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テンキュウノアメ  作者: ルシア=A.E.
39/96

1.5.7 買って、噛んで

「……これくだしゃい」


「あぁ?!嬢ちゃん、金もってんのか?」


「はいでしゅ」


「おめぇ、馬鹿か?こんな大金、ここで使えるとでも――」


「コレ……ク・ダ・シ・ャ・イ!」ゴゴゴゴゴ


「ひ、ひぃっ?!」


「あ、お釣りくだしゃいね?」



「さすがじゃのう?シロよ。鮮やかな交渉……ワシらと違うて、場慣れしておるようじゃの?」


「とーぜんでしゅね!わっち、こういうのは得意でしゅから、任せてくだしゃい!」キリッ


「(あれって……慣れてるって言って良いんでしょうか?)」


 と、交渉ではなく、脅しに近い発言をしていたシロのことを思い出して首をかしげるアオ。

 その様子に気づいたのか、アメが問いかける。


「む?どうしたのじゃ?アオよ。何か悩みごとかの?」


「えっ?」

 

「今、考え込んでおったように見えたのじゃが……やはり、晩飯のことじゃろうか?」


「い、いえ……でも……確かに、晩御飯は気になりますね。シロさん?何買ったんですか?」


 その問いかけを受けて――


「ふふ……ふふふふふふ……」カタカタカタ


――と、普段通りに怪しげな笑みを浮かべるシロ。

 それから彼女は、大きなフキの葉の包みをほどいて、その中身を2人に見せた。


「……これでしゅ!」


「「……キノコ?」」


「はいでしゅ!あとは少しのお肉とお野菜があれば、すごく美味しいお鍋が作れるでしゅ!欲を言えば、ドジョウしゃんが欲しいところでしゅけど……まぁ、そこまで贅沢は言わないでしゅ」


「ふむ……すごく美味い鍋とな?」だらぁ

「んまんま」だらぁ

「…………」ごくり


「楽しみにしていてくだしゃい。あとは調味料……あっ!あったでしゅ!」トテトテ


 そう言って、まるでお使いをする子どものように、そこで商売をしていた町人の所へと駆け寄っていくシロ。

 

 そんな彼女に対して、商人がどんな対応をしていたのか、そしてシロがどんな返答をしたのかについては、あえて言うまでもないだろう。



「ふふ……ふふふふふふ……」カタカタカタ


「……のう、アオよ。シロのやつ、あの怪しげな笑みさえなんとかなれば、普通の人間に見えるとは思わんかの?」


「さっきの"市"で買い物をしていても、正体は見破られていなかったようですし……そうかもしれませんね」


「んまんまー」


「ん?なんでしゅかー?わっちがなんとかーって話が聞こえた気がしたんでしゅけど、3人でどんな会話をしてたんでしゅかー?」


 といった会話を交わしながら、シロを先頭にして、森の中を歩いていた一行。そんな彼女たちは、町で食料品を無事に(?)買い終え、午後の日差しを浴びながら、再び街道を西に向かって進んでいた。

 なお、シロが買ったものは、ほとんどが調味料に関するもので、今日食べる分のキノコを除いて、食材と呼べるものは買っていなかったりする。そもそもからして、自力で野菜も肉も手に入れられる彼女たちには、特段変わったモノでもなければ、食材を買う必要が無かったようだ。

 

「どんな話かじゃと?……シロが作る料理は美味いが、シロ自体は食ろうても美味くないという話じゃ」


「えっと……はい。そうでしたね」


「…………」にたぁ


「うぅっ……。ア、アメしゃんになら食べられても良いでしゅけど、ナツちゃんは何か……いやでしゅ……」


「なーに、安心せい。主に何かあったとき、ワシは食わんが、ナツが喜んで食らうじゃろうからのう」


「んまんま!」だらぁ

 

「全然、安心できないでしゅ……」


 と、自分に向ける視線が、いつも怪しいナツを前に、微妙な表情を浮かべるシロ。

 その様子を見て、アオが問いかける。


「もしかしてシロさんって……ナツちゃんのことが嫌いだったりするんですか?」


「そんなことは……ないでしゅよ?わっちは子どもが好きでしゅから、本当はナツちゃんのことも抱っこしたいんでしゅ。でもねー……」


「…………」にたぁ


「わっち……ナツちゃんの笑顔が怖くて仕方がないんでしゅよ……。なんよいうか、こう……圧倒的強者に狙われているような気がしゅるというか……」


「そうですかね?……あの、アメさん?ナツちゃんのこと、抱っこしても良いですか?」


「食わなければの?」


「もちろん、食べないです」


「仕方ないのう。ほれ」ひょい


「ほらおいでー?ナツちゃん」

 

「ん゛まー」がぶぅ


「?!」


 そして差し出した手を、再びナツに噛みつかれるアオ。


「なんじゃ?お主も童の抱き方が分からんのかの?」


「抱きかたというか……なんというか……。ナツちゃん、私のことが嫌いなんでしょうか?」


「だから言ったではないでしゅかー。ナツちゃんは狂暴だって。ナツちゃんを扱うときは、最善の注意を払うべきでしゅよ?」


「えぇ、そのようですね……。私……抱っこするの、諦めませんから!」バチバチ


「んまんまー」バチバチ


 そして、火花を散らすかのように、笑みを浮かべながらも睨みあう2人。こうして彼女たちの戦い(?)の日々が始まったのである。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 39/91 ・ナツちゃんの噛む力って強いのか? という疑問のもと軽くググって来ました。 ワニとシャチが超強いらしいですね。
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