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テンキュウノアメ  作者: ルシア=A.E.
30/96

1.4.9 温めさせて、後悔して

少し前の話で、『父』と『母』がごちゃ混ぜになっていたので、すべて『母』に統合しました。


「アオ……しゃん?」


「お主……なぜここに……」


 一応、月の光はあったものの、ほぼ真っ暗な山の中を、一切の明かりを使わずに、アメたちの所へとやって来たアオ。そんな彼女からは、やはり気配と呼べるものが一切出ておらず……。明かりがあって直接目視しなければ気づかないほど、その存在は希薄だった。足元の枯れ葉と雪は、その上を歩くだけで、決して小さくない音が鳴るはずなのに、彼女はまったく音を立てずに、ここまでやって来たらしい。

 そうなると、彼女が移動してきた方法は、一つしか無いと言えるだろう。


「まさか、お主……ここまで宙を飛んで来おったのか?!」


 良く見ると今なお、地面から少し浮いていたアオの姿に気づいて、驚愕するアメ狐。シロも、その言葉を聞いて初めて気付いたのか、アオの足元を見て、目を見開いていたようだ。

 

 そんな2人の視線の先にいたアオは、暗闇の中、長い前髪に隠れて表情が見えなかったものの……。唯一見えていたその口元を釣り上げると、2人に向かってこう言った。


「私は――人間ですか?」


 人間らしい気配がせず、宙を浮いて移動し、最低でも200年は生きているらしいアオ……。そんな人物が人間かどうかは、あえて考える必要もないほど、明らかなことだった。その上、彼女は一度、アメたちに人間であることを信じてもらえず、そして本人も、『自分の正体が分からない』と口にしていたのである。

 それにもかかわらず、アオは、自身が人間かどうか、アメたちに問いかけたのだ。それも、わざわざ、ここまで追いかけてきて……。


 アメはそんな不可解な行動と発言をするアオに対し、細めたその目を向けながら返答する。ただし、人ではない自分の視点から見て。


「そうじゃのう……お主の場合とりあえず、地面に足を付いて歩いて、気温に合わせた服を着るようにして、夜は雪の上で寝ないようにして……あと、シロみたいに臭いくなれば、人間と同じになるのではなかろうかの?」


「ちょっ?!アメしゃん?!わっち、そんなに臭いでしゅか?!」くんくん


「なーに。いまさら気にすることではないじゃろ。それで、アオよ。ワシには一つ、分からぬことがある。お主はなぜ……そこまでして、人になんぞなりたいと思うのじゃ?」


 アオの問いかけに対するアメの答えは、否だった。直接的な言葉ではなかったものの、やはりアメには、アオのことが、人間には見えなかったようである。

 そして、それと同時に、彼女は思ったようだ。――世の中は、人の数などよりも、もっと多くの生物で溢れているというのに、なぜ、わざわざ、人になりたいのか、と。

 

 そのアメの疑問に対し、今度はアオが答える。そんな彼女の表情には、直前までの不敵な笑みは残っていなかったようだ。

 

「……母が言っていました。お前は人だ、と。でも、母以外に私のこと人間だと認めてくれた者はいない……。なら、母は嘘を言っていたのでしょうか?」


「「…………」」


「私は……人間です。私のことを人でないと否定する者は――母のことをを否定したも同義……」


「お主、一体何を言って……」


 アオの中で、勝手にネガティブな方へと思考が進んでいくことを察して、目を細めるアメ狐。

 そうこうしているうちに、これまで気配が無かったはずのアオから、異様な気配が()()出てくる。


「――ユルサナイ」


ゴゴゴゴゴ……


 それは、冷気。地吹雪などとは比べ物にならないほどの冷たい風が、アオの身体から吹き出してきたのだ。


「っ?!」


 その冷たい風を顔に浴びて、思わず息が出来なくなってしまうアメ狐。そしてシロの方は、人の姿を維持できなくなったのか、元の鶴の姿に戻ってしまったようだ。


「あ、アメしゃん?!大丈夫でしゅか?!」


「ワシは大丈夫じゃが、このままでは拙いかもしれぬ!」


「ど、どうしゅるでしゅ?!まさかアオしゃんが、こんなことをするなんて……」


「……仕方あるまい。シロよ!ワシがどうにかするゆえ、その間、お主がナツを温めておれ!」


「ふえっ?!わっちが?!」


 と、シロがあたふたしている間にも、その場から立ち上がるアメ狐。その結果、そこに、アメによって守られていたナツの姿が現れた。そう、シロが苦手とするナツの姿が……。


「くっ……!悩んでる時間は無いでしゅ!」


 自分の中で覚悟を決めて……。未だ眠っていたナツの身体の上に移動し、そしてそこで腰を下ろすシロ鶴。そして彼女は、ナツのことを抱卵するかのように、温め始めたようだ。


「……ん?これはこれで、アリかもしれましぇんね……。アメしゃんから赤子を託されて守る……ふふ……ふふふふふ……」カタカタカタ


「(……やはり、下策じゃったやもしれん……)」


 ナツを抱えてからというもの、何故か小刻みに震え始めたシロ鶴の方を振り向き、彼女に向かって怪訝そうな視線を送るアメ狐。

 

 しかし、いつまでも彼女に構っている訳にもいかず……。アメは、さっさと事態を終わらせて、ナツを取り戻すべく、アオの前へと進んで、そして声を上げた。


「ワシらには、お主やお主の母君を害するつもりなど毛頭無い!すぐにその奇妙な術を止めよ!」


 それに対し――


「……ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイ!!」


ドゴォォォォォ!!


――言葉ではなく、冷気の強さをもって返答するアオ。


 どうやら、アメたちとアオとの間に出来てしまった深い溝は、言葉だけで乗り越えられるものではなさそうである。


アオさんのこと……どうしようかなぁ……。

このあとがきを書いてる時点で、どうするのかまったく決まってないんですよねー。

他の話との整合性を考えると……んー……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 30/89 ・「んまんま」がぶぅ ・雪女……ユキから数えて7人目ですねw ・言っては何だが、寒いって、迷惑ですね。 [一言] 個人的には『雪女』って人間カテゴリーなんですよ。(なろう…
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