表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テンキュウノアメ  作者: ルシア=A.E.
33/96

1.5.1 付きまとわれて、受け入れて

 彼女は狐。赤子を守りし獣の類い。人ならざる者たちと行く彼女の旅路は、未だその終わりを見せず。次なる地は、人の住まう地。魑魅魍魎の跋扈する世界なり。

「~~~♪」


「……どうしてこうなったのじゃ?」


「まぁ、良いではないでしゅか。旅の仲間は、たくしゃんいた方が人っぽいでしゅし……」


「んまんま!」


 女だけ(?)で行く旅路。そこ新しいメンバーとして、アオが加わることになったようである。

 

 そんな彼女は、アメたちに、同行の許可を貰ったわけではなかった。2人のことを先回りして待っていて、そして、さもそれが当然であるかのように、勝手について来ただけである。

 それは、アメたちが、アオのことを、積極的に追い払おうとしなかったことも大きな原因だったが……。しかし、それはある意味で、アメたち2人の返答のようなものだったのかもしれない。――もしもアオの同行が本当に認められないというのなら、無理に同行しようとした時点で、彼女は大きな狐に食べられていたはずなのだから……。


「そういえば、シロよ。間もなく、山道が終わると言うておったかの?」


「はいでしゅ。あと何個か小山を越えると、ずーっと先まで広がる森に出るでしゅよ?ちなみに……アメしゃんはこの地方に来たことはあるでしゅか?」


「あるわけ無いじゃろ。何しろ、ワシはずっと、(あるじ)の側にいたのじゃからのう」


「……えっ?」


 と、狐であるアメに"主がいた"という話をはじめて聞いたせいか、目を丸くして固まってしまうシロ。どうやら彼女にとって、アメのその発言は、聞き捨てならないものだったようである。


 それとはまた異なる反応だが、旅の新入りであるアオも、アメの発言には、興味があったようだ。


「へぇー、アメさん、旦那様がいたのですねー?」


「だん……な……?」がくぜん


「む?いや、ワシは生まれてこのかた、ずっと独り身じゃが?」


「そ、そうでしゅか……そうでしゅよね……安心したでしゅ!」ほっ


「なんじゃ?お主……。ワシが独り身でおったことに安堵しておるようじゃが……もしやバカにしておるのではなかろうな?」ゴゴゴゴゴ


「ち、違うでしゅ!えっと……わっちには色々あるでしゅ!」


 何がどう色々あるのかは不明だが、真っ赤な顔をしながら、誤魔化そうとするシロ。


 一方、未だアメから返答を聞けていなかったアオは、再びアメに対して問いかけた。


「じゃぁ、旦那様ではなくて何なのですか?その……主さんという方は……」


「"主"は……ワシの母のような存在じゃ。小さな頃から、ずっとワシのことを育ててくれたからのう……。まぁ、"育ての親"と言っても良いかもしれぬ」


「そうなんですか……ちなみに、主さんって……人ではないですよね?狐さんですか?」


「いや、水溜まりじゃが?」


 その返答を聞いてからややあって――

 

「「…………はい?」」


――と、口にして同時に首をかしげるシロとアオ。いったい何をどうすれば、水溜まりに育てられることになるのか――いや、水溜まりがアメを育てられるというのか、2人には想像すらできなかったようだ。

 とはいえ……。アメの言葉は誰にも理解されなかった、というわけではなかったようである。


「お主は分かるじゃろ?ナツよ」


「んまんま!」


「うむ。ナツはワシと同郷じゃからのう」


「それなのにアメしゃん、ナツしゃんのことを非常食にしてるんでしゅよね?」


「それとこれと、話は別じゃからのう。あ、そうそう。言っておらんかったが、"主"は今もここにおるのじゃ?まさか付いてくるとは思っておらんかったがのう……。のう?"主"よ!」


 その瞬間――


ドシャァ!


――と、土砂降りの雨が降り始める周辺一帯。それも、雲一つ無い晴天の下で……。

 その結果、旅仲間2人は、確信した。


「……アメしゃん。雨女なんかじゃなくて、何か良からぬものに憑かれていたでしゅね……」


「これが……アメさんの力なんですね」ぽっ


「は?」


「わっち、こう見えても、除霊術には長けてるという自負があるでしゅ!何でしたら、お払いしゅるでしゅよ?」


「私以外にも天候が操れる方と出会えるなんて……」


 と、そこに生えていたフキを引き抜いて、それを傘代わりに使いながら、口々に異なる内容の話を喋るシロとアオ。

 

 そんな二人の言葉を、辛うじて把握できていたアメは、シロに向かって、こんなことを口にした。


「シロよ。お主がどんな力を持っておるのかは、ワシにはよく分からぬが……"主"はワシの親のような存在ゆえ、ワシ()から"主"を引き剥がす必要は無いぞ?じゃがのう、せっかくじゃから、お主の力を見てみようと思うのじゃ。……ほれ、そこにおるじゃろ?霊と似たような者が……」


「……えっ?私ですか?」


「いや、アメしゃん。アオしゃんは、確かに、気配が薄くて、顔色が白くて、ふわふわと浮いてましゅけど、幽霊ではありましぇんよ?あまり変なことを言うと、失礼でしゅ」


「……まぁ、ワシも、人の言う幽霊と言うものを見たことがないゆえ、よく分からんが……大体、こんな感じの特徴じゃ、という話を聞いたような気がするのじゃ」


「もう、アメさんたら……。私は人間ですって!」


「「…………」」


 アオの"人間発言"を聞いて、微妙そうな表情を浮かべるアメとシロ。やはり二人とも、アオは人ではない、と認識していたらしい。

 それが分かっていたのか、アオは頬を膨らませて抗議しようとしていたようである。それでも、彼女に、昨日のような攻撃的な色が無かったのは、彼女なりの整理が、心の中で付いていたためか……。


 そんな彼女が本気で怒りだす前に、アメは話題を変えることにしたようだ。

 昨日の夜、アオはどうやって風雪を操っていたのか……。アメにはそれが気になって仕方なかったようである。



なお、アメ以外は雨女では無い模様、なのじゃ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ