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テンキュウノアメ  作者: ルシア=A.E.
59/96

1.7.8 風呂が好きで、風呂が嫌いで

タイトルが前の話と被っていたので変更しました。

ぷかー


 風呂に浮かんでいた物体。それは、早々に浴槽へと入っていったアオの、ぐったりとした姿だった。どうやら彼女は、いつの間にか浴槽の中で溺れていた(?)らしい。

 その姿を見たシロは、慌てた様子で、浮かぶアオに向かって声を上げた。

 

「ちょっ……アオしゃん!お風呂の中に手拭いを入れちゃダメでしゅ!」


 と、手拭い云々以前に、何かとても重要なことを失念している様子のシロ。

 しかし、幸いと言うべきか、あるいは最初からシロは知っていたのか……。風呂に浮かんでいたアオは、深いはずの風呂の中央付近で、何も無かったかのように起き上がると、シロに対してこう答える。


「この手拭い本物ではないんですが……まぁ、紛らわしいことに違いはないので、次回からは気を付けますね」


 彼女はそう口にして、手にしていた手拭いを、ブゥン、と消すと……。再び何もなかったかのように、ぷかーと浴槽に浮かび始めた。それも、顔を下にしたうつ伏せの状態で……。その様子を見る限り、彼女の身体は、水よりも軽いらしい。


 一方。それを眺めていたシロの方は、それを努めて気にしないようにしながら、ちょうど身体を洗い終わる所だったアカネに対し、こう告げた


「それじゃぁ、最後にお湯をかけて、灰を落としましゅね?目をしっかり瞑っていてくだしゃいよ?それじゃぁ行きましゅね?じゃばばばばー」


「んはっ!くちゅんっ!」


「……お鼻にお水が入ったでしゅか?」


「んと……少しだけ?」


「そうでしゅか……。あと2、3回ほど、また頭からお湯を掛けるでしゅから、今度は息も止めていてくだしゃいね?」


 そう言って――

 

ザバーッ!

ザバーッ!

ザバーッ!


――とアカネの頭の上に3度ほどお湯をかけるシロ。

 対するアカネは、シロの忠告通り、しっかりと息を止めていたらしく、両手で口と鼻を押さえていたようだ。ただ、その際、彼女が、顔を段々と赤くしながら、足をジタバタと動かし始めたのは、忠告を守りすぎて、ずっと呼吸を止めていたためか……。


「もう灰は落ちたでしゅから、息をしても大丈夫でしゅよ?」


「ぷは~……」


「そういう時は、お鼻だけを押さえて、口で呼吸するといいでしゅよ?口なら、水が入っても、灰が入っても、吐き出せばいいだけでしゅからねー」


「あっ、そっか!じゃぁ、次はそうしてみる!」


「でも、もう、洗い終わっちゃったでしゅけどねー」


 そう言って、アカネに対し、苦笑を向けるシロ。対するアカネは残念そうな様子で、しゅんと耳を倒してしまった。

 そんな彼女の姿を見かねたのか、シロは諭すように、続けてこう口にする。


「一回のお風呂で何度も身体を洗うと、カサカサな狐しゃんになってしまうでしゅから、また今度でしゅ。まぁ、わっちたちと行動している限り、これからは何度もお風呂に入ることになると思いましゅから、その時に、また洗いましょうねー?」


「……本当?」


「アカネちゃんがお風呂嫌いになって、絶対に入りたくない、って言わない限り、また一緒にお風呂に入るつもりでしゅ」


「んー……わかった。じゃぁ、ぼく、楽しみにしてるね?シロお姉ちゃん!」


「わっちも楽しみにしていましゅ。……さて、アカネちゃん。身体を洗い終わった、ということは……?」


「……お風呂!」


「そうでしゅ。じゃぁ、入りましょうか」


「お風呂お風呂~♪」


 と、入浴の準備を終えたアカネが浴槽の手前までやってくると……。そこでホラー映画よろしく風呂に浮かんでいたアオが、その顔を上げて口を開く。


「あ、ちょっと待って、アカネちゃん。お風呂に入る前に、温度を確認してね?多分、少し熱いと思うから」


「んとねー……うん、大丈夫!」


 そう言って、躊躇することなく、ザバーンッ、と温泉に入っていくアカネ。それから彼女が、そのまま浴槽の中で泳ぎ始めたのは、彼女の正体が狐だったためか。

 

 そんな義理の妹(?)と共に再び入浴を始めたシロが、ちょうど目の前で浮かんでいたアオに対して質問を投げ掛ける。


「……アオしゃん?1つ……じゃなくて、2つ聞いても良いでしゅか?」


「えぇ、何なりと」


「まず……もしかしてでしゅけど、アオしゃん、お風呂に入る意味、あまり無かったりしましゅか?その……確かにお風呂に入ってはいるんでしゅけど、入浴しているという感じが無いというか……」


「いえ、意味がないわけではないですよ?ちゃんと頭も身体も洗えますし、それに温まりもしますし……。ただ、水に濡れはしないですけどね?お陰で溺れませんけど」


「それ、どんな原理でしゅか……」


「さぁ?そればかりは私にも良く分かりません」


「そうでしゅか……。じゃぁ、次の質問でしゅけど……アオしゃん、言うほどお風呂、嫌いじゃないでしゅよね?」


「いえ、大嫌いです。こうして平静を保っていられるのは、近くにアカネちゃんやナツちゃんがいるからで……もしも私一人だけなら、今頃、お風呂のお湯は湯気ごと凍っているはずです」


「そ、そうでしゅか……(本当、アオしゃんって……何者なんでしゅかね?)」


 と、シロが内心でアオの正体を推測していると――


「ふぅ……お互い綺麗になったのう?ナツよ」


「んま!」


――今回、一行が温泉に立ち寄るきっかけとなった母子2人が、灰を落とし終えて、湯船へとやって来たようである。


アオさんは何者なのか……。

雪女さん、ではないみたいです。

だからといって、人間でもないみたいですけど。

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