表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テンキュウノアメ  作者: ルシア=A.E.
84/96

1.10.8 狩ろうとして、後悔して

 アメたちは、さっそくその日から、狩りへと向かうことにした。目標は鹿を10頭。宿屋の店主は、5頭でいい、と言っていたものの、急いで船渡しに話を取り次いでもらうために、余計に多くの鹿を狩ることにしたのだ。


 ちなみにこの狩り、旅のメンバー全員で出向いている、というわけではない。シロは大型動物の狩りには向かないので、宿で留守番。すると自動的にアカネも留守番となって……。彼女と仲が良い狼たちも宿で待つことになった。宿で待機しながら、4人揃って、よりうまく人に化けるための練習をするようである。


 というわけで。狩りに出向いたのはアメとアオの2人だった。……いや、もう1人。忘れてはならない人物がいる。


「ん、ま」


 ナツである。彼女もアメにつれられて、一緒に狩りへとやってきていた。本来なら彼女も宿で留守番をすべきところなのだが、アメ曰く『そろそろナツにも狩りを経験させるべきじゃろう。なにしろ、歯が生えたんじゃからな』と、歯が生えれば一人前の獣(?)として扱われるようで……。乳歯が生え始めたナツも狩りに同行させられることになったのだ。とはいえ、彼女は未だ歩くことができないので、アメ狐の背中に乗ったままでの参加だったが。


「む?腹が減ったのかの?」


「んんま?」


「違うとな?じゃぁ、おしめかの?……まーたモリモリとしたのではあるまいな?」


「…………」がぶぅ


「ふむ、おしめでもないか……」


「え、えっと……アメ様?耳、齧られていますよ?」


「なに、童の戯れじゃ。気にするでない」


 と、背中に乗ったナツに耳を齧られているというのに、あまり気にした様子を見せず、周囲を見渡すアメ狐。これまでに何度も齧られてきたせいか、すでに慣れてしまっていたようである。


 それから山道を進み、白く雪化粧をした森の中を抜けて、さらにしばらく歩いていくと――


「……おったぞ?」


「えぇ、いますね」


――目的の獲物の姿がアメたちの目に入ってきた。


 そこにいたのは鹿が3頭。角の無いメスばかりが、雪の積もった地面に鼻を(こす)り付け、雪の下にある食料を探しまわっていた。


「……では、行こうかの。まずは1頭じゃ!」


 そう口にすると、身を屈めて、するりするりと草木を避けながら、鹿へと近づいていくアメ狐。

 

 ちなみに彼女の狩りスキルについて述べておくと、元が狐だけあって、相手が野ネズミや野うさぎ、あるいは小魚程度などなら、かなりの高確率で仕留められる。しかし、身体の大きな鹿などは、一人(匹?)で食べられる量ではないので、狩ったことは無かった。つまり、鹿を正面から直接狩るのは、これが初めてのことだったのだ。

 

 それでもアメがこの仕事を受けたのは、ひとえに狩りの自信があったからだった。熊(?)と戦って倒したのだから、単なる草食動物でしかない鹿程度、大した獲物ではないはず……。彼女は、そう考えていたのだ。


 そして実際、彼女のその読みは、思い違いではなかった。彼女が元の姿に戻って腕を振りかざせば、鹿に為す術は無く……。瞬きに近い時間のうちに、鹿は肉塊に変貌することになるだろう。


 アメ狐はそのつもりで鹿に向かって走っていた。木々をすり抜け、音もなく地面を蹴り、獲物へと駆け寄っていく……。その姿は、まさに狩人。肉食獣のようだった。……まぁ、本当は雑食だが。


 しかし、世の中というものは、往々にして思い通りにはならないものである。


 それは、3頭の鹿のうちの2頭がアメに気づいて、その場から逃げ出したときのことだった。


「……ん?おやまぁ、あのときの狐さんじゃないか。またおっぱいをもらいに来たのかい?」


 最後に残っていた鹿が、まさかの顔見知りだったのだ。数日前、ナツに与えるべく、アメが乳を搾った鹿。それが偶然にも、狙っていた獲物だったようだ。


 結果、アメは、思わず急ブレーキをかけた。まさか、話しかけられるとは思っていなかったのだ。


「なんじゃ、あのときの鹿か……」


「乳を分けてやったというのに、ずいぶんな言いぐさだね?今日もどうせ乳をもらいに来たんだろう?ほれ、持ってきな?最近じゃうちの子も乳離れしたばっかりだから、おっぱいが張ってるんだよ」


「はぁ……帰るかの」


「んまっ?!」


「どうした?ナツよ。お主、さっきは、腹ペコではないと申しておらんかったか?」


「ん、ま」


「それはそれ?これはこれ?」


「んまんま」


「急に腹が減ったじゃと?……仕方ないのう。ほれ、自分で鹿の乳を吸うがよい」


 と言って、人に化けて、ナツを鹿の腹部に近づけるアメ。対するナツは、今回がはじめて鹿からの直接の授乳だったためか、少々戸惑っていたものの、ぎこちなさげに鹿からの授乳を始めたようだ。


 対する鹿は、アメたちの行動に、目を丸くしていたようだ。


「あんた、人間に化けて……って、それはどうでもいいんだ。乳を飲んでいたのって、あんたじゃなかったのかい?!」


「そんなわけなかろう。ワシはこやつに乳を届けておっただけじゃ」


「狐が人を育てているとはねぇ……。というか、あんたのそのおっぱいは飾りかい?」


「出んものは出ん!」


「そうかい。ま、私にゃ関係ない話だね。ところで――」


 と前置きをしてから……。鹿はアメに問いかけた。


「あんたたち、何しに来たんだい?元々はおっぱいが目的じゃないんだろ?」


 と、まるでアメたちがこれから何をしようとしていたのか分かっているかのような様子で問いかける鹿。どうやら彼女は、自身に向かって一直線に駆け寄ろうとしていたアメから出ていた気配に、殺意のようなものを感じ取っていたようである。


 その事を察したアメは、口元をつり上げ、少し大きな犬歯を覗かせながら、鹿に対してこう言った。

 

「……主らを狩りに来たんじゃ。その皮を剥いで、肉を削ぎ、人間たちに売り飛ばそうと思ってのう」にやり


「そりゃ怖いねぇ。でも、これから狩りをしようと思っているやつが獲物に向ける言葉とは思えないがね?」


「……確かにその気は失せておる。他を探すつもりじゃ」


 と、げんなりした様子で、ため息を吐くアメ。

 

 対するシカが、何を思ったのかは定かでない。ただ彼女は、その大きな黒い瞳で、アメの姿を真っ直ぐに見つめると……。アメにとって意外なことを口にし始める。


「狩るっていうんなら、一つ狩ってもらいたい奴がいるんだけど……どうだい?やってはくれないかい?」


「なんじゃ、私怨か?そういうのは受け付けておらん。第一、ワシらには、主ら鹿の見分けなんぞ付かんからのう」


「いやいや、同族じゃないよ。ここ最近、私らの森を荒らしてる奴がいるのさ。そいつを狩ってくれるってんなら、私らも協力するよ。もちろん、そいつを狩った後は、煮るなり焼くなり、好きにするといいさ」


「森を荒らしておる奴……人か?」


「いんや、違うね。もっと厄介なものだよ」


 と言って、鹿が首を横に振った時のことだった。


ミシミシミシ……バキバキバキバキ……


 森の奥の方から、何やら木が倒れるような音が聞こえてくる。


「ほら、あれだよ。聞こえただろ?」


「なんじゃ?木が倒れたような音が……」


「あぁ、木々を軽々となぎ倒し、腕のひと振りで山を削り取る化け物――熊さ」


「熊じゃと?!お主、狐に、熊と戦えと申すのか?!」


「あぁ、そうさ。だってあんた、普通の狐じゃないだろ?普通の狐が、生きてる私らを襲うなんざ、正気の沙汰とは思えないからねぇ」


 と言って、目を細める鹿。やはり鹿は、自分たちがアメに狙われていたことを知っていたようである。


 対するアメは、この時、少しだけ後悔していた。……自分の正体を悟られる前に、狩っておけば良かった、と。


 しかし、今となっては時すでに遅し。今さら鹿を狩る気にもなれなれず……。深くため息を吐いたアメは、まるで諦めたかのように、鹿に向かって問いかけた。


「して、協力というのは、どんなことをしてくれるのかの?」


「それなんだがね――」


 そして、鹿とアメとの間で始まる熊退治の算段。こうしてアメたちは、急遽、鹿狩りではなく、熊狩りをすることになったのである。

 

 ……なお、その際。


『(あ、あれ?鹿……狩らないんですか?)』


 鹿の後ろに、透明な姿の人物がいたようだが……。途中で影が薄くなった彼女のことを、アメやナツが覚えているかは定かでない。


夏に書く冬の物語……。

ちょっとシュール?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ