前を向いて
「──エリーユに関しての話はここまでかな」
「その後は?」
「世界樹の後遺症なのか分からないけど、力に目覚めた俺は荒れた──敵対するものに手当たり次第。それを父さんに利用され、色々やらされたりもした。だけど、じいちゃんが亡くなって、ふと気付いたんだ──俺、何やってんだろうなって。それで、こっちに来たんだ」
「そうか……」
ヨシュアの話を聞き終えたレメクだったが、かける言葉が中々出ない。そもそも、自分の兄が原因で起こった不幸であって、ヨシュアを責める要素は見付からない。
ただ、ヨシュアにしたら、実際にエリーユを死に至らしめたのは自分だと、責めるだろう。自分が同じ立場なら、殺して欲しいほど自分を恨むかもしれない。
だが、この事件を乗り越えなければ、ヨシュアが幸せだと思える事は無い──そう思うと、動かずにはいられなかった。
『ゴンッ!』
「ちょっと! 殴る事ないでしょ! ヨシュアは悪くないわ!!」
「分かってる! だがな……友ならこうするべきだ」
「意味分かんないわよ!!」
「いや、ありがとう……レメク」
倒れこんだヨシュアは、口の縁に付いた血を指で拭いながら、レメクに向かってお礼をする。そして、
『ゴンッ!』
立ち上がったヨシュアもまた、レメクを殴りつける。
「あんたら何してんの!? 止めなさいよ!!」
睨み合う二人を止めるため怒鳴るメーサ。しかし、二人の空気はいつ殴りあいが始まってもおかしくない。
そんな時、レメクが口を開いた。
「言いてえ事があんなら言えよ」
「なんで……」
「なんだよ! ハッキリ言えよ!」
言い淀むヨシュアの胸ぐらを掴み、叫ぶレメク。それに答えるように、ヨシュアもレメクの胸ぐらを掴み、自分の気持ちをぶつけ始めた。
「なんで居なくなったんだよ!! お前が居れば、こんな事にはならなかっただろ! なんで……俺は、エリーユを殺してしまったんだ!! メーサも……なんでエリーユを止めてくれなかったんだ! あいつの性格なら皆を助けようと、突っ込んでいくのは分かりきっていたのに!! なんで、なんで俺は……」
涙と鼻水で顔を濡らし叫ぶヨシュアを、レメクは力強く抱きしめる。
「良く言えたなヨシュア。そうだ──お前だけが悪いんじゃない。俺達も悪いんだ、だからお前だけ業を背負うなんて許せねえ。俺達にも背負わしてくれよ」
ヨシュアと同様に涙と鼻水を流し、そう返すレメク。
「そうよ! ヨシュアだけズルいわよ。私達も一緒に歩かせてよ! 私達……友達でしょ」
メーサもまた、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、ヨシュアを後ろから抱きしめた。
その晩、三人は体を寄せ合い泣きはらした──
──次の朝。
「──三人ともどうしたんですか?」
「凄い顔だよ~」
朝食の席でアダムとイブは、酷い顔をしたヨシュア達を不思議に思い、そんな言葉をかける。昨晩、泣きはらした三人。寝不足も相まって、そりゃもう酷い顔だ。
アダムとイブは昨晩の話を知らない。重々しい雰囲気になった時、ララが気を使って、二人を二階に上げていたのだ。勿論、ララはリビングのドアの前で、ヨシュアの話をこっそり聞いていたが。
「あっ、そう言えばヨシュア様は、今日から留守なんですわよね!?」
ララが話をそらすようにヨシュアに問いかける。
「ああ、そうだよ。しばらく留守にするけど、メーサも此処に居てくれるから、二人で留守を頼んだよ」
「やっぱり、貴女もいるんですか」
「悪いかよ! ……まあ、仲良くしてよ」
相変わらず一触即発のララとメーサだが、メーサが少し歩みよっている様なのでしばらくは持ちそうだ。
「悪いな、よっちゃん。巻き込んじまって」
「本当に申し訳ありません」
「気にしないでよ。俺に出来る事ならなんでもするさ! ほらっ頭上げて」
相変わらず人が良いヨシュアは、二人にそう返し、頭を上げさせる。アダムとイブはそんなヨシュアに「ありがとう」と、口々にお礼を言い、和やかに朝食が続けられた。
そして、ヨシュア出立の時──
「それにしても、本当に此処に来て良いのか?」
「ああ、勿論だよ。賑やかで楽しそうじゃないか! でも、此処まで来るのは大変じゃない?」
「それは心配ねえ! 俺達エデン騎士団はタフだからな! 町の奴らも負けねえ位タフな連中ばっかりだしな、何とかなんだろ!」
スネークによって突如発表された開拓団だが、実際の所は、反抗しそうな人間を集めた島送りのようなものだ。その開拓団を心配したヨシュアは、ある程度住む事には不自由しない自宅周辺に来たらどうかと、レメクに提案していた。
「でよ、俺思いついたんだが──どうせなら此処に俺達だけの国でも作ってみねえか? 国と呼ばれる規模になるかは分からねえが……戦いのない平和な国をよ」
「えっ? そんな事出来るの?」
「まあ、時間はかかるかもしれねえが……前を向いてやってれば、色々見えてくるものも有るだろ?」
「それ良いね! 私も賛成! ヨシュア王の誕生だね」
レメクの提案にメーサが乗っかり、ヨシュアを煽る。 この提案、実はレメクとメーサで前もって相談していたのだ。兎に角、ヨシュアには前を向いて歩いて欲しい──大きな目標を作って共に歩けるようにと。
「うーん、二人がやる気なら良いと思うよ。ただ、ヨシュア王ってのは止めて欲しいけど……」
「よっしゃ! なら決まりだな。スネークの野郎を成敗したら、取り掛かろうぜ!」
「私も闇ギルの力使って協力するわ! 良い人材も(拉致して)連れて来れるかもしれないしね」
「なんだか凄い話ですね」
「アダム。お前も手伝うんだぞ」
「えっ僕もですか!?」
「あったりめえだ! お前が立派な領主になったらエノクとは協力関係にすんだからよ」
「え、あ、はい……頑張ります」
「イブも手伝うー!!」
「おう、イブも頼むぜ」
「それなら私は妃になるのですね。楽しみですわ」
「なに勝手に結婚してんだよ! てめえは妾ぐらい、いや、メイドで十分だわ!! 私が妃なんだよ!」
「言わせておけば! 貴女こそ庭師ぐらいがちょうどよくってよ!」
「あんっ! やんのかこら!!」
「ハハッ、楽しそうでなによりだね。それじゃ、僕達は出発するから──アダム、二人を宜しくね」
「はい! ヨシュアさんも気を付けて下さい!」
やり合っている二人を置いて、ヨシュアは天空馬車にレメクを乗せ旅立つ。
とぐろを巻き、舌を出して獲物を狙う、蛇の元に──




