図る者
ヨシュアがエルフの森を目指している頃──
海岸の動向を見ていたシヴァはイフリートへ報告するために、魔王城へ帰還していた。
「大変よ貴方!! ヨシュア・デモンが帰ってきたわ!」
「なんだと!! 何故突然……」
「お陰で財を尽くした船は沈められたわ……どうするの貴方?」
「どうするもこうするもなかろう!! 出来る事など精々此方の陣営に加える為に策略する位しか出来ん!」
「では、どうやって? 地位、名誉、女。色々有りますが……」
「そんなもの分からん! そういう事はお前の仕事だろ!」
「ですが、あの男は欲がなく何を欲しているのか……」
「折角魔王になったというに……邪魔な奴だ……」
ヨシュアの帰還により、計画が崩れていくのが想像出来る二人は、頭を抱え項垂れる。
そんな時──幼い声が二人に届く。
「困ってるの? 助けて上げようか?」
「だ、誰だお前は!?」
「あ、貴女は……」
イフリートとシヴァの前に現れたのはショートカットの青い髪が際立つ少女。
突然現れた少女に驚くイフリート。
対してシヴァは会った事が有る様な口振りだ。
「シヴァよ! こやつが誰か知っているのか?」
「し、知りません!」
イフリートの問いにしらをきるシヴァ。
その表情は焦りさえ見える。
「ひどーい! ラファたん忘れるとか酷いよ! ラファの渡したお薬のお陰でそのオジサンが正気に戻ったのに!」
「なんだと!? それは誠かシヴァよ!」
「い、いえ、それは!」
イフリートの問い詰めに、しどろもどろになるシヴァ。
その様子が少女の言っている事が本当だと物語っている。
「なんという事だ……こんな少女に助けられるとは。それにお主、魔族では無いな?」
「天使だよ! 天使のラファたん!」
「天使? なんだそれは?」
「うーん、説明するの面倒くさい! それより、困ってるんでしょ? 助けて上げようか? ヨシュアって奴より、強くなるお薬上げるよ?」
「フッ、何を言うておる。薬ごときでそんな事が……可能なのか?」
「ウフフ。興味有るんだね! じゃあ、少し効能が低いもの飲んでみて!」
イフリートのゴツゴツとした手に、小さいラファエルの手から渡されたカプセル。そのカプセルをイフリートは訝しげに見つめる。
本当に飲んで大丈夫か? そう思い妻のシヴァを見ると、シヴァは小さく頷いて飲んでも大丈夫だと表している。
疑い深い妻が信頼している相手なら大丈夫か。そう思ったイフリートは、腹を据えカプセルを口に放り込み飲み込んだ。
「──ぐはっ! く、苦しい!」
カプセルを飲み込んで数秒経つと、突然イフリートが腹を抑え苦しみだした。
魔王の王座から転げ落ち苦しむイフリート。その様子を見た妻であるシヴァは、ラファエルに向かって怒号を飛ばす。
「貴様何を飲ませた!! やはりお前は間者だったか!!」
そんなシヴァに、ラファエルは穏やかな口調で答える。
「まあまあ。もう少ししたら効果が出るから、怒らないで待っててね」
その答えを怪しむシヴァはラファエルを一睨みすると、苦しむイフリートに寄り添い背中を擦る。そして──
「うぐっ! ううっ~、ん? な、なんだこれは!?」
苦しんでいたイフリートだが、突然治まった痛みと同時に、不思議な感覚を感じていた。
(なんだこれは? 力が、力が奥底から湧き出てくるようだ!)
謎の感覚に支配されたイフリートに、もう痛みは無い。そして、徐に立ち上がったイフリートはラファエルを見据えると、突然高笑いを上げた。
「カハハハハッ! これは素晴らしい! ラファたんと言ったな? お主は最高だ! カハハハハッ!」
突然おかしくなった様に高笑いをするイフリートに、困惑するシヴァはその原因をラファエルへと問いかける。
「どういう事なの!? 一体何を──」
「強くなるお薬を上げただけだよ? どうする? もっと効果が有るお薬飲んでみる?」
「勿論だ! これ以上の力を得られるなら喜んで頂こう!」
「いいよ! でも、今度のはもっと苦しいよ?」
「構わん! それ位の痛み力と引き換えなら耐えようではないか!」
「じゃあこれどうぞ!」
飴を渡す様なノリでラファエルから渡される薬。
その薬を勢いよく飲み込んだイフリートは、先程とは比べものにならない痛みに襲われる。
「ウワッッッ!! 全身が焼けるようだ!!」
火の耐性を持った炎鬼族にらしからぬ言葉。しかし、未知の痛みに襲われたイフリートが表現出来る言葉は、最早それしか浮かばかった。
だが痛みに耐え、立ち上がった時──イフリートは確信した。
この力が有れば世界は自分のもの。
あのヨシュアでさえ赤子の様に捻り潰せると。
こみ上げる力。沸々と沸き上がる自信。
全身を駆け巡る力を確認する様に、右手の感触を確かめたイフリートは、魔王の間の窓際に近付き窓を勢い良く開け放った。
「見よ。これが我の力だ!!」
イフリートは叫びを上げ、右手を窓から突き出すと、拳大の火の玉を放った。その光景を困惑しながら伺う妻のシヴァ。
そんな火の玉で何を? そう疑問に思うシヴァだったが、その後の光景がその疑問を吹き飛ばした。
『ドゴォンッッ!!』
遠くに見える高く聳えるハゲ山。
その山は爆音と共に、消し炭となった。
「なんて事……」
空いた口が塞がらないといった表情の妻を、イフリートは満足そうに見つめている。
しかし、何故拳大しかない火の玉でそんな事が出来るのか? それは拳大の火の玉に、山を消し飛ばすほどのエネルギーが込められているからだ。
破壊に派手な演出は要らない。
スマートに。そして確実に破壊出来ればそれでいいのだ──
「凄ーい! じゃ、これで大丈夫だね! ラファたんはお空から見守ってるから! じゃあね~」
別れの言葉を軽い雰囲気で告げたラファエルは、イフリートが開け放った窓からその身を投げ出した。
驚いたイフリートはラファエルの姿を確認するため、窓から大柄な体を乗り出す。
そして、イフリートの目に飛び込んてきた光景は──
小さな体に不釣り合いな白い翼をはためかせた少女。
ラファエルの姿だった。
「一体何者なのだあやつは……だが、力をくれた女神には違いない! フフ、フハハハッ! 感謝するぞ小さき者よ!!」
イフリートの太い笑い声と感謝の言葉。その言葉を背に、ラファエルはとある所を目指し羽ばたく。
(フフ。喜んでる喜んでる! これで、生まれ変わるヨシュたんの力を測る位にはなるかな? 面白くなってきたね! フフ)
何かを図りながら……。
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