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お人よし悪魔と駄女神さま  作者: 瑞沢ゆう
二章 エノク奪還編
33/68

女達の戦い

──西の開拓地『エデン国』──


 ヨシュア邸周辺を囲む様に開拓が進められ、とうとう『エデン国』などという名前まで付けられた西の地。


 帝国まで二十日ほどを費やし、開拓の様子も見ていなかったヨシュア。どんな風に開拓が進められているか気にはしていたが、まさか城が建ち、城下町まで建ち並んでいるとは──開いた口が塞がらない。


「ねえ……たった二十日で、どういう事?」


 それは、当然の疑問だった。


「いや……ララちゃんとメーサーがやけに張り切っちまってな」


 ヨシュアの問いに頭を掻きながら答えるレメクだが、その答えで分かる筈がない。


「張り切ってこんなになるの……?」


 湖の様な堀に囲まれた荘厳な城と城下に建ち並らぶ町、それらを眺め、呆れたようにヨシュアは呟いた。


 少しこの現状を説明しよう──


 当初はララの頑張りにより、開拓は驚くべきスピードで進んでいた。少しばかりハチャメチャな開拓だったが、皆に感謝され浮かれるララ──それを面白くない表情で見ていたメーサ。


 開拓の貢献者としてのララとの差が開くばかり。

 このままではヨシュアに見限られるかもしれない。


 焦ったメーサは自分の力を使って、開拓(建国)に貢献しようと奮闘した。


 自分の伝を使い、優秀な技術者や職人、魔法使い達をスカウト(拉致)し、建国に必要な城や町を作らせたのだ。


 メーサのお願い(恐喝)により驚く速度で建築は進み、たった二十日という期間で城と城下町は完成に至ったのだ。


「どう? 凄いでしょ?」


 いつの間にか、レメクと入れ替わる様にやって来たメーサが、ヨシュアに問い掛ける。その顔はとても褒めて欲しそうだ。


「ああ、そうだね……ところでさ、お土産買ってきたから皆で食べてよ」


 ヨシュアの言葉に、メーサは唖然とした。お土産などどうでも良い、何故褒めてくれないのか? 私は大した事はしていないのか? 


 ポシェットをまさぐるヨシュアに、そんな疑問と憤りを感じるメーサ。だが、実際に建築を進めたのは連れて来られた者であって、メーサでは無いのだから憤りを感じるのはお門違いなのだが。


 そんなメーサは、ヨシュアに文句を言うため、口を開く──


「ちょっとぐらい──ん?」


 文句を言いかけたメーサだったが、思わぬ事に言葉が止まる。ヨシュアが差し出した白い箱から、なんだか甘い匂いが漂ってきたのだ。


 フルーツなどの甘い物にはめがないメーサは、その匂いに気を取られる。


「それなに?」

「ん? ああ、これは──フルーツタルトってやつだよ」


「フルーツタルト? 聞いたことないわね……」

「帝国でも最近になって庶民の口に入る様になったみたいだよ? 前は材料が高くて作れなかったみたいだけど、最近は材料も安定してきて、やっと売れるようになったんだって」


「良いから早く寄越して! 間に合わない!」

「え? 間に合わないってなにが──って、うわっ! ちょっ!」


 ヨシュアに殺到する女達、彼女達は開拓団の男達の妻や娘、そしてメーサが拉致してきた者達にいた女達など。


 女達は、嗅いだことの無いような甘い匂いに興奮してしまったかの様にフルーツタルトを強奪すると、何処かに持っていってしまった。


 唖然とその光景を見つめるヨシュアを横目に、メーサは「だから言ったのに!!」と、今度こそご立腹だ。


「なんかごめん……ああ、でもお土産はまだ有るよ! これなら取られないと思う──」


 ポシェットを再度まさぐり、何かをメーサに差し出すヨシュア。メーサはそれを受けとると、不思議そうに見つめる。


「なにこれ? わっか?」

「それはね、ドーナッツって言うんだよ! それは俺も食べたけど、とっても美味かったよ」


「はむ──うん……うん!! 美味しい! 美味しいよヨシュア!」

「だろ? ご褒美には物足りないかもしれないけどね──ありがとね、メーサ」


 そう、ヨシュアはちゃんと褒めるつもりだったのだ。 

 ヨシュアの言葉でそれが分かったメーサは、怒っていた自分が何だか恥ずかしくなり、ドーナッツを夢中で貪った。


「そんなに急いで食べなくてもまだ有るよ──ほらっ」

「うわー! やった! ありがとうヨシュア」


「取られないように家で食べておいで」

「分かった! じゃあ、後でね!」


「あっ! ちゃんとアダムとイブにもあげるんだからね!!」

「わかってるよー!」


 嬉しそうにドーナッツが入った袋を抱えて、走るメーサ。ちゃんと褒めてくれた、ご褒美にドーナッツという、食べた事もないような美味しい物も貰った。


 それらが重なり、有頂天のメーサだが……彼女は本当の目的を忘れていた。頑張ったのは何のためなのか? 自分の有能さをヨシュアにアピールし株を上げ、妃への道を一歩進めるためだった筈。


 その事を忘れているメーサは、妃レースを一歩後退していた。そして、メーサとは違い、一歩進んだ人物がヨシュアの前に現れる。


「ヨシュア様──ご苦労様です。お疲れでは有りませんか?」

「あっ、ララちゃん! ララちゃんこそ色々頑張ってくれてるみたいだね。ありがとね」


「いえいえ、このぐらいどうってこと無いですわ。それより、お疲れだと思って湯浴みの準備をしておきました」

「えっ、それは助かるよ! ちょうどお風呂に入りたかったんだ」


 ララの厚意に笑顔で答えるヨシュアは、腕を引かれ自宅ではなく新しく建てられた『城』へと向かう。


 エデンの城──と、名付けられたその城は荘厳な佇まいに負けない位、城内も豪華絢爛だ。敷き詰められた高そうな絨毯、城を飾る装飾品、慣れていない者では息が詰まりそうな雰囲気に包まれていた。


「なんだか凄いね、少し落ち着かないけど……」

「住めば直ぐに慣れますわ。さあっ、お風呂はこの奥です、行きましょう」


 慣れていない者が此処に居たようだ。ララは、そんなヨシュアの背中を押し、どんどん進んでいく。


──エデンの城『風呂』── 


「どうですか? ヨシュア様」

「あ、ああ……気持ちいいよ」


 ララに背中を洗って貰っているヨシュア。気持ちいい事は気持ちいいのだが──


(風呂まで豪華だと、なんだか居心地が悪い……なんでドラゴンの口から湯が出てるんだ?)


 簡単に言うと、スーパー銭湯のような広さと設備を備えている風呂場。サウナ完備で風呂自体も泳げる広さを誇っていて、露天風呂まで有る。

 

 そんな無駄な豪華さに、ヨシュアは困惑していた。


 ああ、そうだ、ヨシュアの背中を流しているララだが──ちゃんと水着のようなものを着ているので、安心して下さい。


「──しかし、ビックリだよ。こないだまでララちゃんと二人だったのに、今は人が沢山いて城まで建ってる……なんだか、着いていけないよ」

「あらあら、王になる方が弱音など……でも、私の前だけでしたら弱音──吐いても宜しいですわよ?」


「ハハッ、それは助かるよ──そうだ、人が増えてララちゃんも頼られてるみたいだし、大変じゃない?」

「私は、女神ですから頼られるのは嬉しいですわ。それに皆さんと笑顔で過ごせてとっても楽しいです! 天界はあまり楽しい所では無かったですし……」


「そうか……でも、今が楽しそうで良かった」

「今も楽しいですが、ヨシュア様と二人で過ごしていた、のんびりとした時間も──楽しくて、幸せでした。今も二人だけで湯に浸かって幸せです」


「あ、うん……」


 広い湯に浸かり、そんな会話をする二人。


 ララの好意の言葉を聞いたヨシュアは、流石に照れ臭くなったのか──誤魔化す様に天井を見上げ、湯の暖かさを全身で感じていた。


 その横顔を幸せそうに見つめるララ。


 その様子を端から見ると、かなり良い雰囲気だ。

 これで、献身さと直球な好意をぶつけたララは、妃レースでメーサの二歩先を進んだようだった。


──『ヨシュア邸』──


「……くそ!!」

「ど、どうしたんです? メーサさん」

「お姉ちゃんどうしたの~?」


「いや、なんか勝ち誇ったアイツの顔が浮かんで、何か無性に腹が立つ!」

「「……??」」

そろそろ二章もクライマックスです。

今週には書ききれるかな……。

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