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テンキュウノアメ  作者: ルシア=A.E.
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1.9.1 すり寄られて、齧られて

彼女は狐。幼児を連れし獣の類い。追われて逃げるは森の中。秋の深まるその先で、彼女を待つのは仲間か人か狼か。

ドドドドド……


「……行ったかな?」


「しっ!足音は聞こえずとも、まだ近くにおるやもしれん。幸いここは風下じゃ。じっとしておれば、このまま逃げきれるじゃろう」


 村から出てきた大量の狼たちは、皆なぜか怒り狂っていて……。逃げたアメたちに追い付こうと躍起になっていたようである。

 結果、必死になって逃げた一行は、移動速度の違いから、2グループに分断されることになった。地上を行くアメ(ナツ)とアカネ。それに、空が飛べる(?)シロとアオである。

 

 そのうち、アメとアカネは、逃げる途中で狐の姿に戻っていて……。2匹(+1人)で、大木の根に空いた穴の中に身を隠していた。そこで彼女たちは、狼たちの遠ざかっていく気配を感じていたようだが、すぐには行動せず、しばらくの間、その場で身を潜めることにしたようである。

 そんなこんなで、アメたちは、決して広いとは言えない穴の中にいたわけだが――


「…………」すりすり


「…………?」


「…………」すりすり


「……アカネよ。お主、何をしておる?」


「!」びくぅ


――どういうわけかアカネは、アメにピッタリとくっついて、彼女の脇腹に自身の顔を擦り付けていたようである。その場が狭かったということも理由のひとつかもしれないが、どうやら無意識的に擦り付けてしまったらしい。人肌恋しい、ならぬ、狐肌恋しいといったところだろうか。

 それをアメに指摘された途端、アカネは全身の毛を逆立てた。そして、彼女は、その場が狭いことも忘れて、弾けるバネのように横に飛び退き――


ゴンッ!


「んぎゅっ?!」


――と木の根に頭をぶつけてしまう。

 その結果、痛そうに頭を押さえながら、(うづくま)るアカネ。もしも彼女が人の姿だったなら、恐らく今頃、目から涙が吹き出ていたのではないだろうか。

 

 すると、そんな子狐の行動を見ていたアメが、溜め息混じりにこう口にする。

 

「これアカネよ。静かにせんか?騒ぎすぎて狼に見つかってしもうても、ワシは知らんぞ?」


「う、うにゅ……ごめんなさい、アメ様……」


 アカネはそう言って耳を伏せると、可能な限り壁際へと身体を寄せ、そこで悲しそうに小さくなってしまった。自分のせいでアメが迷惑を被っている……。彼女はそんな罪悪感に苛まれていたようだ。


 アメは、そんな子狐の行動を、しばらくの間、静かに眺めていた。しかし、次第に見ていられなくなってきたのか……。彼女は再び大きなため息を吐くと、アカネの側へと移動して、そして何も言わずにそこへと腰を下ろした。


「うにゅ?」


「ん?どこに座ろうとも、ワシの勝手じゃろ?」


「んとっ…………うん」すりすり


「……ふん」


 再び身を寄せてくるアカネ狐を今度は拒まず……。彼女のことを受け入れるアメ。その際、彼女は、背中の毛を、口寂しそうなナツによって(よだれ)まみれにされていたようだが、今では慣れてしまったのか、特に反応は見せなかったようである。



 それからしばらくが経ち、すっかりと狼たちの気配が無くなった頃。


サァー……


 今にも泣きそうだった薄暗い空から、ついに雫が降ってきた。

 その様子を片目だけで見上げながら、アメがおもむろに口を開く。


「……降ってきたのう」


「うん……」


「シロたちは無事じゃろうか……」


「んとっ……シロお姉ちゃんたちもアメ様みたいに強いから……多分大丈夫!」

 

「ワシみたいにのう……。ワシなど、今もこうして人の赤子に容易く食われるほど弱いというのに……それでも強いとな?ふむ……」


「んまんま」がぶがぶ


「そ、そんなことないよ?アメ様が弱いんじゃなくて、ナツちゃんが――」


「…………」にたぁ


「……すごく強いだけだと思う……」ぷるぷる


 ナツから飛んできた無垢な笑み(?)。その笑顔があまりに純粋過ぎたのか、それとも自身が新しい玩具として認識されたことを察したのか……。アカネはナツのその笑顔に、恐怖のようなものを感じていたようである。


「ん?ナツに触れたいか?触れても良いんじゃぞ?ほれ、遠慮するでない」


「…………」にたぁ


「なんか……齧られそうだから……止めとく……」


「……まぁ、懸命な判断じゃな。残念じゃったのう?ナツよ」


「んまんま」がぶがぶ


 アメの言葉とは裏腹に、まるで残念そうとは思えない様子で、アメの背中に齧りつくナツ。その結果、自分がナツの標的から外れたことを察したアカネは、安心したのか、ホッと息を吐いたようである。とはいえ、そのあとも、ナツから笑みを向けられるたびに、彼女は全身の毛を逆立てることになるのだが……。


 

 それから再び静かな時間が流れて……。ナツがアメ狐の背中でうとうととし始めた頃。空から降ってきていた小雨が不意に途切れ、雲の隙間から青空が覗いてきた。

 それを見たアメは、ナツよりも先に夢の世界へと旅立っていたアカネの頭を、自身の鼻先で小さくコンコンと(つつ)いて話しかけた。


「ほれ、アカネよ、起きよ。行くぞ?」


「zzz……んにゅっ?ふぁ~……」


「シロたちを探さねばならん。あやつがおらねば、ワシらだけでは、まともな飯が食えんからのう」


「うん……」


「じゃが、気を抜くでないぞ?運が悪ければ、狼たちと、どこかで鉢合わせになるやもしれんからのう」


「うん、気を付ける」


「うむ。では行くか」


 そう口にしてから、背中のナツの位置を調整して、雨が止んだばかりの森の中へと繰り出していくアメ狐。そんな彼女の後ろを、アカネ狐が追いかけて……。2匹と1人は、木々の隙間に身を隠しながら、街道沿いを南へと歩き始めたのである。

文字数を減らしたら更新頻度が上がる……そう思っていたけど、実際はそんなに甘くなかったみたいです。

毎日ちょっとずつ書いてるけど、少なすぎるのかなぁ……。

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