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お人よし悪魔と駄女神さま  作者: 瑞沢ゆう
三章 探し求める者
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大天使

「──という訳じゃ」


 話を終えたリリン──何事も無かったかのように中断していた食事に戻り、頬をハムスター並みにパンパンに膨らませ始めた。

 

 コミカルな絵では有るが、これは彼女のなりの気遣いなのだ。自分が食事に気を取られているうちに、皆で話し合ってくれという。


 だが、誰一人として口を開こうとしない。リリンの気遣いは無駄に終わりそうな雰囲気に包まれていた。


 何故か? 


 それは、新魔王となった男が原因だった。


 それまでの魔王が部下や反乱軍に王座を引き摺り下ろされる、という事自体は魔界では良く有る事。しかし、今回の反乱首謀者はイフリート──レメクの父なのだ。


 過去にレメクの兄がエルフの森へ攻めいった事でエリーユという大事な友を亡くし、ヨシュア達が辛い目に合っている。


 そして、今回は父親が問題を起こしているのだ。俯いて絶望のオーラを放っているレメクを見たら、ヨシュアもメーサも、とても軽々しく口を開けなかった。


 そんな三人の空気を感じ、助け舟を出した人物がいた。


「リリンさんでしたっけ?」

「ん? そうじゃが、なんじゃ小僧」


 アダムが流れを変えるため、リリンに問い掛ける。


 実はアダム──ヨシュア達が魔族であり、魔界から来た事を知っている。スネーク事件の後に、ヨシュアから直接聞いていたのだ。


『これを聞いて不気味に思ったり、恐怖を感じたら遠慮なく離れてくれて良いよ』

『そんな事感じません! ヨシュアさんが何者で有ろうと、僕達を救ってくれた英雄にかわりありません』


 ヨシュアのカミングアウトにも、堂々とそう言い切るアダム。そんなアダムだからこそ、ヨシュアが王になったエデン国の大臣を快く引き受けたのだ。


「助けてくれた人物に、まったく心当たりは無いんですか?」

「んー、無い──いや、待てよ……古い文献に白い翼を生やした者について書いてあったような」


 アダムが空気を変えるため問い掛けた質問に、リリンは最初こそ知らなそうな表情で唸っていたが、記憶の隅から何かを見つけたようだった。


「その文献にはなんと?」

「確か──白き翼を生やし舞い降りる者、神の使いなり。神の使いから降りた言葉逆らうべからず。逆らえば天の裁きが下るであろう──そんな事が書いてあったと、記憶しておる」


「なるほど、神の使い……て事は、天使という事ですかね? おとぎ話とかで出てくる。ヨシュア王は心当たり有りますか?」


 アダムから振られた話題。


 そりゃあもう、心当たりがあった。何せ、天使達とは二回ほど矛を交えていたのだ。


 一回目はララがアザゼルとカマエルという天使に捕まっていたので、助けるため、カマエルという天使と戦った。

 

 二回目はその後一ヶ月ほど経った時、リベンジとして現れたアザゼルとカマエル、二人の天使と戦いになったが、少し本気を出したら一瞬で終わってしまった記憶がある。


「その白い翼を生やした者に心当たりがある」

「本当かヨシュア!! 一体何者なんじゃ!? ううっ!」


 ヨシュアの発言に食い付いてきたのは、急に発言した事で喉に食べ物を詰まらせたリリンだった。

 

「だ、大丈夫!? ほらっ、お水」

「うぅっ! んぐっんぐ……ぷぁー! 危なかった……それで、我を助けてくれたのは何者なのじゃ?」


 息を吹き返したリリン──慌てたのを反省したのか、膝に両手を置いて、落ち着いた態度でヨシュアへ問い掛けた。


「うん──その人はおそらく、アダムが言っていた通り天使で間違いない」

「……天使とは何なんじゃ?」


 そもそも天使の正体が分からないリリン。ヨシュアの答えに疑問を深め、表情を曇らせる。


「それは……ララちゃん、説明してもらっても良いかな?」


 天使だと答えたヨシュアだったが、自分自身も天使について詳しい訳ではない。精々、ララが住んでいた天界で神や女神のお手伝いさんをしている、という事位しか分かっていなかったのだ。


 そこで、おちゃ女神様ことララに説明して貰おうと、白羽の矢を立てたヨシュアだった。


「宜しいですわよ!」


 胸を張り、誇らしげに答えるララ。

 ヨシュアに頼られた事が、余程嬉しかったのだろう。


「そやつは誰じゃ?」と、そんなララを細目で睨むリリン。女の感というやつなのか、ララに対して良くない感情がわいていた。


「私ですか? 私はヨシュア様の──」

「──あっー! この美しい女性は我がエデン国の大臣のお一人! ララ・デメテール様です! その美貌とお優しいお心で国民に大人気なんですよ!!」


 ララの言葉を遮って力説するのはアダム。きっと、ララの言葉の先は妃だの恋人だのと、ろくでもない事だ。


 この状況でそれを言わせてしまえば、ややこしい事になるのは一目瞭然。それを分かってか、ナイスプレイをしたアダムに対して、リリン以外の皆は惜しみない喝采を心の中で送っていた。


「いやですわアダムったら。美しいだなんて……本当の事ですけど!」


 ララの舵を方向転換出来た事に一同は、ほっと胸を撫で下ろす。そして、機嫌を良くしたララは天使についてベラベラと話し出した。


「天使というのは、天界で神々の使いをこなす者達の名称。神々の闘争の駒や日常の世話、時には神々の欲望を満たす役目を担う者。その天使達にも序列があり、きっと貴女を助けた者は位が高い天使ですわ。単独で自由な行動を許されているのは『大天使』と呼ばれる一部の天使達だけですから。良ければ貴女を助けた天使の特徴を教えて下さる? 大天使だったら予想がつくわ」


「う、うむ──容姿と声は幼なかった。丁度そこの小僧位かのう。後は……治療の魔法らしき力を使い、自分の事を『僕』と呼んでいたのう」

「ああ、それなら多分『ラファエル』ね。幼い容姿と治療が得意な天使だとあの子しか思い当たらないわ」


「ラファエル……その者はどういった者なのじゃ?」

「ラファエルは大天使の一人で、主神様の使いの一人。一度話した事が有るけど、不思議な子だった事しか分からないわ」

 

「そうか……ララとやら、大義であった」


 ララの説明を聞いたリリンは腕を組み、表情を悩ませて頭の中を整理し始めた。


 その間、本題を話し合う為、依然として俯いているレメクに視線を合わせヨシュアは口を開く。


「レー君。どうする? 魔界に行くかい?」

「すまない……兄貴だけじゃなく、親父まで問題を……」


 ヨシュアの言葉に俯いていた顔を上げ、申し訳なさそうな表情でレメクが返す。


「レー君が謝る事じゃないよ──それよりどうする? 魔界へ行ってみる?」

「そうだな……一度戻ってけりをつけようと思ってたし、俺は戻ろうと思う。ああだけど、よっちゃんは此処に居てくれ。これ以上、面倒かけたくねえ」


 その言葉に、レメクの瞳をじっと見つめ真剣な表情をするヨシュア。かと思うと、表情を和らげて微笑みながら言葉を返した。


「本気で言ってるのかい? 俺は面倒なんて思った事ないよ。それに、俺が居た方が心強いだろ? これでも腕には自信が有るんだ。それと、エルフの森も心配だしね」

「ヨシュア──頼りにしてるぜ、相棒」


 重苦しかった雰囲気は一変、ヨシュアとレメクの絆によって和やかな空気に変わっていた。


「友とは良いものじゃ……であれば、明日にも魔界へ発つとしよう。イフリートに一泡吹かせてやらねば気がすまぬ! ヨシュアが居れば百人──いや、千人力じゃ!!」

「分かったよ。じゃあ、魔界に行くメンバーは俺、リリン、レメク、メーサ、そしてララだね」


「私もですか?」


 ララは自分が魔界行きのメンバーに入っていたのが意外だったのか、首を傾げてヨシュアに問い掛けた。


「ああ、ララちゃんもだよ。リリンの話だと、ラファエルという天使は俺を誘き出そうとしてるよね? とすると、留守を狙ってララを連れ帰ろうとしているのかもしれないだろ? だから、一緒に行動した方が良いと思うんだ」


 確かに、それは考えられる策略だった。ヨシュアさえ居なければ、ララを連れ帰るなど天使達にとっては容易い事。だが、そんな安易な策略を大天使が立てるのか疑問は残る。


 しかし、一緒に居れば何か有っても守る事が出来るのだ。今考えられる最善は自分の側にララを置くこと、だとヨシュアは思っていた。


「良く分かりませんが、ヨシュア様の側に居られるなら大歓迎ですわ!! ふつつかものですが宜しくお願い致します。初夜は今夜ですか?」


 何故かプロポーズの返事のような返しをするララ。

 それに食い付いたのは怒れる女性陣だ。


「何言っての? 頭かち割るわよ」

「お主さっきからおかしいと思って居たのじゃ! ヨシュアは我の婚約者じゃぞ! 気安く近付くでないわ!!」

「あら、嫉妬ですの? 女の嫉妬は醜いですわよ」


 ララの言葉が導火線に火をつけたのか──ピクピクっと青筋を立てたメーサとリリンが、ララにじわじわと迫りよる。


「ちょっ! 冷静になって下さいませ……私はただ、本当の──ちょっと! 止めて下さいませ!!」


 こうして、おちゃ女神の俵巻きが完成する。


「じゃあ皆、明日の事も有るし今日は解散しよう」


 ヨシュアの言葉が皮切りになり散っていく一同。明日、魔界へ出発するために色々済ませておかないといけない事が有るのだ。


「ちょっと、ヨシュア様ー!! 助けて下さいませ!」


 俵巻きにされたララが助けを求め泣き叫ぶ──しかし、リリンとメーサにがっちりと両腕をホールドされていたヨシュアは「ごめんね」と、謝る事しか出来ない。


「酷いですわー!!」

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