緊急依頼、そしてまた
ブクマ、評価、大変ありがとうございます!
「──グハァッ」
目前へと迫った闇マスの拳を、難なく避けたヨシュアは避け際に鳩尾へと自身の拳をめり込ませた。
「ご、ごめんなさい、つい自己防衛で」
「効く~。──まだまだ行くぞ!」
闇マスはまだまだヤり足りない。そんな表情でヨシュアへと戦意を向け、腹をおさえ何とか立っていた体勢から、おもむろにアッパーを放つ──
ヨシュアはその拳も難なく避けると、今度は闇マスの顎先を掠めるようなパンチをカウンター気味に決めた。
「──ウグッ」
ヨシュアの一撃によって闇マスは地べたを舐める。咄嗟の事で巧く手加減出来たか不安だったヨシュア。しかし、気絶せずに済んでいたなら大丈夫か、と少し安堵した。
「す、すいません、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。堪んねえ……ヘヘッ」
ヨシュアの心配そうな問い掛けに、膝をつき頭を振る闇マスは大丈夫だ、と片手を上げるのだが、若干ながら興奮している様にも見えた。
そして、ゆっくりと立ち上がり、ヨシュアを見据える闇マス──その目には、闘志がメラメラと燃え上がっている。
「良いねえ、久しぶりに本気で相手して貰えるよ。興奮しすぎて俺の闇マスがバーニングしちゃいそうだ」
(意味が分からない……)
そう思ったヨシュアは周りの反応を見るのだが──メーサもメーサの部下の男女も、その表情は無反応。そう、この三人は闇マスの意味不明な発言など慣れっこなのだ。
(何で皆無反応なんだ……俺がおかしいのか?)
状況も掴めず、闇マスのおかしな言動も理解出来ずにいたヨシュアは、脳内がバーニングしそうだった。
「と、とりあえず落ち着いて、お茶でも?」
ヨシュアの諭すような言葉に、「大丈夫だ、俺はいたって冷静。それより、本気でいくから本来の姿に戻るぜ」と、此処で魔族の姿に戻ると宣言する闇マス。
「えっ! いや、此処では流石にまずいんじゃ……」と、メーサの部下である男女の様子を伺うヨシュア。
それに対して二人は親指を立てる。そして、女の方が「大丈夫です! 私達知ってるから新人も気にしないで、闇マスボコボコにして上げて!」と、ヨシュアも本気を出せと言わんばかりだ。
さて、これは参ったとヨシュアは頭を抱える。
こんな所で本気を出す訳にもいかない。しかし、闇マスの本来の力が予想以上の場合、図らずも本気を出して殺してしまうかも、と悩むヨシュア。
(しょうがない……一瞬で終わらせて眠ってもらうか)
最悪が起こる前に終わせようと判断を下したヨシュアは、人の姿から悪魔へと戻っていく。
「いいね~。そうこなくっちゃ! じゃあ、俺も」と、ヨシュアの変わりゆく姿を見た闇マスは、自身の姿を変えていった──
そして、本来の姿に戻った二人は、お互いを見据え睨み合う。当然ながらヨシュアは悪魔の姿、対して闇マスは──まさに『鬼』という風貌に変わっていた。
体格も、人の姿の1.5倍は有りそうな大きさ、そして驚くべきはその筋肉だ。肩から腕にかけては丸太の様な太さ、その腕で殴られたら、ひとたまりもない事が否応なしに想像出来る。
「闘鬼族ですか……」
「おう、まあな」
(厄介な相手だ、しかも……)
ヨシュアの指す『厄介』とは、闇マスの闘鬼族という種族の事。この種族は闘う鬼という事だけあり、戦闘の中で生きる喜びを見いだす戦闘狂の種族である。
魔界の戦では、闘鬼族を味方にした方が勝つとまで言われているほど戦闘能力に秀でているのだ。しかも、この男は魔界で有名な『鬼の死神』と言われていた前、魔王軍の将軍を務めていた男であった。
「貴方はもしかして、鬼の死神では?」
「おー、懐かしいなその呼ばれかた」
「何で貴方がここに……」
「あ? ……だってよ、魔界では俺と闘ってくれる奴居なくなっちまったんだもん。だから、人間界に行って強い奴でも探してみようか、なんて思ってたらこれが全くの期待外れ、ガッカリだよ」
「……では何故、闇ギルドのマスターなんか?」
「いやな、見付けちまったんだ『勇者』を」
「勇者? 勇者って確か、昔魔族と人が争っていた時代に現れた者ですよね?」
「ああ、そうだ。おとぎ話みたいなもんだと思ってたら、居たんだなこれが。またこいつが強いのなんのって最後まで決着つかなかったな」
「最後? という事はもう勇者は居ないんですか?」
「いや、そういう訳じゃない。勇者ってのは世代毎に変わっていくらしい、俺とバチバチやってた勇者も、ある日力を失ったみたいでよ、調べたらそういう事だった」
「じゃあ……闇ギルドって──」
「勇者を探すために作った。勇者ってのはこの時代じゃたいして話題になんねえみたいでよ、勇者って言葉自体知ってる者も少ない。だから広い人間界から勇者を探すためにはこういう組織が欲しかったんだ」
(どんだけ闘いたいんだこの人……まあ、闘鬼族じゃ、しょうがないか)
「でもよ、お前の噂も聞いてたから一度魔界には戻ろうと思ってたんだ。まあ、そっちから来てくて嬉しいよ」
(来たくて来たんじゃ無いんだけどな……)
ヨシュアの思いとは裏腹に嬉しそうに微笑む闇マス。
鬼の顔に笑顔とはなんとも不気味だ。
「じゃあ、お喋りはこの辺で──闘るか!」
と、唐突にデカイ体でヨシュアへと迫る闇マス。その動きは人の姿とは比べ物にならないほど速い。
「泣くなよ小僧!!」
そう言って拳を振り上げる闇マス、だが──
「参りましたー!」
そう言って、恐怖におののいた青白い顔でひれ伏した闇マス。しかし、恐怖を覚えたのは闇マスだけではなかった。
冷や汗をダラダラ流すメーサ、そしてメーサの部下である男女は、恐怖のあまり気を失ってしまっている。
一体ヨシュアは何をしたのか? それは至って簡単な事、展望デッキで放った殺気を再度、放っただけ。
それだけで戦意を喪失させてしまうものなのか疑問に思うかもしれないが、それだけヨシュアが放つ、本気の殺気は凄まじいものがあると思ってほしい。
(良かった、これで何とかなりそうだ)
少しやり過ぎたかなと思ったヨシュアだったが、これでありがたくない歓迎会がお開きになるなら、良いかと思っていた。
「いや~、楽しかった。まさか闘う前に負けるとはな、凄いのが生まれてきたもんだ! これから楽しみが増えた。宜しくな、ヨシュア」
闇マスは立ち上がると、そんな事を言いながらヨシュアに握手を求める。その手を握ってはダメだと、助言したい所だが、ヨシュアは何の気なしにその手を握り「はい、宜しくお願いします」と、答えてしまった。
「よっしゃ! 言質は取ったぞ! お前も今日から闇ギルドの一員だからな」と、ニカッと笑う闇マス。
それを見たヨシュアに、言い知れぬ不安が心を襲う。
「えっ、いや! そんなつもりじゃ無かったんです!」
何とか訂正を試みたヨシュアだったが、目の前に居る筈の闇マスは既に居らず、メーサとともにハイタッチを決めていた。
「ちょっと、聞いてますか!? 俺は──」
「ん? ああ、そうだ! 早速任せたい仕事が有ったんだ、護衛依頼が来ててな、一番強いやつ寄越せって話だからヨシュア、頼むぜ」と、ヨシュアの言葉を遮りいきなり仕事を押し付ける闇マス。
「え、いや、だから──」
「大丈夫だ心配すんな、報酬も弾むぜ? 金貨五十枚でどうだ?」
「金貨五十枚……」
その言葉に思わずぐらつくヨシュア。それも当然だ、それだけ有れば当分、金に困る事はないのだから。
「いやでも、殺しとかそういうのは……」
「あっ? いや、そんな依頼じゃねえよ、ただの護衛だから最悪暴漢が襲ってくる位だ」
「それなら、出来るかな……」と、いつの間にかやる気のヨシュア。
そこに、
「なら私もやる。報酬はヨシュアの半分で良いよ」と、手を上げ闇マスを伺うメーサ。
「ほう、珍しいなメーサが報酬を半分でいいなんて。まあ、それなら願ってもない、頼む」
「だってさ──宜しくね相棒」
ヨシュアの側に来たメーサはそう言って、嬉しそうにヨシュアの肩に手を置いた。
「ああ、うん──それで、誰の護衛をするんですか?」
「スネーク子爵、さっき緊急で依頼を受けた。明日、広場で声明を出すらしいから、其処に二人で行ってくれ」
「ええっ!?」
スネーク子爵の護衛、予想外の依頼にヨシュアは動揺を隠せなかった──
──人間界、荒れ果てた地、上空──
闇夜に煌めく暗黒の翼、ヨシュアは闇ギルドでの予想外の依頼に、困惑しながら帰路についていた。
(まさか子爵の護衛依頼を受けるとはな……帰ったらレメク達に相談してみよう)
そう思ったヨシュアは飛行速度を上げ家路を急いだ。
その頃、
──人間界、「酒場」展望デッキ──
「ヨシュア様の馬鹿ー!! おたんこなすー!!」
女神の叫びがこだましていた……。




