1.4.11 後悔して、追いかけて
「…………」ぐったり
「……アメしゃん、どうしてアオしゃんのことを生かしたのでしゅか?」
焚き火を着けた結果、見えてきたアオの無惨な姿。彼女は、ギットリとした透明な液体に包まれていて……。力無くその場に倒れ込んでいたようである。
そして何より特筆すべきことは、彼女が未だ生きていたことだろう。弱肉強食の世界において、強き者に逆らったなら、本来は死しか訪れないはずなのに、それでも彼女は生きていたのである。
そのルールをよく知っていたシロには、アメがアオのことを殺さなかった理由が分からず、彼女は思わずその理由をアメに問いかけてしまったようだ。
それに対し、アメは、さも当然であるかのように、こう返答する。
「お主は、食っても美味くない生き物が、こちらに牙を向いてきた程度のことで、命を刈り取るのかの?それに、ここにもおるじゃろ?先程まで、お主のことを喰らおうとしておった獣が!」
「…………」にたぁ
「うぅっ?!……つ、つまり、アメしゃんは、アオしゃんとナツちゃんのことを、同じようなものだと考えているのでしゅか?」
「それは間違いじゃ。両方とも幼子であることに違いは無いが、ナツは美味い肉で、アオは美味くない肉じゃ。この2者を、同じものとして扱うわけがなかろう?」
「そうでしゅか……。つまり、味で決めてるんでしゅね…………ん?幼子?」
「食うか食われるか、食えるか食えぬか……。世の中のすべては、ただその二択だけじゃ。ちなみにお主は……食えぬ!」
「……その理由はあまり聞きたくないので、言わないでくだしゃいね?こっちで、都合の良いように、解釈するでしゅ」
これまでアメに言われた言葉の数々を思い出しつつ、浮かびがって来たその発言の数々を、頭の中で美化していくシロ。そんな彼女は、"超"が付くほど、ポジティブシンキングであるに違いない。
アメたちが焚き火を囲みながら、そんな不毛なやり取りを交わしていると――
「……う、うぅん……あ、あれっ?」
――アオが意識を取り戻したらしく、目を開いたようだ。
その結果、アメとシロは、アオに対し、警戒したような視線を向けるのだが……。幸いなことに、一旦戦意を消失したアオは、再び、彼女たちへと、敵意を向けるようなことは無かったようだ。
とはいえ――
「…………」
――口にすべき言葉も見つからなかったようだが。
それを察したのか、アメの方から問いかける。
「ふむ……。意識を取り戻したようじゃのう?アオよ。具合はどうじゃ?」
「……どうして、私を殺さなかったのですか?」
「なんじゃ?お主もシロと同じ事を申すのか。……食うか食われるかの世界で、食えぬものの命をいたずらに刈り取って、何かワシに利点はあるのかの?放っておけば、命を育み、美味い肉を産み出していくかもしれぬというのに……。それに、ワシには、生ける者の命を無意味に刈るような趣味は無いのじゃ。そんなに死にたいのなら、ワシらになんぞ喧嘩を売るのではのうて、熊か何かに売るがいい。その後で、ワシらが弱った熊を襲って、鍋とやらにして食べるからのう」
そんな説教にも似たアメの言葉を聞いたアオは――
「……どうして私……あんなことを……」
――自分の行動を心底後悔したような様子で、目を閉じてしまった。そして、彼女は、そのまま再び、意識を手放してしまったようである。
◇
そして、次の日の朝。
「アメしゃん?アオしゃんのこと……あそこに置いてきて、本当によかったんでしゅか?」
「……それ、昨日も聞いたぞ?」
「昨日は昨日、今日は今日でしゅ。昨日と今日では、まるで事情が異なるではないでしゅか……」
そんなやり取りをしながら、獣道と交差していた街道へと出て、そこを西へと向かって歩く、人の姿のアメとシロ。ここまで来たなら、追っ手もやってこないだろう、という事で、彼女たちは歩きやすい道を進むことにしたようである。
そのせいか、今日はシロの姿もそこにあって……。彼女は今日も、昨日と同じ質問を、アメに向かって、ぶつけていたようだ。
それに対し、アメは適当に事情を考えて、返答を始めた。
「そうじゃのう……。確かに今日は暖かで、この雰囲気じゃと、まだしばらく、冬はやって来んように感じるが……夏が来んかったことはあっても、冬が来んかったことは、ワシの生きておる間では、一度も無かったのじゃ。おそらく今年も間もなく冬が来るじゃろう。気を抜いてたら、冬に追い付かれるゆえ、アオにかまけておる暇はなかった、と言えばお主は納得するかの?」
「……本当にそう考えてるでしゅか?」
「なんじゃ?ワシの言葉が信じられぬと申すか?ふむ……ならば仕方ないのう。今日からまた一人で寝るが良い」
「ごめんなしゃい!ごめんなしゃい!疑ったりしたわっちが悪かったでしゅ!でしゅから、一緒に寝させてくだしゃい……!」ぐしゅ
と、シロがヘッドバンキングをしながら、アメの後ろを付いて歩いていると――
「……む?」
「……ん?」
――2人の目に、何やら人の姿が見えてきたようだ。それも、反対側から歩いてきたのではなく、まるでそこで誰かを待っていたかのような人物が……。
そんな"彼女"が待っていたのは――
「アメさーん!シロさーん!もう、遅いですよ!」しれっ
――アメとシロ(とナツ)のことだったようである。
完!
……と書きたいところではあるのじゃが、いかんせん、"完"という言葉とは無縁でのう……。
これはもう、性格的なものかもしれぬ。
まぁそれはさておいて。
いつも通り煮えきらぬ感じで、1.4章はここでお仕舞いなのじゃ。
明日からは1.5章なのじゃが……どうしたものかのう……。
あまり、あの場で長居させると、話が長くなるしのう……。
まぁ、書くだけ書こうと思うのじゃ。




