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テンキュウノアメ  作者: ルシア=A.E.
58/96

1.7.7 洗って洗われ、そして浮かんで

「…………」ゴゴゴゴゴ


「アオしゃん?そこで何をしてるんでしゅか?」


 アカネの脱衣を手伝っていると、怪しげなオーラを放つアオの姿が視界の中に入ってきたためか、何となくその理由が分かっていながらも、事情を問いかけるシロ。そんな彼女としては、風呂嫌いなアオのことを、無理矢理に入浴へと誘うつもりはなかったのだが……。

 しかし、対するアオの方は、風呂に入るかどうかを本気で悩んでいたらしく、整った顔に酷く険しい表情を浮かべたり、悩ましげに唸ったり、あるは何故かニヤけたりしてから……。最後にどこか決意した様子で、シロの問いかけに、こう答えた。


「やっぱり……私もお風呂に入ろうと思います!」きゅぴーん


「いや、無理はしなくても良いんでしゅよ?アオしゃんは、わっちたちみたいに、臭くないんでしゅから……」


「……いえ、考えたのです。確かに私はお風呂が大嫌いで、憎んですらいます。この世からお風呂なんて、すべて無くなってしまえばいい、と。でも、それと同時に思うのですよ。ここで今、お風呂に入らなければ、私はきっと後悔する、って……」


「アオしゃん……」


「だって……ナツちゃんもアカネちゃんもお風呂に入るんですから、いま入らなければ、後で絶対に後悔するに決まっています!この瞬間は今しか無いんですから!」ぶるっ


「あ、そうでしゅか……」


 アオがどうでもいいことで悩んでいたことを知って、あきれた様子で適当に相槌を打つシロ。どうやらアオの悩みは、シロが理解できる次元の話ではなかったようである。


 それからというもの、スポポーンッ!、という音が聞こえそうな勢いで、アオが服を脱ぎ始めた姿をできるだけ視界に入れないようにしながら、シロはアカネの服を脱がせることだけに専念することにしたようである。

 そしてアカネの服に手をかけた際、シロには、なにやら疑問が浮かび上がってきたらしく……。尖った2つの赤い耳が特徴的だった少女に対して、彼女はこんな質問を投げかけた。


「そういえば、この服って、変身する前は着ていなかったように思うんでしゅけど、どうなっているんでしゅか?まさか……いえ何でもないでしゅ……」


 と、口にするのも憚られるような、まさかの展開を想像した様子のシロ。なお、その内容については――まぁ、"毛皮"とだけ言っておこうと思う。

 対するアカネは「んー」と首を傾げてから、その返答を短く口にした。

 

「葉っぱ?」


「葉っぱ……。つまり、葉っぱを変身させてるんでしゅね?」


「うん!シロお姉ちゃんは違うの?」


「わっちは葉っぱじゃないでしゅよ?鶴の姿でいても、服を着てるでしゅから!」キリッ


「んー……そうだったっけ?」


「はいでしゅ。自分の羽を集めてつくった白黒の服なので、気づかなかったんだと思いましゅよ?」


「そっかー。じゃぁ、今度、ゆっくり見せてね?」


「えぇ、良いでしゅよ?……はい。お着替えは終わりでしゅ。それじゃ、お風呂に入る前に、身体を洗いましょうね?」


「はーい!」


 そして、シロに連れられ、お湯をかけられ、そして灰をたっぷりとかけられて……。何か得たいの知れない黒い生き物のような見た目へと変わるアカネ。それでみ彼女が終始嬉しそうにしていたのは、なにも入浴に興味があったから、という理由だけではなかったのかもしれない。

 

 そして、最後。

 シロに臭いと言われてショックを受けた(?)2人は、というと――


「せっかくナツにワシの匂いが染み付いたと思っておったころなのに、シロのやつ、風呂に入れとは気が利かぬ……」


「んまんま」


――こちらも風呂嫌いなのか、服を脱ぐ手があまり進んでいなかったようである。しかし、遅々としながらも、徐々に脱衣が進んでいたのは、人間に自分たちの正体がバレてしまうのをどうしても避けたかったためか。


 それから2人とも服を完全に脱ぎ終わった後で、アメはナツの脇に手をいれて、そして彼女を持ち上げながらこう口にする。

 

「ナツよ。お主、いつの間にか、かなり大きくなったのではなかろうか?」


「んま!」


「やはりそうか……ふむ。その調子で、はよ大きくなるが良い。ワシはお主が大きくなるのが楽しみじゃ」


「んまんま」


 そんなやり取りを交わしながら、ナツを抱き抱え、そしてシロたちのところへと近づくアメ。するとそこには、シロにワシワシと頭を洗われて、気持ち良さそうな表情を浮かべるアカネの姿が……。もちろん、真っ黒な姿で。


「~~~♪」パタパタ


「……アカネよ。お主、ずいぶんと風呂が気に入っておるようじゃの?」


「うん!だってすっごく気持ち――」


「…………?」


「……おっきぃ…」


「おっと、アカネちゃん?胸の話はそこまででしゅ。あれは単なる脂肪の塊に過ぎましぇ……」


「「…………?」」


「……確かにしゅごく大きいでしゅ……」がくぜん


「お主ら、何を言うておる?」


 と、自覚がないのか、不思議そうな表情を浮かべた後。桶のようなものにお湯を汲んでその場に腰を下ろしてから、手拭いを使って、ナツを洗い始めるアメ。

 その際、嬉しそうにじゃれるナツのことを時折あやしながら、いとおしげに優しく洗っていたアメと、洗われている側のナツの姿は――


「やっぱり、どう見ても、実の親子でしゅよね……」

「うん……」


――そんなシロとアカネの言葉通り、親子そのもので……。見ているだけでも、幸せそうな(?)雰囲気が伝わってきたようである。


「うむ。旨そうな非常食じゃのう?」かぷっ

「きゃっきゃきゃっきゃ!」がぶっ


「……ねぇ、シロお姉ちゃん」

 

「なんでしゅか?」


「んと……"ひじょーしょく"って、なに?」


「それでしゅか……。実はわっちにもよく分からないんでしゅ。誰か教えてくれないでしゅかね……」


 そういって、アカネの頭を洗う手を動かしながら、深くため息を吐くシロ。

 それから彼女は、この数分間、妙に静かだった"とある人物"のことを思い出して、その人物がいるだろう方向へと視線を向けるのだが……。そこでは――


ぷかー……


――なにか見てはならない類いの物体が風呂に浮いている――そんな様子が目に入ってきたようだ。

今日は母の日ですが、狙って書いたわけではないですよ?

ただの偶然です。


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