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お人よし悪魔と駄女神さま  作者: 瑞沢ゆう
二章 エノク奪還編
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帝国の影

『アルバーン帝国』


 人間界の繁栄の中で、頭一つ飛び抜けた存在であり──実質、『人間界を牛耳っている』と、言っても過言ではない。


 高い軍事力を有し、金銀、油などの豊富な資源を産み出す土地を囲いこみ、人間界の権威と経済を制している。


 帝国民の暮らしも、とても豊かなものだ。肥えた土地に実る作物で、食糧事情は良好。そんな国に知識や経験を持った者達が集まるのは、自然なのかもしれない。


 他二つの大国も栄えているのは確かだ。だが、この帝国の首都『アトランティス』を見ると、他の国は田舎の集落にも感じてしまう。


 ビルのようにそびえ立つ建物の群。建造物の材質は軽く丈夫な『レアメタル』と呼ばれるものをセメントに混ぜ込んだ特殊なもの。


 レアメタル自体の希少性が高く、帝国首都でしかこの特殊セメントが使われる事が無いため、他の国ではビルの様な高層建築物は中々見られないのだが──


 この帝国首都アトランティスでは、それら高層建築物が数えきれぬほど、そびえ立っている。乱立されたビルの間を抜けていく個性的な服装の人々の姿は、先進国の象徴のようだ。


 そして、先進的な街並みと人々を見つめ困惑する男が、此処にいた──。


「す、凄い……」


 驚きの声を上げ、仮面の下では唖然とした表情で街並みを見るヨシュア。その隣で、ヨシュアの驚いた声を聞いたスネークは、満足そうな表情をして口を開いた。


「──そうだな。それに、とても先進的ではないか? 街並みもそうだが、帝国だけが有している『魔導具』はどれも驚くような物ばかりだ。道を走っている魔導車しかり、街と街を繋ぐ魔導列車しかり。その技術力は最早、他国では到底追い付けぬであろう」


「帝国には始めて見るものばかりです。何故、他国ではこのような光景が見られないのでしょうか?」


 ヨシュアの疑問に、スネークの表情は難しい顔に変わる。


「帝国は──他国と足並みを揃えて繁栄する気など、無いのだ。この国では他国からの移住者は一切受け入れない。勿論、優秀な技術者、学者、研究者、そして力の有る一部の選ばれた者達は帝国から声が掛かる。そして、多額の報酬と名誉を与える事で、優秀な者達を競わせ帝国をここまで発展させてきたのだ」

「他国の優秀な人達は軒並み帝国に引き抜かれ、その国で発展する筈だったものが帝国に集中している。という事ですか?」


「まあ、間違ってはいない。だが、その優秀な者達が成功しているのも、帝国の資金力による後押しが有ってに他ならぬ。他国が怪しい研究や学術に金を惜しみなく払う訳がないからな」

「成る程、それで他国は追い付けないと……」


「そういう事だ──お喋りはこの辺にして、行くぞ。帝国大臣様を待たせておる」


 スネークはそう言って話を終わらすと、首都アトランティス中央に一際壮大に君臨している宮殿へと、歩みを進めた──


──アトランティス宮殿『大臣、執務室』──


 恰幅が良く、黒い髭を蓄えた壮年の男が、大臣執務室の扉を乱暴に開け入ってきた。


「──遠路はるばるご苦労だったな、スネーク」


 その男は、見た目にも質が良いと、一目で分かる様な豪華なソファーにその身体を沈めながら──反対側に座って待っていた、スネークに労いの言葉を掛ける。


「いえいえ、" ユダ " 帝国大臣様にお会いできるなら、何処からでも参りましょう」

 

 ユダの言葉に、立ち上がって恭しく頭を垂れながらスネークが、そう返す。 


「そうか、それは嬉しいのう──未来のアベル王」

「またご冗談を、フフ。それよりお元気そうでなりよりです──未来の帝国閣下ユダ様」


「お主も冗談が過ぎるぞ」と、嗜めるユダだが──その表情はとても嗜めるような顔ではない。実際、ユダは『帝国閣下』という、その甘美な響きをかみしめる様に、ニヤけていた。


「まあ、座れ」


 真面目な表情に戻したユダは、にべもなくそう呟く。

 そして、ソファーに掛けたのを確認したユダは、スネークに顔を近付けながら口を開いた。


「それで──アベルとカイン国の状況はどうだ?」


 ユダの言葉に、待ってましたとばかりの表情でスネークは返す。


「まず、アベル国ですが──ようやく辺境伯まで漕ぎ着けました。そして、周囲の貴族と王都の貴族達は最早、私の操り人形同然。アベル国崩壊までもう少し、というところです」

「そうか、それは良い知らせだ。今後も計画通りに頼むぞ──で、カイン国の方は?」


「同志による報告ですと、順調のようです。この後、カイン国にも寄って詳しい話と、今後の計画について話合おうと思っています」

「ふむ……計画も大詰めに来ておる、くれぐれも慎重にな」


「ええ、心得ております──私の報告は以上ですが、ユダ様の方は如何ですか?」


 スネークの問いに顔をしかめるユダは、ため息を一つ吐き、言葉を返す。


「順調といえば順調だが……あの馬鹿、皇帝を見ていると、ほとほと嫌気がさしてくるわ!」

「お、落ち着いてくださいユダ様。その手に栄華を掴むまで、もう少しの辛抱では有りませんか」


「ふんっ、分かっておるわ。だが、一つ言っておくぞ──私は帝国を想ってこの計画を進めているのだ! 自分の為ではない! それを努々忘れるでないぞ」

「も、申し訳ありません。つい、ユダ様の栄光なるお姿を想像してしまい、少々口が軽くなってしまいました」


「フッ……お主は本当に持ち上げるのが上手いのう──まあよい、私は馬鹿の相手に戻る。頼んだぞ、スネーク」

「お任せ下さい、ユダ様」

 

 密談が終わると、ユダはまた扉を乱暴に開け執務室を出ていく。


「ん、お前はスネークの新しい従者だったな? しっかり守れ」

「は、はい!」


 ユダは扉付近で待機していたヨシュアに、そんな言葉を去り際に掛け、その場を後にした。


(帝国大臣だっけ? 中々の雰囲気の持ち主だった……それにしても、スネークと二人で何か企んでるみたいだけど、警戒してるのか、中身までは聞けなかったな……)


 扉の前で聞き耳を立てていたヨシュアだったが、肝心の企みの中身まで聞く事は出来ず、モヤモヤした気持ちを抱いていた。


 そんなヨシュアに、ユダに続いて大臣執務室から出てきたスネークから、声が掛かる。


「──用は済んだ。次はカインへ行くぞ。準備をしておけ」

「その事で少しお願いが……」


 ヨシュアの言葉に、スネークは少し驚いた顔をして答えた。


「お願いだと? お前から何か願い出るとは、珍しい。言ってみろ」

「では──自分、帝国は始めてでして、少しばかり観光したいなと……」


「観光? お前からそんな言葉が出るとはな……まあ、良いだろう。お前のお陰でここまで順調に来れた。二日やる、その間に済ませろ」

「はっ! ありがとうございます」


(二日有れば、報告に行っても十分間に合うな……そうだ、折角だから皆にお土産でも買っていこう)


 観光として、二日間の滞在猶予を貰ったヨシュア。その間に自宅まで戻り、今回の事を報告しようと思い立つ。


 だが、ついでに──と、買っていったお土産が、女の戦いを苛烈にさせていくとは、この時思ってもいなかった……。  

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