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テンキュウノアメ  作者: ルシア=A.E.
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1.8.4 尻尾を隠して、お手本を見せて

 朝食を食べた後、湖を取り囲む外輪山を登って越えて……。そして一行は、再び南へと歩き始めた。

 そんな彼女たちの行く手にあったのは――


「山……見渡す限りの山でしゅ……」げっそり


――徐々に色づき始めていた山並みの姿だった。


「何を言うておる?山だけじゃのうて、水溜まりもあるじゃろうに……」


「でしゅから、あれは、水溜まりではなくて、海でしゅ。そうじゃなくて、わっちが言いたいのは、このままずっと獣道を歩き続けるのは大変そうでしゅ、ということでしゅ。獣道を進むのではなくて、この際、人の多いところでも構いましぇんから、海沿いを歩きましぇんか?平らでしゅし、楽でしゅし、何より目的地まで近いでしゅし……」


「ふむ……まぁ、確かに、近いというのは魅力的かもしれん……」


 と、シロの言葉を聞いて、考え込むアメ。そんな彼女は元が狐なので、山道を歩くことは苦ではなかったものの、シロや他の者たちもそうとは限らないことに、言われて気がついたようである。

 特にシロは、正体が鶴。空を飛べる代わりに彼女の足は細く長く……。それほど頑丈ではなかったので、長距離を歩けるようには出来ていなかった。それでも彼女がここまで歩いてこられたのは、人の姿に化けていたからだったのだが……。それでも、歩くことが得意になる、というわけではなかったようだ。

 そのことを改めて考えてから、アメは他の2人にも問いかけた。


「アオとアカネはどうじゃ?人の多い道を歩くことに異論はあるかの?」


「ただ歩くだけなら私は一向に構いませんけれど、でもアカネちゃんは……」


「んと……ぼくも頑張るから大丈夫!」


「頑張る、か……。なら、まずは、お主の頭についておる2つの黒い突起と、背中から出ておるその黄色い箒をどうにかせんとならぬじゃろうのう……」


「んにゅ?……にゃ?!耳と尻尾が生えたままだった?!」びくぅ


「お主、今まで気づいておらんかったのか……」


 と、慌てて両手で頭を押さえるアカネを前に、呆れたような表情を見せるアメ。

 

 すると……。アカネの様子を見ていたシロが、何やら白い袋のようなものを鞄の中から取り出すと、それを、泣きそうな表情を浮かべながら両手で耳を押さえていたアカネの頭の上に――


ぽふっ……

 

――と、優しくのせて……。そしてこう口にした。

  

「これ使っていいでしゅよ?というか差し上げましゅ」


「……白い羽で、できてる?」


「わっちの羽でしゅ」


「んー……はっ!これ、シロお姉ちゃんの匂いがする!」


 と言って、ベレー帽のような白い帽子を、頭には被らずに手に持って……。そして嬉しそうにその場でグルグルと回って踊り始めるアカネ。

 そんなあどけない様子の少女に向かって、再びアメが指摘する。

 

「しかし、耳はそれで良いとして、尻尾はどうする?さすがに尻尾までは、誤魔化せんじゃろ?」


「?!……うぅ……」うるうる


 それからアカネが、目尻に大粒の水滴を蓄えながら腰の尻尾を押さえていると、今度は――


「なら、私からは、これを差し上げます。以前、雨の中、夜道でぼけーっと立ってたら、村の方が奇声を上げながら置いていったものです。世の中にはいい人もいるんですねー。でも、私には必要のないものなので、どうぞアカネちゃんが使ってください」


――と言いつつ、アオがどこからともなく雨合羽(あまがっぱ)のようなものを取り出して、それをアカネへと差し出した。なお、その際、アメとシロが、何やら複雑そうな表情を浮かべていたようだが……。さして重要なことではないので、説明は省略する。

 一方、アカネの方は、アオの発言に違和感を感じていなかったようである。というより、違うことに違和感を感じていた、と言うべきか。


「んと……ありがと?アオお姉ちゃん。でも、これ……今、どこから取り出したの?」


「それは……ひ・み・つです!」きらっ


「う、うん……(すっごく気になる……)」


 それから、アカネが帽子とカッパ(?)を身につけて、そして自身の獣耳と尻尾がうまく隠せていることを確認してから……。

 

「さて、行くか?」


「うん!」

「行きましゅか」

「はい」

「んま」


 5人(?)は、山を降りて海沿いへと向かった。



「いいでしゅか?アカネちゃん。人間しゃんと出会ったら、あまりじろじろと見てはいけましぇん。直接、お話をしゅるなら別でしゅけど、基本的にジーっと見ていると怪しまれましゅ」


「んとー……うん!分かった!」


「……ほら、早速向こう側から人間しゃんがやって来たようでしゅよ?」


 山を下って、人が作った街道に出て……。そして一路、南を目指して、歩いていく一行。

 彼女たちが、しばらく街道を歩いていると、道の先の方から旅人とおぼしき男性が1人歩いてくる。


 その様子を見たアカネが――

 

「んとっ……んとっ……」


――と、今までシロたちに言われたことを思い出すように、あたふたと困っていると……。


「こんにちは」


 男性は軽い会釈だけを残して、そのままアカネたちの横を通過していった。

 

 しかし、それでも、アカネの思考は固まったままだった。どうやら彼女の頭の中で無限ループが発生しているらしい。


「んとっ……んとっ……」


「えっと……アカネちゃん?」

 

「は、はひっ?!」びくぅ

 

「もう……人間しゃん、通りすぎていっちゃったでしゅよ?」


「えっ?……はぁー……すっごく緊張した!」


「そのようでしゅね……(大丈夫でしゅかね……これ……)」


 と、これから先のことが思いやられたのか、シロが頭を抱えていると……。再び、別の旅人が一行の前からやって来る。

 それを見たシロは、アカネに手本を見せようと思ったのか、アカネの横に立って、彼女の手を握ると……。声がかけられる範囲に入った旅人の男性へと向かって、()()を浮かべながら、挨拶の言葉を口にする。


「……こんにちはでしゅ!」にやり


「…………!」びくぅ


すたすたすた……


 そしてシロたちから逃げるようにして、早足で立ち去っていく旅人。そんな彼の表情がひきつり気味だったところを見ると、どうやら彼は、何か見てはならない類いのものを見てしまったようである。


 まぁ、シロ自身は、そのことに気づいていなかったようだが。


「……こんな感じでしゅ!」どやぁ


「おおー!」キラキラ


「ほら、次の人が来ましたよ?」


 そして――


「……こ、こんにちは?」にやっ


「…………?」


すたすたすた……


「うまくいった?」


「えぇ、よかったと思いましゅ。……あ!また来たでしゅ!」


「んと……こ、こんにちは?」にやっ


――と、愛想笑い(?)を浮かべて、旅人たちへと挨拶を繰り返していくアカネ。

 その際、その様子を見ていたアメとアオが――


「……のう?アオよ。何か言うてやれ」


「……アメさん。夕食の量、減ってもいいんですか?」


「むぅ……」


――と、そんなやり取りを交わしていたとか、いなかったとか……。


 それからもアカネは、シロと共に、何かを間違えた挨拶の練習を繰り返していくのだが……。それと平行してもう一人、挨拶の練習(?)をしていた者がいたことに誰も気づかなかったのは仕方のないことだろうか。

 

「…………」にたぁ


 こうして彼女たちは、人通りの多い街道を、南へ南へと進んでいったのである。


……忘れ去られたころに、アップロード!

はぁ……もう少しペースを上げていきたいなぁ……。

でも今は……。

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