幕間
──カイン王国『コブラ伯爵邸』──
照りつける日差しの中、日陰でお茶を勤しむコブラ。
その庭園に、黒き灰がパラパラと舞い落ちる。
「なんだ、また灰が降ってきおった。この国は風下になると灰が落ちてくるから堪らん……んっ!?」
たまに降ってくる灰に「嫌なものだ」と、顔をしかめていると、降ってくる灰が尋常ではない事にコブラは気付く。
「なんだこれは!? 一体どれだけ降って──人の形!?」
驚き表していると、積もった灰の塊が人の形を形成していく様子が見られた。
──そして、完全に人となった灰が口を開く。
「お兄様……」
真っ黒な容姿からは誰なのか判断がつかないが『お兄様』、そう自分の事を呼ぶのは一人しか居ない。
「サマエルか!? 一体どうしたと言うのだ!」
コブラの問いに、サマエル・スネークは憎々しい口調で、裏切り者の名前を答えた。
「ヨシュア!! 私がここに連れてきた、従者だった男に裏切られ、この身を焼かれた」
「あやつが……そうか、では計画は失敗に終わったのだな? 弟よ」
「申し訳ありません……」
「だが、その様子だと力は戻ったみたいだな。あの薬か?」
「はい、お兄様。帝国にて作らせていた増幅薬で、見事力を呼び戻せました」
「ならば……計画は変更だ。我は帝国へ向かい、薬を全て回収してこよう。関わった者全て、葬って──弟よ、お前は体の回復に努めよ。そして、その身が元に戻った時、我々の報復が、天地を地獄へ変えるのだ!!」
「御意に、お兄様」
力を取り戻せると知った堕天の兄弟。
天を見上げ、燃える復讐心を滾らせていた。
──カイン王国、とある冒険者ギルド。
ヨシュアを騙し、不正に利益を得ていたギルドマスターの男。そして今日、この男は帝国へ裏金を渡し、逃亡を謀ろうとしていた。
(今日でここともおさらばだ。まあ、バレる事は無いだろうが、折角帝国一級市民様になれるチャンス、生かしてやろうじゃないか! 帝国の一級の女を侍らせ、一級の物を食す……楽しみ過ぎてよだれ出ちまうぜ、へへ)
相変わらず下衆な考えに浸るギルマス。そろそろ頼んでいた馬車が来る筈だと思い、マスター室の扉のノブに手を掛けた時──コンコンコンッと、扉をノックする音が響いた。
「誰だ?」
「ミシェルです。少しお話が」
(ちっ、なんだこんな時に……)
心の中で舌打ちしながらも、ギルマスはノブを捻り、ヨシュアをクビにした張本人であるミシェルを招き入れようと、扉を開けると、
「ギルドマスターよ、ヨシュアという人物を騙し、不当に利益を得ていた罪で──お前を連行する!!」
ミシェルが居ると思い開けた扉の前には、体格の良い兵士達が険しい表情で、四人ほど待ち構えていた。
「な、なんの事ですか!? お、俺はそんな事してませんぜ!」
「しのごの言うな!! 証拠は上がってるんだ!」
有無を言わせない兵士達により、ギルマスは羽交い締めにされ連行されていく。
「俺はやってないぞー!!」
罪を否定し叫ぶギルマスだが、その叫びは虚しいものだ。ギルマスを罪人だと決定付ける証拠は、確実に揃っているのだから。
ボケッとした青年がギルマス宅に訪れ、何かの薬草を売っていたという証言。幻の薬草をマスター室で大事そうに保管していたという証言。そして、極めつけはギルマスから実際に幻の薬草を買った人物の証言だ。
コブラ伯爵という人物がその決定的な証言をした事で、ギルマスの罪は言い逃れ出来ないものとなった。
その後、ギルマスは裁判にかけられ、死刑を言い渡される。カイン王国で、詐欺罪にて死刑が言い渡さたのは初めての事だった。騙して得ていた利益があまりも莫大だったのだ。
そして、ギルマスが隠し持っていた莫大な金貨は国に半分没収され、残りが騙されていた者に返される事になった。
しかし、騙されていた者は行方知れず。
そこで国は、五年の猶予期間を定め、この期間に騙されていた者が名乗り出なければ、全額国が没収するという発表がなされる。
多くの馬鹿達はこの発表にのり、俺が私がと、名乗り出るが、血液照合の際に弾かれたのは言うまでもない。
そしてギルマスを告発し、証拠を集めたミシェルは、この発表によりある決心をする。
──冒険者ギルドにて荷物を纏めるミシェル。今日は退職の日なのだ。
ミシェルは今回の事件で責任を感じていた。ヨシュアをクビにしてしまったばかりに、彼が受け取る筈だった報酬が貰えなくなってしまうかもしれない。
それに、幻の薬草を採取出来る冒険者という事実が分かれば、ヨシュアは確実にクラスアップし、名声を得ていたのだ。
その事実が、真面目なミシェルに大きな枷をはめ、とある決心をさせていた。
『ヨシュアを探しだす』
そんな決心をしたミシェル。しかし、彼は行方が分からない。彼を探すために、冒険者ギルドを辞める決心までしたのだ。
一度決めると曲げない。
そんなミシェルの、頑固で真っ直ぐな性格が良く分かる決心だった。
「──ミシェル、本当に辞めて彼を探すの? 彼、何処に居るか全然手掛かりは無いんでしょ?」
荷物整理をするミシェルに、同僚だった女性が心配そうに声を掛ける。それもそうだ、何の手掛かりもない状況で、仕事を辞めて無茶な旅に出る同僚が居たら、誰でも心配になる。
「ええ。でも、必ず五年以内に探し出してみせるわ」
決意のこもったミシェルの言葉に、同僚の女性はそれ以上、言葉が出なかった。ただ、五年という期間が有るのはまだ救いなのかもしれない。
それを過ぎればキッパリ諦めがつく。せめて戻ってきた時に再就職出来るよう、上に掛け合っておこう。そう思った同僚の女性だった。
さて、そんな時、冒険者ギルドに突然大きな声が響いてきた。
「──なんで居ないのよ!! 師匠はここで冒険者してるって言ってたのよ! もう一度調べなおして!!」
「ですから、ヨシュアという人物は冒険者をクビになり、もうここにはおりません……」
「師匠がクビになる訳ないじゃない!! 師匠はメチャクチャ強いのよ! 良いからもう一度調べなさいよ!!」
けたたましい声で怒鳴る女性。
その様子を、冒険者ギルドに居た者達は怪訝な表情で伺っていた。そして、困り果てた受付の女性を押し退け、ある人物が怒鳴る女性に声を掛ける。
「申し訳ありませんが、貴女が探している人の名前、もう一度教えて頂けますか?」
「なによ貴女……ヨシュアって人を探してるんだけど」
「……そうですか。そのヨシュアという人物をクビにしたのは私です。そして、私もヨシュアさんを探しています。もし良かったら一緒に探しに行きませんか?」
「は? ……意味が分からないわ」
「では、行きましょうか。私はミシェル、貴女は?」
「えっ、ヘラクレアだけど……ちょっと! 行くって何処に行くのよー!」
こうして、旅の共『ヘラクレア』と、運命の出会いを果たしたミシェル。このヘラクレアという女性、実は勇者である。だが、この時代に勇者という名前は、古いおとぎ話となっており、その事実を確認出来る人物は殆ど居ない。
そして、この二人がヨシュアに、大きな波乱をもたらすのであった──
次回から第三章です!




