1.5.3 炎を出して、それを握って
「……アメしゃん。それすっごく熱そうに見えるんでしゅけど……」
「熱っ……くはないのう?」
「すごいですね?アメさん。水だけでなくて炎も操れるなんて……さすがです。ちなみに、”力”で作り出した現象というのは、実際のものとは異なる場合があります。特に、細部までしっかりと想像せずに力を行使すると、半端な現象で終わってしまうことが多いようです。まぁ、それこそ、訓練あるのみなんですけどね。今回の場合だと……アメさんは、炎の熱まで想像しなかったのではないですか?」
「うむ。炎の中に入ったことはないゆえ、炎の熱がどんなものか、分からんかったからのう」
と、アオの指摘を聞いて、どこか納得げな反応を見せながら答えるアメ。
するとそんな時——
「んまんま」
——彼女の”力”に興味が湧いたのか、ナツがアメの背中で騒ぎ始めたようだ。
「む?ナツも近くで見たいかの?……ほれ」
「んま!」ガシッ
「「?!」」
背負っていたナツにもよく見えるようにと、彼女の前に手のひらの上で輝いていた炎を近づけたアメ。
それを見たナツは、何を思ったのか、その炎を手で握りしめてしまった。
しかし、アメが作り出した炎は、やはり、熱くなかったらしく、ナツが手で触れても、彼女の手が焼けるような事は無かったようだ。
その様子を見ていたシロが、微妙そうな表情を浮かべながら、感想を口にする。
「一瞬だけ、心配しちゃいましたけど、その炎って本当に熱くないみたいでしゅね?でも、アメしゃん。それって、何に使えましゅかね?火を付けられるわけでもないでしゅし……」
「ふむ……じゃがまぁ、暗いところで提灯代わりに使うなら、十分ではなかろうかの?それに、シロのことを驚すにも仕えそうじゃし……」にやり
「…………」にたぁ
「うぅっ?!こ、この2人、間違いなく、親子でしゅ……」
「む?急に何を言い出す……。ナツは、ワシの大切な非常食じゃ」
「んまんま」
「えぇ、それは、よーく分かっているでしゅ。アメしゃん語でしゅね?」
「……やっぱりお主、分かっておらぬじゃろ?」
そう言って、不機嫌そうに眉を顰めてから、手の中の炎を消し去るアメ。
それからアメは背負っていたナツを胸の前に持ってきて、歩きを止めることなく、彼女のことをあやし始めた。
すると今度は、アオがアメの元へと近寄ってくる。どうやら彼女は、ナツのことを構いに近づいてきたらしい。
「ナツちゃん、かわいいですねー?」ちょん
「…………」がぶぅ
「?!」
ナツの鼻を突こうとして差し出されたアオの指先。そんな彼女の指がどうなってしまったのかは、敢えて言うまでも無いだろう。……なお、千切れてはいない。
「これ、アオよ。ナツは、見た目によらず、凶暴な生き物ゆえ、不用意に手を出したりしてはならぬ。シロがその辺をよく分かっておるから、主も見習うが良い」
「アオしゃん、気をつけないとダメでしゅよ?気を抜いていたら、指どころか、いつか腕ごと持っていかれるに違いないでしゅからね?」
「腕はさすがに言い過ぎだとは思いますけど……でも、無いとも言い切れないかも……。この子、本当に、人間の赤ちゃんですよね?実は人の皮を被った狐さんだったりしないですよね?」
「うむ。人の村で拾ったゆえ、ほぼ間違いなく人間じゃろう。じゃが……いつか、こやつが大きくなって、万が一にも、ワシらみたいに長生きすれば——あるいは、狐の姿に化けられるようになるかも知れぬのう?まぁ、わざわざ、狐に化ける意味があるかは分からんがの?」
そう言って、自身の頬を、ナツの顔へと寄せるアメ。それはスキンシップなのか、あるいはマーキングなのかは不明だが……。少なくとも、ナツには、アメの匂いが染みついていたようだ。
「見た目は、しゅごく仲の良い、母子のように見えるんでしゅけどねー……」
「でも……あれで、ナツちゃん、非常食なんですよね?」
「そうでしゅ。……でもね?アオしゃん。わっちは、アメしゃんの言葉を、額面通りに受け入れてはいけないと思っているでしゅ(ここだけの話、アメしゃん素直じゃないでしゅから)。この2週間、アメしゃんやナツしゃんと旅をしてきて、それがよく分かったでしゅ」
「えっと……もしかしてですけど、シロさんって……アメさんと出会ってから、まだ2週間しか経ってないのですか?もっと長い間、同行していたように感じられたのですが……」
「え?そうでしゅよ?まだ2週間しか経っていないのに、アメしゃんと寝食を共にしてるでしゅ!うらやまでしゅか?うらやんでもいいんでしゅよ?ふふ……ふふふふふ……」カタカタカタ
「……アメさん。シロさんって……変わった方なんですね?それもすごく……」
「うむ。人付き合いというものが最近まで無かったワシでも分かるのじゃ。……こやつの頭は、間違いなくおかしい、と」
そう言って、今も怪しげな笑みを浮かべつつ、小刻みに震え続けていたシロに向かってジト眼を向けるアメとアオ。
彼女たちがそんなやり取りをしながら歩いていると、3人は、まもなくして、見晴らしの良い場所に出た。ようやく峠を乗り越えて、平地へとやってきたのである。
そこには——
「……見渡す限りの森のう……」
——以前、シロが言っていた通り、広大な森が広がっていたようだ。
ただし……。
アメが思っていたほどではなかったようだが。
この時間になると、すっごく眠くなるんですよね……。
よく言えば、寝付きが良いとも言えるんですけど……どうにかならないかなぁ……zzz。




