵以外犠牲になったのが一人だったのは奇跡だとすら思う。その犠牲が私の娘だったのは無念だ……だが! ヨシュア。お前が生きていて本当に良かった。お前の事は息子だと私は思っている。そんな息子の元気な姿が見れて本当に、良かった!!」

 

 腕を組みヨシュアを見据え語るゴルゴンは、厳格な顔に似合わない滴で濡れていた。そして、顔を上げないヨシュアの元へゴルゴンは歩み寄ると、そっと抱き締めた。


「ゴルゴンざーん! ごめんなざい!! 俺、俺……」

「いい、喋るな。お前の気持ちは良く分かる。今まで辛かったなヨシュア」


「うぅっ! うわっーん!!」


 子供の様に泣きじゃくるヨシュア。そんな珍しい場面を眺める一同は皆、穏やかな表情でヨシュアを見守っていた。暖かい木の温もりを感じる家。そんな家の空気は、暖かいものだ。


 だが──そんな感動の場面に、衝撃の言葉がゴルゴンから発せられる。


「しかし、久しぶりの挨拶が結婚の挨拶とは驚いた。だが、良く決心したなヨシュア? お前がメーサを貰ってくれるとは何とも嬉しい事だ」

「ええっっ!?」


 結婚の挨拶──聞き慣れないその言葉に溢れていたヨシュアの涙腺はピタりと止まる。


「どうしたヨシュア?」


 驚いた顔のヨシュアへ不思議そうな表情で問い掛けるゴルゴン。その表情に嘘は無いと一目で分かる。


「結婚の報告? 俺にはなんの事か……」

「またまた~! もう誤魔化さんでいい。最初は厳格に迎えるつもりだったんだがな。お前の顔を見たらそんな茶番どうでも良くなったわ。本当におめでとう!」


 ゴルゴンは本当に嬉しそうにヨシュアを再度抱き締める。

 そんなゴルゴンとは違い困惑を極めるヨシュア。

 だが、この混乱をもたらした人物には覚えがあった。


 その人物を、ゴルゴンに抱き締めながらも垣間見ると──


 なんとも下卑た笑み。"ニタァッ"とした悪魔顔負けの表情で、そいつは笑っていた。


(嵌められた!! これは完全なる罠だ!!)


 悔しそうにメーサを見たヨシュアは、悔しさを誤魔化す様に拳を固く握ったのだ。そう、これは既に後の祭り。奴は既に、両親どころか里中にこの虚偽を伝え、根回しをしているに違いない。

 

 その証拠にゴルゴンの家の外にはエルフ達の気配が蠢いていた。


「今日はお祝いの日! お前達の結婚を里全員で祝うぞ! さあ、皆が待っている。今日は宴会だ!!」


 ゴルゴンはヨシュアの肩を抱き、そのまま玄関の扉を開け放つ。すると──


「「メーサちゃん! ヨシュア! 結婚おめでとー!!」」


 里のエルフ全員で祝いの言葉を叫んでいた。


「メーサ! ヨシュアと手を組んで中央まで歩け! 今日はお前達が主役だ!!」

「うん! ヨシュア行こ?」


 ゴルゴンと代わり、隣へと来たメーサが端から見れば可愛いらしい笑みでヨシュアへ問う。しかし、ヨシュアからすればその可愛いらしい笑みは悪魔の微笑みにしか見えない。


「さあ行きましょうヨシュア! 皆が私達を祝ってくれてる!」


 中々動こうしないヨシュアを半ば強引に引きずっていくメーサ。最早、ヨシュアに抵抗出来るすでは無かった。


 そんなヨシュアにふと、疑問が浮かぶ。


(こんな事、ララちゃんが騒がないのはおかしい……)


 そう思い、引きずられなからもララの顔をチラッと見たヨシュア。その表情は、何とも穏やかな表情でヨシュア達を見守っている。


 何かおかしい……。

 何かが引っ掛かるヨシュアに、ある疑惑がちらつく。


(もしや……裏取引!?)


 裏取引──あのメーサならやりかねない。


 これは推測だが、リリンが居ない事をいいことに、魔界ではメーサが正妻、人間界ではララが正妻そしてリリンはどちらも妾。


 そんな裏取引を二人は交わしたのではないかと、ヨシュアの中で疑惑が駆け巡る。


(でも、まさかそんな事しないか……)


 疑惑を払拭する様に頭を振ったヨシュアは、一応メーサの顔を見てみる。そのメーサは、ララとアイコンタクトを交わし何故か頷き合っていた。


(ま、間違いない!! そうか、完全に嵌められたのか……)


 頷き合う二人を見たヨシュアは疑惑が確信に変わり、すっかり諦めた表情でメーサに引き摺られていくのだった。


「それでは! 二人の結婚を祝い乾杯したいと思います! 二人の友人としてこんなめでたい日は無いです。二人共──おめでとう!! 乾杯ー!」

「「乾杯ー!」」


 友人代表としてちゃっかり乾杯の音頭を取るレメク。その後、宴会は大盛り上がりを見せる。


 ヨシュアやメーサの幼い頃のエピソードを語り酒を飲む者。この機会に自分も幸せを手に入れようと奮闘する男女。ララに至ってはベロンベロンに酔っ払いくだを巻いてる始末。


 ララが酔っ払って何をしでかすか気が気ではないが、そんな事──頭真っ白のヨシュアにとってはどうでも良かった……。


「うぉー!! 俺の家が伸びてるー!!」

「こっちの作物は急にでかくなったぞー!!」

「せ、世界樹にキノコ生えとるー!!」


「「奇跡じゃー!! うぉー!!」」


 その後──里が大変な事になったのは言うまでもない。

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