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テンキュウノアメ  作者: ルシア=A.E.
7/96

1.2.2 臭いに悩んで、人に遭って

「どうしたものかのう?ナツよ……。ワシは正直言うと、あの村には、あまり近づきたくないのじゃ……」


「んまんま」もぐもぐ


 潮風が防げる岩の影に、落ち葉で寝床を作って、1晩を明かしたアメとナツ。そこで、自身の尻尾に得も言われぬ違和感を感じて目を覚ましてからというもの。アメは昨日見たの村のことを思い出して、悩んでいたようである。

 その一番の原因は、なんといっても、魚の臭いだった。というのも、アメが昨日見かけた村では、冬に向けた保存食作りが最盛期を迎えていたらしく、様々な種類の魚たちが、家々の屋根を結ぶロープにくくりつけられ、干されていたのである。

 乾物というものは、人が嗅いでも臭いものだというのに、それを人の数千倍もの嗅覚を持つアメが嗅いだなら、どう感じるのか……。まさに、想像を絶するような臭いであるに違いない。


「まだ、かなり離れておったはずなのに、あれだけの臭い……。近づいたら、ワシの鼻だけではのうて、ナツの鼻も曲がってしまうじゃろうのう……」


 そう言って――


べしべしっ!


――と、ナツの鼻のてっぺんを、自身の尻尾で軽く(はた)くアメ。その直後、彼女の尻尾に激痛が走ったようだが、叩かれたナツの方は、歓喜の声を上げていたようである。



「はよ、冬毛が生えてこんかのう……毛の鎧がほしいのじゃ……」

 

「んま?」


 げっそりとした気配を纏いながら、ナツを背中に乗せて、森の中をトボトボと進んでいくアメ。彼女に元気がなかったのは、何も、自身の尻尾が、ナツに食い散らかされていたことだけが原因だったわけではなく、いま向かっている先が、件の漁村だったことも大きく関係していたようだ。


「道を聞くという行為が、これほどまでに苦痛を伴うものじゃったとは、思いもよらなんだ……。ナツよ?お主も人なら、ちょっと行って、道を聞いてくるが良い。非常食とて、そのくらいはできるじゃろ?」


「んまんま」がぶぅ


「……やはり、お主じゃ無理か……」

 

 今日も自身の耳に齧りついている野生児を、(きた)るべき日にどうやって料理しようか、と考えながら、森の中を歩いて……。そして、もうまもなく村が見える、といったところで、アメはおもむろに足を止めた。彼女の目に、何か見えてきたものがあったらしい。


「……家じゃ。こんな森の中に、家が1軒だけある……」


 その家の姿を一言で表現するなら、"掘っ立て小屋"。しっかりとした作りの家ではなく、ありあわせの材料を使って無理矢理に組み立てられたような小屋だった。

 あるいはこう表現できるかもしれない。――屋根付きの鳥の巣、と。


「……しかも、誰かおるようじゃ。ここは一旦隠れて様子を……」

 

「……ぐすっ」


「……む?な、泣くなよ?泣くでないぞ?ナツよ。乳なら、さっき、腹一杯飲ませたじゃろ?」

 

「うぅ……うぅ……!」


「ど、どうして、こんな時に……」


「んぎゃぁ!んぎゃぁ!」


 そして、アメの説得もむなしく、突然泣き出すナツ。もしかすると、彼女は、タイミング悪く、腰に巻いていた布の中で、排泄をしてしまったのかもしれない。


「はぁ……仕方ないのう……。こうなったら、ぶっつけ本番じゃ!」


 アメは、覚悟を決めたようにそう口にすると、背中で泣いていたナツをその場の地面へと下ろした。そして、狐の姿から、人の姿へと変わり、再びナツにことを抱き上げると……。未だ泣き続けていたナツのことを、あやし始めたようである。

 そんなアメの姿は、頭に菅笠(すげがさ)をかぶり、背中にゴザと風呂敷を背負って、そして腰の帯には柄杓(ひしゃく)を差している、という、まさに旅人スタイルだった。どうやら彼女は、当初の予定通り、子連れの旅人を装って、人と接触することにしたようである。


 それからまもなくして、ナツの泣き声に気づいたのか、掘っ立て小屋の中から人が出てくる。

 ただ、その人物は、アメの予想とは、かなり異なっていたようだ。


「こんな所で何をしてるでしゅか?」


「……童?」


「失礼な!わっちはこれでも大人でしゅ!」


 自分のことを大人だと言い張る、舌っ足らずな少女。そんな彼女が、掘っ立て小屋の中から、一人だけ出てきたのである。

 その結果、アメは思わず、こう口にしてしまう。


「もしや、お主……人身御供(ひとみごくう)ではなかろうな?」


 かつて、アメへと捧げられた、少なくない数の贄たち。その一部が、山に小屋を作って生活していたことを、彼女は思い出したのだ。彼らが作った簡易的な小屋が、まさに、目の前の掘っ立て小屋に、近かい見た目だったらしい。

 だが、贄というわけでもなかったようだ。


「本当にどこまでも失礼な方でしゅね?わっちは、自分の意思で、好きこのんで、ここに住んでるでしゅ!人身御供などと一緒にしないでほしいでしゅ!」


「う、うむ……それは失礼な事を言ってしまったのじゃ。謝罪しよう……」


 そう言って頭を下げるアメ。

 ちなみに、そんな彼女の胸に抱かれていたナツは、いつの間にか泣き止んで、ぐっすりと眠っていたようである。どうやら彼女は、眠いことが原因で、ぐずったようだ。


「まぁ、いいでしゅけどねー。で、旅人しゃんたちは、どうして街道から外れたこんな場所にいるでしゅか?」


「おぉ、そうじゃった。実はのう?ワシら……道に迷うてしもうたんじゃ。それで聞きたかったのじゃが、お主、ここから南の暖かい地方に繋がる道がどこにあるかを知ってはおらぬか?」


「道が分からないとか……それでも、旅人しゃんですか?」


 そう言って、アメに対し、ジト目を向ける少女(?)。

 それから彼女が、その言葉の続きを口にしようとした――そんな時のことだった。


ドスッ……


 不意に、硬いものが地面に落ちるような音が聞こえてきたのである。しかも、それは、1つだけではない。


ドスッ……

ザクッ……

ドサッ……


 アメたちがいた場所の周囲の地面から、いくつも似たような音が響いてきたのだ。……それも、拳大の石ころが、放物線を描いて落下してくる様子と共に。

 その直後には、こんな声も飛んでくる。


「やーい!化物!悔しかったらやり返してみろよ!」

「今日は2人いるみたいだぜ?」

「どーせ、仲間だろ?一緒にやっちまおうぜー!」


ドスッ……

ザクッ……

ドサッ……


 村人たちから浴びせられる心無い言葉。そして、少女(?)に向かって投げつけられる石ころ……。


 その様子から察するに、どうやら少女(?)は、村八分に遭っていたようである。



一言だけ言っておくのじゃ。


……携帯端末で執筆してはならぬ。

データがいとも簡単に吹き飛ぶのじゃ……zzz。

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