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お人よし悪魔と駄女神さま  作者: 瑞沢ゆう
二章 エノク奪還編
36/68

増悪の堕天使

本日二話目! 

──アベル王国「エノクの町」──


 公爵の娘との縁談が決まり(勿論嘘だが)これでアベル王からの信は、鉄板の様に硬い。そう信じてやまないスネークは、足取りも軽く、悠々とエノクへ帰還した。


「──門を開けろ」


 ヨシュアが門兵にそう告げると、ギシギシと不快な音を立て、門が開く──その門をくぐり、自ら地獄へと、スネークは向かっていくのだった。


 ニヤついた顔でその姿を見送る門兵は「地獄へご招待」そう、静かに呟いた。


「──なんだ? 町がやけに静かだな……ん? おい! 何処へ向かっている!? 聞いてるのか!!」


 領主邸とは別の場所へ向かう馬車。


 不審に思ったスネークは、御者に声を荒げるが、フードを深く被り、顔が見えない御者の男は、スネークの声を無視し、着々と目的地へ馬車を走らせる。


 ──数分後。


 馬車が止まり、流れる景色が絵のように窓に映る。その光景が、目的地に到着した事を知らせていた。


「な、なんだこの人だかりは!?」


 そこに映る光景は、スネークの驚きの声を掻き消すような、人の群れ。先日の声明の時などと、比べられないほどだ。そして、その人の群れは──此方をじっと伺い、死人のように誰一人、口を開く事をしない。


 不気味な光景に、スネークは外へ出る事を躊躇う。

 ヨシュアはそんな縮こまる蛇に、宣告する。


「外へ出ろ」

「な、なんだその口の聞き方は!!」


「いいから──出ろよ」

「…………」


 氷のごとき、ヨシュアの言葉。怒る元気が有ったスネークの、肝を冷やすには十分だったようだ。


 足をゆっくりと動かし、恐る恐る外へ出るスネーク。

 そこで待っていたのは──広場中央へ誘うように、人の群れが割れる光景だった。


「な、なんなんだ一体……おっ、おい! 止めろ!」


 たじろぐスネークの背中を押し、無理やり進ませるヨシュア。そしてその後ろを歩く、御者の男。三人が中央へと進む度に、人の群れが逃げ場を無くすように──閉じていく。最早、蛇がすり抜ける道は、ない。


 やがて──ぽっかりと空いた広場中央へ、たどり着いた三人。人の群れが作りだした道は、完全に閉じる。


「何故アベル王が……それに、こやつらは」


 睨みを利かすアベル王の視線を、オドオドしながら外すスネークは、横一列に縄で繋がれた見知った顔達を、一瞥する。


(この事態で考えられる事は一つ。この繋がれた馬鹿貴族達がへまをやらかし、私の名前を出したに違いない! くそ! こやつらに裏金を渡していた事が分かれば、公爵の娘との縁談も破談だ……それは絶対に避けなければ!  

だが、証拠は隠しているんだ、しらを切り通せ!!)


 そんなスネークの浅はかな考えは、直ぐに打ち砕かれる。


「しらを切れると思うなよ」と、スネークの前に立ちはだかった御者の男。フードを外し、その顔をスネークに晒す。


「お、お前は!? レ、レメク!! 何故だ、お前は死んだ筈だろ!!」


 まさにお化けでも見たように腰を抜かすスネーク。始末させた男が目の前にいる事実に、様々な疑問が頭を支配する。そして、それを問うように、手を下した筈のヨシュアを見上げた。


「おいおい、つれねえな。こっち見てくれよ、スネーク辺境伯様──いや、今はただのスネークだったな!」


 レメクは、子供の仕返しのように言い放ち、スネークの驚く表情を見て馬鹿にするように笑う。


 しかし、スネークに反論する余裕は無い。裏切り者を睨むのに精一杯だったのだ。


「ヨシュア!! お前まさか裏切ったのか!?」

「裏切ったもなにも、最初から貴方に忠誠を誓った覚えは有りませんよ? それに、貴方から実際に、報酬を受け取ってもいませんし」


「嘘をつくな! 契約金として、ちゃんと闇ギルドに支払ったぞ!!」

「残念ながら、俺は受け取ってないんだよ」


 スネークは、ヨシュアがにべもなく言った言葉から、闇ギルドの裏切りが分かり、心の奥から増悪が産まれるのを感じていた。


「奴等!! どれだけ金を払ったと思ってるんだ!!」

「そうだよな、一杯払ったよな……コイツらにもな!!」


 スネークの言葉に、縄で繋がれた貴族達を指差しながら答えるレメク。その目は「言い逃れは出来ない」と、深く訴えている。


「な、何の事だ? そいつらが何を言ったか知らんが、きっと私を貶め、道連れにするために、お前らは嘘を吹き込まれたんだ!」

「馬鹿だなお前は……証拠なら上がってんだよ!」


(証拠だと? 馬鹿貴族達に証拠になるようなものは渡してないぞ! それに、奴等を脅すために用意していた血判付きの書類は、絶対に見付からない場所に隠したんだ!)


「なら、その証拠を見せてみろ!」


 自信ありげに吠えるスネーク。レメクは、その言葉に「持ってこい」と、短い言葉で反応する。


「──団長、持って来ましたよ。俺、眠いんで帰っていいっすか?」


 書類の束を手渡して気だるそうに、エデン騎士団の副団長が呟いた。


「全くお前は……もういい、帰って寝ろ」

「ちっーす!」


 こんな状況の中でも、彼はいつも通りのようだ。

 そんな彼は、今日の業務も終わりだ、と背筋を伸ばし、解放感から悠々とその場を去るのだが──


「おいっ、"シンジ"! 俺は今日でエデン騎士団を辞める。だから、お前が新しい団長な」


 レメクのそんな言葉を聞き、伸ばしていた背筋をダランと、うつむかせ、逃亡を図るシンジと呼ばれた元副団長の男。その後、待ち伏せていた団員達に連れていかれたのは、言うまでもない。

 

「──これが証拠だ。血判付きの裏金を渡した事実が書かれた書類。そして、カイン王国の伯爵と、アルバーン帝国からの密書。こりゃ国家転覆を謀ってるとしか、思えねえな」


 レメクはそう言いながら、書類の束をスネークに突きだす。だが、スネークはその書類から目を反らし「そんなものは捏造だ!」と、まだ諦めないつもりらしい。


「諦めが悪い奴だな……おーい、出て来て良いぞ!」

「「はーい!」」


 レメクの言葉に答えたのは──アベル王の影から現れたアダムとイブだった。


「お久しぶりですね、スネークさん」

「べぇー、だ!」


 スネークを睨むアダムと、舌を出して怒った顔をするイブ。そんな二人を驚きのあまり二度見するスネーク。悪魔に連れ去られたと聞いていたので、死んだと思っていたのだ。


「何故お前達が……そうかそうか、生きていのか! 良かったではないか! 家出したお前達が、魔物に殺られたのはあまりにも不憫だったんで、病死したと報告していたが……そうか生きていた! 嬉しいじゃないか!」


 取り繕うような引きつった笑顔を浮かべ、アダムとイブに近付くスネーク。それを悪鬼のような表情のアベル王が、スネークの首筋に剣を当て、止める。


「一撫ででもしてみろ……お前の首が飛んでもよいならな」

「ひいいぃぃっ!!」


 強烈な殺気に当てられたスネークは、みっともない悲鳴を上げて後ずさる。


「アベル王! どうしたと言うのですか!? 私と貴方の仲でしょうに!! それに、こんなガキ共に何を入れ込んで──」

「──黙れ。私の孫を、ガキ共と呼ぶなら、即刻首をはねる」


「えっ、孫!? ……うひぇ!」


 理解が追い付かず、間抜けな声を出してアダム達とアベル王を交互に見比べたスネーク。やがて、アダムの凛々しい顔つきが、アベル王と重なり──認めたくない事実が突き付けられた気がしていた。


「おじいさま、その辺で」

「じじ、顔怖いよ? 怒っちゃダメだよ」


 険しい顔つきのアベル王を宥めるアダムとイブ。流石のアベル王も可愛い孫達に宥められては、矛を収める他無かった。


「すまんのう……ほれっ、じじはもう怖くないぞ~」

「うん! じじ優しい顔!」


 イブがアベル王に飛びつき、その頭を撫でる。そんな微笑ましい光景に、民衆もほっこりする。


「これはこれは、微笑ましい限りですね! 本当に可愛いお孫さん達だ!」


 スネークの声が、孫との触れあいを邪魔するように耳に入ってくると、アベル王はスネークの方を向かずに言葉を返す。


「白々しい奴め。お前が孫達を暗殺しようとしていた事は分かっておるのだ」

「な、何を仰います! 私がそんな事をする筈──」


「──そ、そいつに、あの子供達を殺すように言われました!!」


 スネークの弁明を遮るように、憔悴した男の声が響く。


「お前は……!?」


 髭面のむさ苦しかった男は、見事に憔悴し、体もガリガリに痩せ干そっていた。その姿を見たスネークは、またもや死んだと思っていた者が現れ、言葉に詰まる。


「間違いありません! もし、子供達を始末出来れば、お前の罪を帳消しにしてやるって、言われたんです! ……これで、俺は無罪放免ですよね!?」


 すがる様に国の兵士に取り繕う髭面の男。

 だが、兵士は男を取り押さえ、耳元で呟く、「罪が消える事など、ない」と。


 その兵士の言葉に、哀れな髭面の男は泣き崩れた。


 哀れな男の告発に、スネークは忌々しそうに男を見つめ、舌打ちをする。そんなスネークの態度に、


「──もう、言い訳は通用しねえぞ」と、スネークの胸ぐらを掴むレメク。


 これだけの証人と証拠、そして民衆の目が、スネークの逃げ惑う心を捕らえ、ついに──スネークは諦めた表情を見せる。


「これまでか……これで、計画も失敗。最早、私に残された手段は、これしか有るまい──」


 そう、ボソボソと呟き、ズボンのポケットから小さな錠剤のようなものを取り出したスネーク。真っ黒な色をした錠剤、その粒をスネークは口に放り込み──飲み込んだ。


「──うぐっ!」


 レメクは鈍い呻き声を突然上げると、腹から血を流し倒れこむ。


「キャーッッ!!」「おいっ、なんだありゃ!?」

「ば、化け物!!」「と、飛んでるぞ!!」


 民衆のざわめきと悲鳴。静かだった町に、混乱の渦が巻き起こる。


 その混乱を起こした──『化け物』


 背中から生やした黒い翼をはためかせ、優雅に空へ舞い、民衆を見下ろす。その化け物は、真っ黒に変色した不気味な裸と、赤く光る目で、増悪を撒き散らそうとしていた──

次はいよいよ第二章クライマックス!

増悪の化け物を止めるため、ヨシュアが!?

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