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お人よし悪魔と駄女神さま  作者: 瑞沢ゆう
二章 エノク奪還編
29/68

巻きつかれる者達

暑い……暑すぎる。

皆様は、どうお過ごしででしょうか? 

暑い日が続いていますが、体に気を付けて、お互い過ごしていきましょう!



──エノクの町『領主邸』──


「スネーク様、ヨシュア殿が到着致しました」

「そうか、部屋を宛がったら此処に連れてこい」

 

「畏まりました」


 少しやつれ顔の執事がヨシュア到着の報告を済ますと、丁寧にお辞儀をして執務室を後にする。


(さっさと辞めて田舎に帰りたい……)


 そんな彼の心の声が聞こえてきそうだ。

 

 彼はスネークの元で働き始めて早五年、たかが五年だと思われるかもしれないが、彼にとってこの五年は十倍の年月にも感じていた。


 スネークの元で働く前は、別の貴族の元で働いていた彼。ある日、たまたまその貴族の元へスネークがやって来た時、彼の仕事ぶりを見たスネークは、引き抜きの話を持ちかけ、今までの給金の倍だそう、と彼を誘惑する。


 前の貴族の元で働いていても、特に温情など感じて居なかった彼は、誘いに乗りスネークの元で働き始める。

 

 だが、そこから彼の地獄は始まった──


 朝から晩まで働き、夜も急な呼び出しで睡眠を削られる日々に、何度辞めようかと思った事か……しかし、彼は辞めなかった。


 いや、辞められなかったのだ。勿論、給金が高いという事もあったが、それだけでは無い。スネークは鞭だけではなく、きちんと飴も用意していた。


 日に一度、執事やメイドを集め労いの言葉をかけたり、週に一回与えた休みには、彼等が好きなものを用意する。

 

 甘いお菓子や良い酒。そして、男には娼婦を、女には男娼を宛がった。与えるものは、必ず形に残らないものを徹底したスネーク。


 そんなスネークの飴に、執事やメイド達は見事に嵌まっていった。高い給金だけではなくきちんと労いの言葉と、欲望を満たしてくれる雇い主──きっと、スネークの元以上の待遇を受けられる所は、他に無い。


 そう思うと、執事やメイド達は些細な事(辛い労働やスネークの罵倒)など、とるに足らなく感じてくるのだ。

 そして、スネークの洗脳により、彼等は考える事を放棄し、ただがむしゃらに働き始める。


 貯まっていく給金を見つめ、退職後の悠々自適な生活を夢見て。


 現に、スネークの元を退職(契約期間十年)した元執事やメイドから便りが届くのだが、そこには退職後の幸せな生活が書かれていた。


 そして、便りに共通して書かれていたのは、『スネーク様の元で十年勤め上げれば、その後の生活は金に困る事などなく、素晴らしいものになる。だから、頑張って勤めをはたせ』と。


 定期的に届くその便りを見た彼等は、さらにがむしゃらに働くようになるのだ。が、全てはスネークの仕業であって、そんな便りなど退職した者達が書くはずなど無い。


 彼等は皆、死んでいるのだから。


 十年馬車馬の如く働いた者達は、笑顔で去って行き──苦痛の表情で死んでいく。今まで貯めた、給金を全て回収されて。


 無念の死を遂げた者達には、深い哀悼を捧げるしか無いが、今働いている者達は何とか洗脳を解いて救えないか? そんな時、救いの神が彼等の元へやって来る。


「スネーク様は何て?」


 仮面を着けた落ち着いた声の持ち主、なんとも怪しい男だが──先日の広場での暴動の際に、あのエデン騎士団をたった一人で相手取り、打ち負かしてしまった強者。そんな男をスネークが放ってほくはずが無かった。


「ヨシュア殿をお部屋に案内した後、連れてこいと」

「そうですか。では、お願いします」


 優しく落ち着いた声、仮面を着けているので表情は分からないが、声を聴くところとても強者の雰囲気は感じられない。今までの従者(護衛)とは違う雰囲気だと、やつれ顔の執事は思う。


(これはまた、スネーク様は変わった人物を雇ったものだ……だが、あまり関わらないようにしよう)


 今までスネークの従者をしていた者達は、それは酷いものだった。傍若無人な態度、そして、酷い者は気に入ったメイドが居ると強姦紛いの事までしていた(被害者はスネークが特別手当てを払い和解させていた)


 そんな事もあり、やつれ顔の執事だけではなく他の執事やメイド達は皆、スネークの従者には関わりたくないのだ。


 その後、部屋を宛がわれたヨシュアは、スネークが居る執務室へと向かう。


『コンコンッ』


「誰だ?」「ヨシュアです」


「来たか。入れ」


 入る事を許されたヨシュアは、ドアノブをゆっくり回し執務室へ入ると、


「ただいま到着致しました。今日から宜しくお願いします」


 そう言って丁寧に頭を下げた。


「ああ、こちらこそ宜しく頼むぞ。ヨシュアと言ったな──ではヨシュア、従者と言っても外出する時以外、特に仕事は無い。ただ、時々怪しい者が居ないか、見回りはしろ。それ以外は好きに過ごしてくれ。ああそうだ、気になるメイドが居たら好きにして良いぞ、ヒヒッ」


 下品な笑い声で話すスネークに、ヨシュアに付き添って入ったやつれ顔の執事は、嫌な汗が額から流れるのを感じていた。


(見た目が良いメイドには、彼の前に現れないように注意しておかなければ……)


「お気遣いありがとうございます。何かご用が有りましたら、呼んで下さい。自分はさっそく仕事場を見てまわろうかと思います」

「そうか。励め」


「では、失礼致します」


 ヨシュアは挨拶も早々に執務室を出ると、宛がわれた部屋には向かわずに屋敷を探索する事にした。


(まずは、雰囲気に馴染まないとな……怪しまれないように行動するにはスネークの元で働く人と、仲良くならなきゃ)


 そう考えたヨシュアは、誰か居ないかと周囲をキョロキョロ伺いながら屋敷内の探索を進める──


 そして、しばらく歩いていると、遠目に一人のメイドを発見したヨシュアは、その姿を立ち止まってジッと観察していた。


 第一『働き人』発見である。


 ヨシュアのその姿を、さらに遠目で観察するやつれ顔の執事。ヨシュアの行動が気になった彼は、ヨシュアの後をコッソリつけていた。


(まずいぞ……あのメイドは一番見た目が良い。注意するまもなく目を付けられたか……すまない)


 ヨシュアが見た目の良いメイドに早速目を付けた、と勘違いしたやつれ顔の執事は、メイドの不幸を想像し、注意出来なかった事を心の中で謝罪する。


 まあ、ヨシュアにそんな気(手込めにする気)は全然無いのだが。今までの従者を見ていたやつれ顔の執事が勘違いするのは、致し方ないのかもしれない。


 そんな勘違いをされている当のヨシュアは、立ち止まっていた足を動かすと、メイドの元へ小走りで向かっていく。


(ああ、あれは襲う気だ……本当にすまない)


 この後を想像し、顔を青ざめさせるやつれ顔の執事。

 そして、メイドの方も小走りで駆けてくるヨシュアに気付き、顔を青ざめさせた。


(あ、あれは!? もしかして、スネーク様が新しく雇った従者の方では? ……仮面着けてるし間違いない。どうしよう……私、散らされてしまうのかしら)


 要らぬ心配をするメイド。


 そんなメイドの元に、ヨシュアが遂にやって来てしまう。そして、ヨシュアの手がメイドに向かって、伸びていく──


「大変そうですね。自分が持ちますよ」


 そう言ってヨシュアは、メイドが両手に抱えていた大量の洗濯ものを代わりに持ち始めた。


 予想外の行動に、目が点になるメイドとやつれ顔の執事は、((優しくしてから、犯すプレイ?))と、ヨシュアの親切に、失礼にもそんな事を考えていた。

 

 そんな彼等だが──この先、ヨシュアの仏のような数々の行動(彼等にとっては)により図らずも、洗脳が解けていくのだった。

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