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テンキュウノアメ  作者: ルシア=A.E.
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1.7.5 嫌われて、好かれて

 湖畔を歩いていて都合良く大きな風呂を見つけた、というアメに誘われるまま、彼女を先頭にして砂浜を歩いていた旅人5人衆。そんな彼女たちの表情は、まさに十人十色で……。同じような表情を浮かべていた者は、誰一人としていなかった。


 そんな中でシロは、怪訝そうな表情を浮かべながら、満足げな様子のアメの後ろを付かず離れず歩いていたわけだが……。その直後、そこに広がっていた光景を見た彼女は、眉間のシワを今まで以上に深くしながら、アメに向かって思わずこう問いかけることになる。

 

「なんでしゅか?これ……」


「ん?これかの?風呂じゃ?見りゃ分かるじゃろ?」


「いやまぁ……確かに、ちゃんとお湯が湧き出ていて、それなりの深さがあるみたいでしゅけど……でも、なんなんでしゅか?この大きな穴。ここで熊しゃんでも暴れたんでしゅか?」


「……質問は受け付けておらぬ、と言うたはずじゃが?」


「はいはい。分かったでしゅ。まったくアメしゃんは強引でしゅね……」


 と言いつつ、地面に空いていた大穴や、2本足で歩いているとおぼしき大きな動物の足跡を横目で見ながら、深くため息を吐くシロ。

 一方のアメも、そんなシロに対して、逆に聞きたいことがあったらしく、こんな質問を口にした。


「して、シロよ。風呂の準備は整ったわけじゃが……飯はまだかの?」


 その問いかけに対し、シロは、というと……。アメの質問に答えることなく――


「ふふ……ふふふふふふ……」かたかたかた


――と、まるで壊れたからくり人形か何かのように、怪しげに笑い始めた。どうやら、彼女にしか分からない喜びが、不意に空から舞い降りてきたらしい……。


 それから間もなくして、シロは意味深げに鼻で息を吐くと……。この時、この瞬間をずっと待ち焦がれていたかのように、その口を開いてこう言った。……それもどこか清々しさすら感じられるような、微笑みを浮かべながら。


「……何百年もの間、わっちには、一度で良いから言ってみたかった言葉があったでしゅ。……アメしゃん!お風呂が先でしゅか?ご飯が先でしゅか?それとも、わっt」


「飯じゃ」きりっ


「あ、はい……。わかったでしゅ……」げっそり


 そして、直前の様子とは180度以上、打って変わって、しゅん、とした様子で、夕食の準備を始めるシロ。そんな彼女は、夕食の準備をしながら、こう考えていたようである。……もういっそのこと、自分自身が夕食になれば幸せになれるのではないか、と。

 とはいえ、それも、アカネの腕に齧り付いていた獰猛(どうもう)な獣と――


「…………」にたぁ


「うぅっ?!」

 

――不意に目が合うまでの話だったようだが。

 

 ちなみに。

 齧られていた側の弱肉はどんな反応を見せていたのか、というと――


「歯が無いから痛くないけど……でもなんでかな……。すごく複雑な気分……」しゅん


「んま?」がぶぅ


――既に慣れつつあったのか、泣きそうな雰囲気は消え去っていたものの……。何か納得できないことがあったらしく、アカネは眉をハの字にして俯いていたようである。

 そんな彼女の様子に気づいて、アメが問いかけた。


「アカネよ?ナツとはうまくやっておるようじゃのう?」


「えっと……うん。喧嘩はしてないよ?でもこれ……うまくやってるって言えるのかな……」


「んまんま」むしゃむしゃ


「うむ。ワシが見る限り、うまくやっておるように見えるぞ?……のう?アオよ」


「やっぱり……かわいい……!」にへらぁ


「ん゛ま゛っ!」ゴゴゴゴゴ


「……の?」

 

「なんというか……一方的?」


 ナツとアオのやり取り(?)が、見る限り一方方向にしか流れていないような気がして、首をかしげるアカネ。対するアメの方も、不器用なアオの行動には困っていたらしく、苦笑を浮かべていたようだ。

 

 それから、しばらくの間、表情を緩みに緩ませたアオの怪しげな行動を観察していると、反復横跳び(?)を始めた彼女が、アカネごとナツに飛び付こうとしたことに気付いて……。アメは、アカネとアオの間にそっと入り込むと、人の赤子を抱いていた狐耳の少女に向かって、こんなことを口にした。

 

「さて。アカネよ。そろそろ、ワシの非常食を返してもらおうかのう?お主も慣れんことを続けるというのは大変じゃろ?ワシもやることが無くなったゆえ、だんだんと、こう……手持ちぶさたが気になってきたんじゃ」


 対するアカネは、ナツを任されてほとんど時間が経ってなかったこともあってか――


「ううん。まだ大丈夫だよ?」


――と、健気な様子で返答するのだが……。

 それ聞いたアメは何故か――


「むぅ……」


――不機嫌になってしまったようである。

 その反応の理由が理解できなかったのか、アカネが「うん?」と首をかしげていると――

 

「アカネちゃん?アメしゃんにナツちゃんを返してあげるでしゅ」

 

――アメとナツについて理解のあったシロが、アメの代わりに事情を説明し始めた。

 

「アメしゃん、ああ見えて、ナツちゃんが好きで好きで堪らないんでしゅよ。非常食とか言ってましゅけど、あれは方便で、本当はナツちゃんのことを手放したくないだけなんでしゅよー?」


「そうだったんだ……。アメお姉ちゃん、ごめんなさい。ナツちゃんのこと、返すね?」


「…………むぅ」


 と、やはり不機嫌そうな表情を浮かべながらも、おとなしくアカネからナツを受けとるアメ。その際、彼女が口をモゴモゴと動かしていたのは、何か言いたいことがあったためか。


「んま?」がぶっ


「……いやの?世の中、不憫なことだらけじゃと思っただけじゃ。気にするでない」


「んまんま」もきゅもきゅ


「……ところでナツよ?お主なにをしておる?」


「んま!」もぐもぐ


「まさかとは思うが……お主、ワシのことを食ろうておるのではなかろうな?」


「…………」にたぁ


「ふっ……このワシも舐められたものじゃ……良いじゃろう!今日という今日こそは、その身に"後悔"の二文字を刻み込んでやろうぞ!」


「きゃっきゃ、きゃっきゃ!」


「……といった感じでしゅよ?」

「なるほどー……」

「あー、もう……私も紛れ込みたい!」


 襲われているのか、襲っているのか……。楽しそうに戯れている(?)アメたちの様子を見て、表情を綻ばせるシロたち3人。ただ、アカネだけは、他の二人と比べて、少しだけ表情が冴えなかったようである。

 

「…………」


「えっと………アカネちゃん?」

 

「うん?」


「アカネちゃんも、あの二人の間に飛び込んでも良いと思いましゅよ?アメしゃんのことでしゅ。きっと、アカネちゃんのことも襲っ――受け入れてくれるはずでしゅ!……ほら。アオしゃんが、我慢できずに飛び込んでいったでしゅよ?」


「私も混ぜ――」


「いーやっ!」


「な、ナツちゃんが……喋った……?!」びくぅ


「……ま、まぁ、アオしゃんとナツちゃんの間には、簡単に埋められないほど深い深い谷があるでしゅから、仲良くするにはかなり根気が必要になるかもしれないでしゅけど……アカネちゃんは、アオしゃんと違って、嫌われている訳ではないでしゅから、飛び込んで行っても受け入れられるはずでしゅ。ほら、遠慮せずに……」


 そんなシロの言葉を受けたアカネは、初めて言葉らしい言葉を喋ったナツや、彼女に対して嬉しそうに頬擦りするアメ、そして拒否されてその場の地面に沈み混んでいたアオの姿をしばらく眺めた後で――


「……ううん。僕、行かない」


――その場に留まることに決めたようだ。

 そしてその代わりというべきか……。彼女は一つの行動に出る。


「僕、シロお姉ちゃんのお手伝いをする!」


「えっ?」


「んと……シロお姉ちゃんの……妹になる!」


「えっと……どうしたんでしゅか?急に……」


「……駄目?」


「いえ、構いましぇんけど……でも、わっち、鶴…………そうでしゅね。分かったでしゅ。なら、湖から水を組んできて、お野菜の泥を落としてくだしゃい。はい、これ」


「うん!」


 そして、シロから木で出来たタライのようなものを受け取ると、嬉しそうに尻尾を振りながら、星の輝く湖へと走り寄っていくアカネ。

 シロはその後ろ姿を眺めて、何かしらの表情を浮かべていたようだが、彼女の頭の上にあったアメ製のランタンが逆光になっていたせいか……。その場の者たちにシロの表情は見えなかったようだ。

 

……アカネちゃんを書くのが少し難しいです。

一人称以外に、もう少し個性を考えた方がいいのかもしれません。

まぁ、アオさんみたいなとんでもない個性はどうかと思いますけどね……。


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