クビになったので僻地でのんびりする
新作です! よろしくお願いします
「ヨシュア殿、貴方は今日限りでクビです」
冒険者ギルドの受付嬢から冷酷な口調で告げられる、唐突なクビ宣告。まるで意味が分からなかった。
いつも通り採取依頼をこなし、ギルドに報告して報酬を貰らい、今日は柔らかいベッドで寝れると安心していた時の、突然の宣告。
黒髪の寝癖が目立つ青年“ヨシュア”は、動揺を隠しきれず額から汗が滴り落ちていた。
しかし、このままではまずいと、何とか気力を取り戻したヨシュアは、受付嬢に詰め寄った。
「そ、そんな!! なぜですか!? クビになるような事なんてしてません!!」
「良いですか、最初の冒険者登録の際もご説明したと思いますが、冒険者として活動なさるには実績が必要なのです。貴方は冒険者になられてから丸三年、採取依頼しかこなしてませんよね?」
「え、まぁそうですけど……」
「それに、緊急依頼がかかる時は、必ず姿を眩ましています。正直言って、採取依頼しか受けない貴方は、ギルドのお荷物でしかありません! 貴方、冒険者という立場を利用して何か悪い事をしているのでは?」
「そ、そんな事しませんよ!!」
「ま、今となってはどうでも良いのですがね。という訳で冒険者ギルドとしては、お荷物で危険分子の疑いがある貴方はいらないという事に決まりました。即刻、冒険者カードを置いて出て行って下さい」
「くっ……分かりました。今までお世話になりました」
受付嬢の辛辣な物言いに頭の中が真っ白になり、反撃の余地さえ見出だせなくなったヨシュアは、首に掛けた冒険者の証であるカードをそっと置いてギルドを後にし、三年間の冒険者生活に別れを告げた。
◆★◆★
時は流れ、冒険者ギルドからの『クビ』宣告から早、三ヶ月経った今、ヨシュアは西の僻地で鍬を片手に畑を耕し、のんびり暮らしていた。
そして、青空が広がる中、せっせと畑を耕していたヨシュアは、ふと、クビになった三ヶ月前の日の事を思い出し、憂鬱な気分になっていた。
(今思い出しただけで悲しくなる……)
「悲しいお顔をなされて、どうしたのですか? ヨシュア様」
と、美しい容姿に、ブロンドのサラサラとした髪、可愛い花の冠を頭にのせた女性が、ヨシュアを心配そうに覗きこむ。
「ああ、ララちゃんか。ちょっと嫌な事を思い出してね」
「嫌な事? 私が何か不始末をしてしまったのですね!?」
「そ、そんな事ないよ! ララちゃんには助けて貰ってばかりで、感謝してるんだ!」
「私は何も……」
「何を言ってるんだ! この枯れた大地に潤いを与え、生命を芽吹かせてくれたじゃないか!! ララちゃんが居たからこうやって畑を耕し、果実をついばみ、のんびり暮らしていけるんだ。本当にありがとう」
「そんな……私には勿体なきお言葉です。ヨシュア様。天界から逃げてきた私を匿い、守ってくれたご恩、この、“ララ・デメテール”! 一生をもってお返し致します!」
「何を言ってるんだい。それはもう良いと言っただろう? それに、お返しなら充分して貰った。ララちゃんは自分の幸せを考えて生きてくれれば良いんだよ」
「ヨシュア様はいけずですわ、私の幸せは貴方といる事なのに……」
そうボソボソと呟くララ。恥ずかしくて自分の気持ちを上手く伝える事が出来ないララは、あわよくばこの呟きがヨシュアに聞こえている事を願う。
「ん? 何か言ったかい?」
そう言ってボケッとした顔をするヨシュアに、ララは少し苛立ち「もう良いですわ!!」と、その場を後にする。
(戦っているヨシュア様は、あんなに凛々しくてお強いのに……なぜ普段はあんなにボケッとしてるのでしょうか……)
「どうしたんだララちゃんは? まあ、女の人は急に怒りだすってじいちゃんも言ってたしな」
またボケッとした顔で頭を掻くヨシュア、とても強そうには見えないのだが──驚くことなかれ、このボケッとしたヨシュア、魔界で最強と呼ばれた悪魔族の一人である。
その強さは魔王もひれ伏すと言われ、次期魔王と目されていたのだが、ヨシュアはある日突然魔界から姿を消す。
それに慌てたのはヨシュアを推して権力を得ていた悪魔族である、自分達の剣でもあり盾でもあるヨシュアが居なくなったと知られれば崩壊は免れないと血眼になって捜索するのだが、その姿を発見する事は叶わなかった。
そして、ヨシュアの失踪を嗅ぎ付けた他の魔族達は悪魔族を権力闘争から追い出し、部下達にヨシュアの捜索を命じたのだ。
ヨシュアを自分達のものにし、魔界を牛耳ってやるという野望のために。
★◆★◆
人間界より遥か遠い地、魔界。
その魔界の地で、長年権力闘争の中心で戦っていた悪魔族。そんな悪魔族の族長の屋敷では、野太く荒ぶった声が響いていた。
「あやつの居場所はまだ分からんのかっ!!」
「申し訳ありませんインフェルノ様……総力をもって捜索しているのですが……」
「言い訳はするな!! もしもあやつを見つけられなければ、悪魔族の栄華は朽ち落ちるのだぞ! そんな事になれば、我々は魔界の隅でひもじく生きるしかなくなる! 死ぬ気で探せ馬鹿者どもが!!」
そう言って鼻息荒く憤るのは、額から二本の角を生やし、口髭を蓄えた、い丈夫な男。彼は悪魔族の族長であり、インフェルノと呼ばれる男。そして、ヨシュアの父でもあった。
そんなインフェルノは、誰も居なくなった自室で、荒んだ魔界の空を窓から見上げ独りごちる。
「まったく、あの馬鹿息子は一体どこに隠れとるんだ!! あやつの母親もわしの前から消えおった……二人揃ってわしの前から消えるなど許さん! 今度こそは見つけだし傀儡にしてやるぞ!! ヨシュア!!」
この言い草からも分かる通り、ヨシュアを父として愛しているかは、ほとほと疑問だ。
そして、インフェルノが言っていた通りヨシュアの母もまた、ヨシュアを産んで暫く経つと、忽然と姿を消していた。
この失踪した母こそ、ヨシュアが絶大な力をもった原因だ。彼女は所謂、堕天使と呼ばれる天界から墜ちてきた天の使いである。
なぜ彼女が堕天使となったかは不明だが、天界から堕ちた彼女を拾い、自分の妻として迎えたのが“インフェルノ・デモン”だった。
そして、二人の遺伝子が組み合わさり、異常なまでの力をもってしまった天使と悪魔のハーフ──ヨシュアが、この世に産まれ落ちた。
そんなヨシュアを探していたのは、悪魔族だけではない。
魔界の覇者『魔王』もまた、彼を探して血眼になっていた。
◆★◆★
魔王城──魔王の間では、王座で足を組む魔王にひれ伏し、報告を告げる者がいた。
「魔王様。やはりヨシュアはこの魔界にはもういないのかもしれません。さしあたっては人間界にも捜索の手を伸ばすべきかと」
そう、魔王に進言するのは?顔立ちが整った細身の妖しい雰囲気の男。彼はインキュバス族の族長ながら、大臣として魔王に仕えている右腕的存在 "ブランドン・ボイド" だ。
「で、あるか。ならば早急に人間界に向かい捜索しろ。必ず我がものとしてやるヨシュアよ!!」
堂々とした態度で玉座に座り、目の前に出した手を力強く握る女性。彼女こそ魔界を統べる者──魔王である。
その見目美しい容姿を使い、魔界の女帝と呼ばれるまでに成り上がった、サキュバス族の女傑 " リリン・ヘール " 。
女帝として君臨してきたリリンは欲していた。自分の優秀な遺伝子を残すための相手を。そして、白羽の矢が立ったのが次期魔王との呼び声が高かった最強の男ヨシュアである。
ヨシュアが姿を眩ました時期、それはリリンとの婚姻の儀が近い時期でもあったのだ。
その所為か、ヨシュアが姿を消した際のリリンの怒りは凄まじかった。当時大臣として仕えていたヨシュアの父インフェルノを呼びだし、異例の三降格を言い渡すと、インフェルノを王宮から追い出した。
その後も怒りが収まらなかったリリンは、王宮にいる全ての男達の精気を吸いだし、男達を灰色に変えてしまったのだ。
「御意のままに。魔王様に栄光あれ!」
報告を終え、新たな任務を魔王から与えられたブランドンは、一礼して魔王の間を後にする。
魔王の間を後にしたブランドンは、長い廊下を歩きながら思案していた。
(しかし、魔王様はなぜあのような男を……確かに最強と名高い男だが、その軟弱な思想はとても魔王の器とは思えない。何か裏が有りそうなのだが、インフェルノを探っても情報が得られない。これはますます怪しい……)
ブランドンは何時までもヨシュアに執着するリリンが理解出来ずにいた。力こそあれど、とても魔王として魔界を統べる器ではないヨシュアを、あそこまで血眼に探す訳。それをブランドンは探していた。
そして、密かにそれを利用し自らが魔王となるべく、暗躍しようとしていた……。
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