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テンキュウノアメ  作者: ルシア=A.E.
74/96

1.9.5 隠れて侵入して、目を隠して

 そして日が暮れて、夜になって……。


シュタッ!


 人に化けた狼たちが住まう村の中を、4本足の影が暗躍していた。

 影の数は2つ。そのうち1つは子狐の形をしていて、もう1つはなんとも形容しがたい異様な姿をしていた。背中に何か鏡餅のようなものを担いでいる大狐、そんな様子である。

 まぁ、実際のところ、それは大きな狐で、背中に担いでいたのは鏡餅などではなく――


「んまんま」がぶぅ


――得も言われぬ猛獣だったようだが。


 そんな2つ――いや3つの影は、村人に見つからないよう足音を隠しながら、村の中央にある(やかた)へと向かっていた。ただし、館と言っても、西洋的な建物ではない。周囲を塀に囲まれた大きな平屋の建物で、北国の冬に耐えるために、風雪が入らないよう隙間のない頑丈な作りをしている、そんな建物である。


 そして影たちはそこへとたどり着くと、高い塀を軽々と乗り越え――られず、仕方なく地面に穴を掘って塀を下から潜り抜け、敷地の中へと侵入した。

 それから人や狼の気配を縫い、安全を確認しながら建物の中へと入って、そろりそろりと廊下を進んでいくと、知った匂いが漂ってくる襖を見つけたらしく……。大きな影はそれを躊躇することなく――


バタンッ!


――と勢いよく開けた。

 するとそこには――


「……いらっしゃいませ、お客様。ご宿泊のご予定は、1泊でよろしいでしゅか?お一人様あたりドジョウしゃん5000匹になりましゅ」


――など訳の分からないことを口にしながら、細い足で大きな狼の頭を踏みつけている鶴の姿が……。

 それを見て大きな影――アメ狐が、あきれた様子で問いかけた。


「……すまぬ。取り込み中かの?」


 と言いながら、ボフン!と人の姿に変身して、後ろからついてきていたアカネ狐の目を両手で塞ぐアメ。どうやら彼女は、その光景を、子どもに見せるべきものではないと判断したようである。まぁ、実際には、公序良俗に反するものなど、何一つ無かったのだが。


「大丈夫でしゅよ?たった今、全部終わったところでしゅから」


「そりゃ見れば分かる……」


 そう口にするアメの視線の先では、大きな狼が何故かピクピクと痙攣していて……。壮絶な何かがあったことを物語っていた。


「お主、何をしたんじゃ?」


「いえいえ、大したことはしていましぇんよ?ちょっと食べ物に()()()()()野草を混ぜて、それを食べさせて朦朧としたところを、鶴拳法(?)でボッコボコにしたくらいでしゅ」


「それだけやれば"大したこと"じゃろ……」


 そういいながら深く溜め息を吐くアメ。

 そして彼女が、アカネの目を隠していた手を退けると――


「…………!シロお姉ちゃん!」


――アカネはまっしぐらに、シロ鶴の下へと駆け寄っていった。



「アカネちゃんが来たら、宿の芝居を打とうと思っていたんでしゅけど……芝居を打つ前に眠ってしまったみたいでしゅね」


 抱きついてきたアカネ狐のことを、人の姿になって抱き上げて……。そして撫でているうちに、アカネ狐は、シロの膝の上で眠ってしまっていた。


「ずっとお主のことを探しておったぞ?姉はどこに行った、とな?」


「そうでしゅか……。それはかわいそうなことをしてしまったでしゅ」


「状況が状況じゃったゆえ、致し方あるまい」


「許してくれましゅかね……」


 そう言って、アカネ狐の背中をゆっくりと撫でるシロ。その際、シロの表情が少しだけ優れなかったのは、何か心配していたことでもあったからか。


 それを察してか、アメは話題を変えて、こんな問いかけを口にした。


「ところで、アオはどこじゃ?来ておるんじゃろ?あやつも」


「アオしゃんは――」


 と、シロが口にしようとしたところで――

 

ブゥン……


「今帰りました。あっ、アメさん!いらしてたんですね?」


――アオ本人が現れた。それも何もない空間に何の前触れもなく突然に。


「……お主、今、どこから沸いて出た?」


「どこからって……そこからですよ?何か変なことでもありましたか?」


「…………いや、なんでもない(ワシの認識がおかしいだけじゃろうか?)」


 そう言いながらシロへと視線を抜けるアメ。そこではシロも目を見開いていて……。どうやらアメの思い過ごし、というわけではなかったようである。

 

 そんな2人の反応に気づいていないのか、アオが報告を始めた。


「とりあえず、屋敷の中と周辺は制圧しておきました。明日の朝までは安全に夜を越せるかと思います。……いえ、誰も殺してはいませんよ?」


「お疲れさまでした、アオしゃん」


「いえ、私は、普段お食事を用意していただいて、与えられているだけの身です。こんなことでもない限り、恩を返すことはできないですから、気にしないでください」


「ふむ。では、今夜はここで一晩を明かすかの」


「そうでしゅね……ふふ……ふふふふふふ……!」かたかた


「……さてナツよ。今日も一緒に、ワシとねんねしようぞ?」


「…………」にたぁ


「うぅ……先を越されたでしゅ……」


 まるで、およよ、と言わんばかりの様子で、袖を使い涙を拭う仕草を見せるシロ。とはいえ、彼女の膝の上には、小さな妹がいたので……。アメの温もりがなくても、一晩くらいならどうにか我慢できそうな様子だった。


 ただ……。そこには、一人だけ温もりに飢えていた人物がいたようだ。姉妹も子供もいないアオである。とはいえ彼女も、今日1日だけに限って、安らかな睡眠を確保することに成功したようである。具体的には――部屋の中に転がっていた狼型のあたたかい枕(?)を使うことによって……。

 

 こうしてアメたちは、無事に再会を果たしたのであった。

 

明日の投稿はさすがに難しいと思います。

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