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テンキュウノアメ  作者: ルシア=A.E.
23/96

1.4.2 秋に包まれて、行く手を塞がれて

「んまんまんま~」ゆらゆら


「お主は本当にワシの背中が好きなのじゃのう?」


「んまっ!」


 村人との一件があったために、念のため人に見つからないようにと、街道から逸れて、険しい獣道を進むアメとナツ。そこでナツは、アメ狐の背中でゆらゆらと揺られながら、嬉しそうに歌を歌っていた(?)ようである。もしかすると、彼女にとってのアメ狐とは、スリリングな乗り物のようなもの、なのかもしれない。

 

 ちなみにそこにシロの姿はなかった。とはいえ、気色が悪いからと言って、アメが彼女のことを道案内役から外した訳ではなく……。元が鶴であるシロには、あえて険しい山道を歩く理由が無かったので、空を飛んで先回りして、今日の野営予定地点周辺の川へと向かったのだ。そこで彼女は、新鮮な魚と山菜を確保して、朝から夕げの準備をするのだとか。


「楽しみじゃのう?ナツよ。今日の夕飯には、どのようなものが出るのかのう?」


「んまぁ」だらぁ


「うむ。想像しただけで、ワシも涎が出てくるのじゃ」だらぁ


 といったやり取りをしながら、お互い涎まみれな様子で、山道を進んでいくアメ狐とナツ。

 

 そんな彼女たちが歩いていたのは、断崖絶壁に近い森の中の獣道だった。一歩でも踏み外せば、谷底行き直行が約束されている――そんな険しい道である。

 しかし、生まれながらにして、4駆なアメには、例え背中に重い荷物を積んでいようとも、まったく関係のない話で……。彼女は危なげない足取りで、細道を歩きながら、目的地へと向かって着々と進んでいった。


 そんな路程の中。アメはあるものに気がついたようだ。

  

「……む?ほれ、ナツよ。お主、これ食うたことはあるか?」


「んま?」


「うむ。その木の実じゃ。一つ取って食うてみるが良い」


「んまんま」ばくっ

 

 と、獣道沿いに生えていた親指の先ほどの大きさをした緑色の木の実に、手を使わずに直接かじりつくナツ。

 その実の味は――

 

「んまんま!」むしゃむしゃ


――どうやらナツの口に合ったらしい。


「ふむ。気に入ったかの?ワシもこの実は大好きじゃ。この季節しか食べれぬご馳走じゃ。甘いし、種ごと食えるし、なにより美味いからのう」バクッ


「んま!」むしゃ


 それからも、暫くの間、獣道沿いにあった甘い実を、口の中へと放り込んでいくアメとナツ。


 そんな彼女たちがいた標高は、山の麓に比べればかなり寒かったものの……。幸いなことに、未だ秋が居座っており、周囲の景色は黄色と赤色、そして抜けるような深い青によって、鮮やかに彩られていた。

 さらに言えば、朝方に感じられたような寒さも、昼間になるといくぶん和らぎ、小春日和と言えるような空気が、その場に漂っていたようである。

 そのせいか、ナツに寒がる様子はなく……。彼女は嬉しそうに、そして美味しそうに、木の実を頬張っていたようだ。


「……おっと。ナツよ。いつまでも道草を食っておらんで、早よう行かねば」

 

「んまんま」


「うむ。夜になる前までに目的の場所へ付かねば、シロの作った飯が冷えてしまうからのう」


「んまぁ?」


「……お主、まさかワシが、時間までに目的地へとたどり着けないとでも思うておるのかの?」


「んまっ!」


「ふっ……ワシを舐めるでない!お主に、電光石火というものを教えてやるのじゃ!」ズサッ


「きゃっきゃ!」


 そして、険しい獣道を、全力に近い速度で走り始めるアメ狐。

 その背中いたナツは、必死な様子で彼女の背中にしがみついていたようだが、絶えず嬉しそうな声を上げていたところを見ると、やはりナツはアメのことを、楽しい乗り物のように捉えていたのかもしれない。



 それから順調に進み、標高が上がってくると——


「んまー……」ぶるっ


——さすがに寒くなってきたのか、アメの背中にいたナツが、小さく震え始めた。


「……寒いかの?本当は、このまま走りに抜けたいところじゃが……少し速度を下げるかの」


 それを感じ取ったアメは、減速することにしたようである。速度を下げれば、ナツに当たる風が、少しでも和らぐと考えたようだ。


「ここはおそらく、今日の道のりの中でも一番高い場所じゃろう。これを超えれば、後は気温が上がっていくはずゆえ、もうしばし辛抱するのじゃぞ?」


「んま!」


「うむ」


 そんなやり取り(?)を交わしつつ、獣道を進んでいく2人。


 それからまもなくして、アメの目に、とある物体が飛び込んできた。


「……岩じゃ。岩がある」


「んま」


「大きな岩が道を塞いでおるようじゃ」


 崖のような場所にあった獣道を塞ぐように、大きな落石が鎮座していたのである。それはつい最近、落下してきたもののようで、付近には倒れて間もない木々が散乱していた。


「昨日の熊がやったのかの?」


「んまぁ?」


「まぁよいか。しかし……これを乗り越えるわけにはいかなそうじゃのう。上か下か、どちらかから回り込まねば……」


「んまんま」


「いずれにしても回り道になるゆえ、ワシとしてはどちらでも構わぬが……お主はどちらから行くのが良い?」


「んー……んま!」


 そう言って(?)空を見上げるナツ。それは果たして返答なのか、あるいは別の何かに興味が移っただけなのか、アメには判断が付けられなかったが——


「ふむ……。では、少々寒くなるやもしれぬが、覚悟するのじゃぞ?」


「んま!」


——それをナツの判断だと受け取って、より高い場所に続いている獣道から迂回して、大きな岩を乗り越えることにしたようだ。



この話を校正しておったら、空腹に苛まれてきたのじゃ……。

もうダメかもしれぬ……。


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