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テンキュウノアメ  作者: ルシア=A.E.
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1.7.4 掘って投げて、固まって泣いて

「ねぇ、おか……じゃなくて、アメお姉ちゃん。このお風呂って、すっごく浅くて、水溜まりみたいだけど……どうやって身体を洗うの?」


「それは……あれじゃ……どうするんじゃ?シロよ」


 アメとアカネの視線の先にあった湯気を上げる温泉。それは、大きな湖の畔にあった砂浜にあったのだが、深さが2cm程度しかなく、どう考えても浸かれるほどには深くなかった。

 その結果、2人は、この地に自分たちを導いたシロに対し、どこか心配そうな視線を向けたわけだが……。対するシロは、そのまっ平らな胸を張りながら、こんなことを言い始めた。


「ここに穴を掘って、お風呂を作るでしゅ。ここ掘れコンコンでしゅ!」


「「ん?コンコン?」」


「な、なんでもないでしゅ……。とにかく、お湯が砂の隙間から染み出てきてるでしゅから、ここを掘れば立派なお風呂ができるはずでしゅよ?あ、そうそう。染み出て来ているお湯は熱いでしゅから、そこの湖の水と混ぜ合わせて、適度な温度になるよう工夫するでしゅ。そうでないと、熱くて入れないでしゅからねー」


 そう言って、頭の上にあったアメ製のランタン(?)を使い、その場を照らし出しながら、掘削の指示を出すシロ。そんな彼女は、指示を出すだけでなく、そこに落ちていた木の棒を使い、自ら率先して穴を堀り始めたようだ。


 一方。

 風呂の存在をこよなく憎む(?)アオは、というと――


「じゃぁ私は、湖から水を引き込むための通り道を作りますね?」


――風呂に入るのは嫌いでも、作るのは嫌いではなかったようで、率先して水路作りに取り組み始めたようである。もしかすると、それは、風呂嫌いな彼女なりの妥協点のようなものだったのかもしれない。……手伝ったという実績を残せば、風呂に入らなくても済むのではないか、と。


 そして、残る3人も手伝おうとするのだが……。彼女たちは、ちょっとした問題にぶつかっていたようである。


「ワシも手伝おうと思うんじゃが、ナツがおるからのう……。その辺に置いておくと、気を抜いたときに、狼やタヌキに取られてしまいそうじゃし……かといって抱いたままで穴を掘るというのは、いささか大義じゃ。さて、どうしたものか……」


「んま?」


「…………」じぃ……


「おぉ、そうじゃ。アカネよ?お主、ワシが風呂を掘っておる間、ナツのお()りをしてはくれんか?」


「えっ?」


「いやかの?」


「えっと……ううん。でも……ナツちゃん、噛みついたりしない?」


「んま!」


「……噛まないそうじゃ」


「なら、お守りする!」


 そう言って、アメに向かって、小さな両手を差し出すアカネ。

 するとアメは、抱えていたナツを、アカネの腕が届く高さまで下ろすと――


「離すぞ?」


――アカネがナツをしっかりと抱き上げていることを確認してから、その手をゆっくりと離した。


「思ったより重い……」


「んま?」


「……もしかして、"重い"って言ったことを気にしてるの?」


「んま」


「んと……ごめんね?ナツちゃん……」


 と、ナツに対し、自身の発言について謝罪するアカネ。ただし、会話が本当に成立しているのかどうかは不明である。


 一方で。

 ナツをアカネに託したアメは、というと――

 

「……熱っ?!思ったよりこの水溜まり、熱いではないか?!」


――早速、砂を掘ろうとして、しかしそのあまりの熱さに、手を止めてしまったようだ。


「しかもこの感じ……水が(ぬく)いのではのうて、むしろ砂の方が温いようじゃ。どうなっておる?」


「さぁ?わっちにも原理は分かんないでしゅ。とにかく、そのまま手で掘ると火傷をしてしまうでしゅから、わっちのように木の枝を使って掘るでしゅよ?」


「ふむ……。ところで聞いても良いか?シロよ」


「なんでしゅか?求愛ならいつでも受け付けてるでしゅよ?」さっくさっく


「……お主、どのくらいの時間をかけて、風呂を掘るつもりじゃ?」


「んー……掘れるまで?」さっくさっく


「……晩飯は?」


「……堀り終わったら?」さっくさっく


「はぁ……」


 このまま木の枝で風呂を掘ったなら、まともな大きさになるまでいったいどれ程の時間がかかると言うのか……。それを考えたアメは、頭が痛くなってきたようである。


「……のう、シロよ」


「なんでしゅかー?」さっくさっく


「ちょっと行ってくるゆえ、こっちに来るでないぞ?」


「……それは誘ってるんでしゅか?」


「何を言っておる……。まぁ良い。とにかく、お主らはここで待っておれ」


 アメはそれだけ口にすると、湖畔の砂浜を歩いて、そのまま暗闇の向こう側に姿を消してしまった。


 そして数分後。

 

ズドォォォォォン!


「「「「?!」」」」

 

 アメが姿を消した暗闇の向こう側から、何かが爆発したような大きな音と共に、地面を揺るがすような凄まじい振動が伝わってきた。

 それから間もなくして――


「……シロよ?わざわざ穴を掘らずとも、そっちに大きな風呂があったぞ?」


――しれっとした様子で、アメが戻ってくる。


「……アメしゃん。わっちも聞きたいことがあるんでしゅけど、聞いて良いでしゅか?」


「駄目じゃ。質問は受け付けておらぬ」きりっ


「…………」じとぉ


「……受け付けておらぬ!」


「……はぁ。分かったでしゅ。なら、その大きなお風呂があるという場所に案内してくだしゃい」


 そう言って、持っていた木の枝を放り出して、頬を膨らませるシロ。どうやら彼女は、風呂を掘ることも、そしてアメを問いただすことも諦めたようだ。

 

 ちなみにアオは、大きな音が聞こえたときこそ取り乱していたものの、すぐに我を取り戻すと、作業に戻って……。石を敷き詰めて作った立派な水路を前にして、一人満足げな表情を浮かべていたようである。しかし、その場を離れていくアメたちの姿を見てからは、顔にクエスチョンマークを張り付けて固まっていたとか……。ただ、それに気づいた者は誰一人としていなかったようだが。

 

 なにしろ、その場に居合わせたアカネは――


「噛まないって……言ったのに……」ぷるぷる


――と、泣きそうな表情を浮かべていて、アオの様子に気づくどころの騒ぎではなく……。

 そしてそんなアカネに抱かれていたナツの方も、彼女の腕に――


「んまんま」がぶがぶ


――と、一心不乱に(?)噛みついていたのだから……。

 


そういえば、章の頭で書いていた唄を、1.7章だけ(?)書き忘れてました。

そのうち追記しておきます。

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