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テンキュウノアメ  作者: ルシア=A.E.
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1.5.5 忠告されて、愕然として

「ほぉ……」

「ふーん……」

「へぇ……」

「んまー」


 森を抜けて、畑の間を進み、そしていよいよ町の入り口へとやって来たアメたち一行。そこでは、これまで彼女たちが見たこともないような数の人々が行き来していたようである。


「……はっ!そうでした。こうした大きな集落の中を歩く前に、2人に言っておかなければならないことがあるでしゅ!」


「む?どうしたというのじゃ?急に……」


「何か必要なものでもあるんですか?」


 これまでほとんど人と関わって来なかったせいか、町に入るために何か必要なものがあるのか、と身構えてしまうアメとアオ。アメは狐なのでともかくとして、アオも人の多い所へはやってきた経験が無かったようだ。


 そんな彼女たちを前に、シロが説明を始めた。


「良いでしゅか?こういった人の多い場所を歩くときは、いくつか決まりごとがあるでしゅ。それを守らないと、田舎者扱いされて馬鹿にされるでしゅから、注意してくだしゃい」


「「はあ……」」

「んま」


「まずは……珍しいものが沢山あるからといって、ジロジロと辺りを見回さないことでしゅ。それだけで、自分が田舎者でしゅよー、って言っているようなものでしゅからね」


「ふむ……」

「そうですか……」

「んま……」


「それと……これほど大きな集落では、おそらく”市”というものが開かれているはずでしゅ。この集落だけで無く、周辺の村などからも人が集まって、畑で取れたものや珍しいものを、お互いに交換し合う——そんな催し物を”市”と言うでしゅ」


「それは楽しみじゃのう?」


「それが問題なのでしゅ!アメしゃん。何も知らずに近づいたら、いらないものまで売りつけられたり、まがい物をあたかもホンモノかのようにして押しつけられたりするでしゅよ?相手が知らない人だった場合は、常に相手を疑って接するべきでしゅ。商人たちは、わっちたちのことを、ネギを背負ってきた鶴だと思っているに違いないでしゅからねー」


「なんかお主……随分とくわしいのう?」

「そうですね……まるで見てきたことがあるみたいというか……」

「んまんま」


「それはでしゅね……ふふ……ふふふふふ……」カタカタカタ


 と、自身に対して感心したような視線を向けてくる3人(?)の様子を見て、いつも通りに怪しげな笑みを浮かべるシロ。

 

 そんな彼女が何を言わんとしていたのか察したアメたちは、彼女が再び話し始める前に、その先の言葉を予想してこう言った。


「差し詰め主は……こことは異なる別の場所にある大きな集落に行ったことがあって、実際に痛い目にあったことがある、というわけじゃな?」


「んぐっ?!」


「ということは、実際に田舎者扱いされたんですね……。かわいそうに……」


「ぐぬっ?!」


「…………」にたぁ


「うぅっ?!そ、そうでしゅよ……。確かにその通りでしゅ。でもそのときのわっちの経験と痛みが、皆しゃんのことを助けてくれるんでしゅ。感謝してくだしゃい!」


「なるほど……これが押し売りというやつじゃな?」

「さすがはシロさんです。言葉に説得力があります」

「んまー」


「んがっ?!……と、ともかくでしゅ!この先は、たくさんの人がいる以上、注意して進むようにしてくだしゃい。良い人もいれば、悪い人もいるので、いつ何時、こちらが食い物にされるとも限りましぇんからね」


「ふむ……人の世界では、やり取りを間違えると、食われてしまうのじゃな……。肝に銘じておこう」


「そうですね……。ちなみに、この町では泊まっていくんですか?」


「む?泊まるじゃと?」

「わっちたちに宿なんて必要ないでしゅよ?」

「んま?」


「えっと……気になさらないで下さい(そういえば皆さん、人ではなかったですね……)」


 と、自分がどんな者たちと共に行動しているのかを失念していた様子のアオ。これまで人として生きてきた彼女にとっては、遠出をすれば宿に泊まることが当たり前のことだったようである。尤も、彼女がこれまで宿に泊まった経験があるかどうかは不明だが。


 そんなアオの事情を察したのか……。彼女に対し、シロがこんな質問を投げかけた。


「そういえばアオしゃん。山ではどうやって生活してたでしゅか?お家があったでしゅか?」


「えぇ。村にあるような木の家ではなくて、少し大きな洞窟に住んでました。年中、涼しいですから、すごく過ごしやすいんですよ」


「そうでしたか……。でも、良いんでしゅか?わっちたちに付いて旅をしゅるとなると、しばらくお家には帰れなくなりましゅよ?わっちたちは、家などあって無いようなものなので、あまり気にならないでしゅけど、アオしゃんの場合は、そうも言っていられないんじゃないでしゅか?」


「実はですね……私には特技がありまして——」


 アオはそう口にすると、2人——いや3人の想像を超えた行動に出た。


「——姿を消せば、実のところ、家とかいらないんですよ」ブゥン


「「「…………」」」


 その様子を見て固まる3人。赤子であるナツですら、”リアルいないないばー”を前に、どう反応していいのか分からなくなってしまったようだ。

 

「ふ、ふむ……便利そうじゃのう……」


「そ、そうでしゅね……」


「ん、んま……」


「ただ、あまり長い間、姿を消していると、自分の姿が分からなくなって、元に戻れなくなりそうになるんですけどね」ブゥン


「「「…………」」」


「どうしたんです?皆さん。そんな青い顔をして……」


 と、自身の姿を見て、なんとも表現しがたい表情を浮かべていたアメたちを前に、首を傾げるアオ。


 なお、そんなアオの行動を見たアメたちが、彼女に対し何を思ったのかについては——不明である。


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