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テンキュウノアメ  作者: ルシア=A.E.
79/96

1.10.3 教師が替わって、習得して

 それから2日程が経った昼前のこと。


「……できた!」


「む?飯の時間かの?」

「んまぁ」だらぁ

「お魚さんでしょうか?それとも野ウサギさん?」


「いえ?昼食は、まだこれから作るところでしゅけど……」


「なんじゃ、まだか……」

「ん、ま゛っ?!」

「なら、キノコたっぷりのお鍋がいいです!」


 アメたちは未だ町に入らず、郊外の森の中にいた。アカネによる狼たちの特訓がうまくいっていたので、皆、狼たちが変身できるようになるのを待っていたのだ。


 そして、アカネと狼たちの努力は、この日、実を結ぶことになる。


「アメ様!狼さんたちの変身、できたよ!」


 少し離れた場所で、今日も狼たちに変身の方法を教えていたアカネが、満面の笑みを浮かべながら、アメたちのところへとやってきた。どうやら狼たちが、ついに人間に化けられるようになったらしい。


「ふむ。では、見せてもらおうかの?」


「うん!こっちだよ?」


 アメたちが、アカネに案内されるままに、狼たちの訓練場(?)まで付いて行くと、そこには――


「……うん。お前さん、どこからどう見ても人間だね」

「しかし、何かおかしい気がしなくもないさね?」

「なんというか……ちんちくりん?こんなもんかねぇ?」


――と、お互いの姿を見ながら感想を口する少女たちの姿が……。どうやら彼女たちが、変身した狼らしい。

 

 彼女たちは、身体のサイズを変えた変身が苦手で、今まで四苦八苦していたのだが、どうにか習得することに成功したらしい。ただし、アカネに教わったためか、大人の姿にはなれず……。子どものような背格好になってしまったようだ。


 しかし、である。一難去ってまた一難というべきか……。彼女たちは、新しい課題を抱えていたようだ。


「ふむ……確かに人間のように見えなくもないが、お主らの身体から、何か余計なものが生えておるように見えるのは気のせいかのう?その……頭とか、腰とかに……」


「んにゅ?」ぱたぱた


「「「ん?」」」ぱたぱた


「……なるほど。アカネでは、これ以上を教えるのは難しいのやもしれん……」


 アカネを筆頭にして、"尻尾"を振る少女たちの姿を見ながら、どうしたものかと考えるアメ。しかし、考えれば考えるほど、これ以上、状況が進展するようには思えなかったようである。

 

 何しろ、狼たちは、アカネを"真似る"という意味では、完璧に変身を習得していたのである。しかし、アカネの変身は不完全。つまり、狼たちは、アカネのその不完全な変身を、そのまま真似ることになり……。アカネが教師役を務める以上、変身の質は上げられない可能性が高かったのだ。

 

 それを手っ取り早く解決するには――


「仕方ないのう……。お主ら、そこに居直るがよい。ワシが直々に変身の極意を教えようぞ。……アカネよ。ついでじゃから、お主も参加せい。……強制じゃ」にやり


――アカネ以上に変身を自在に行える人物が教えればいい、ということになるだろう。


「「「「?!」」」」びくぅ


「そもそも主らは――」


 こうして、アメによる辛く厳しい特訓(?)が始まった。



 その結果。

 

「「「「…………」」」」げっそり


「うむ。これなら、どこからどう見ても人間じゃ。幾分、昼よりもほっそりとしておって、体つきが余計に貧相になっておるような気がせんでもないが……まぁ、こんなものじゃろう」


 この日の晩。アメによる猛訓練を受けた3匹の狼たちは、頭から飛び出ていた2つの突起と、背中から生えていたフサフサとした何かを完全に消せるほどに、変身のスキルを上達させていた。

 

 しかし、教師役だったはずのアカネだけは――


「なんで……なんで僕の尻尾とお耳……消えないんだろ……」ぷるぷる

 

――アメの訓練を受けてもうまくいかず、耳を消せば尻尾が生え、尻尾を消せば耳が生えるというループ状態から抜け出せずにいたようである。

  

「仕方ないのう。お主はシロに服と帽子を借りて変装するがよい。これまで通りにの?」


「うん……」しょんぼり


「なーに、気落ちするのはまだ早いぞ?アカネよ。人にばれぬようにするというのは、何も見た目を人に似せるだけがすべてではないからのう。人の真似をしてしゃべるというのは……お主の得意技じゃろう?」


「…………!」


「自信を持つがよい。お主の真似をワシは高く評価しておる」


 そう言って、アカネの頭の上に、優しく手を置くアメ。

 

 対するアカネは、恥ずかしそうに目を伏せた後で――


「……うん。僕、がんばる!」


――決意したように頷くのであった。



「ついに……この時が来たんだねっ!」


 町の入り口に立ったアカネは、興奮が隠せないのか、シロから借りた帽子の下で、しきりに何かを動かしていた。ちなみに彼女が背負っていた小さな鞄の下の方でも、何かがモゾモゾと動いていたようである。


 それに気づいて指摘の言葉を口にしたのは、微笑ましげな笑みを浮かべていたアオだった。彼女は回りにいる人々に聞こえない程度の小さな声で、嬉しそうな様子のアカネに対し、こう告げる。


「アカネちゃん?帽子の中で小鳥さんが動いているみたいですよ?あと背中にいるのは、狐さんかな?」


「にゅっ?!」


 そして、右手で頭を押さえ、左手でお尻を押さえるアカネ。


 それを見て、今度はシロが口を開く。


「そんなに気を張らなくても大丈夫でしゅよ?尻尾もお耳もそう簡単には見えましぇんから。それに……アカネちゃんのことがバレそうになったら、わっちが身体を張って阻止するでしゅ!」


「んと……ありがと、シロお姉ちゃん。僕、頑張るから大丈夫だよ?」


「私も、アカネちゃんがバレそうになったら阻止しますよ?それはもう、全力でね?」


「アオお姉ちゃんもありがと」


 そう言って、、ブンブンと、何やら箒のようなものを背中で揺らすアカネ。それを見たアオもシロは、慌てて誤魔化そうとするのだが、幸いそれを見ている人間はおらず……。2人は胸を撫で下ろしたようである。まぁ、その当人は、自分の尻尾の存在に気づいていない様子だったが。

 

 そして、アカネだけでなく、狼たちの変身も確認してから……。一行は町の宿屋へと向かっていった。


アオちゃん、あまり関係ない……。

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