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テンキュウノアメ  作者: ルシア=A.E.
22/96

1.4.1 飲んで、飲んで

 彼女は狐。熊を恐れぬ獣の類い。彼女が次に向かうは、雲より高き峠道。そこで出会うは、避けがたき冬の使者か、あるいは未だ居座る秋の色か。

 朝方の、とある森の中。

 

 そこには美味しそうなあさげの匂いが漂っていたようだ。ただし、そこにいて、朝食を摂っていた人物が、食事を美味しそうに食べていたかどうかは、また別の話だが。

 

「さ、寒いでしゅ……。人の姿というのは、毛がなくて……本当に寒いでしゅ……」ガクガク


「いや、お主……鶴になっても、頭に毛は生えておらぬじゃろ……」


「んまんま」


 昨日いた場所からさらに進み、その晩は峠の手前で夜営したアメたち3人。山の夜は冷えるので、3人ともが、村で貰った毛皮の防寒着を着ていたものの……。どういうわけか、シロだけは、寒くて仕方なかったようである。

 それにはこんな理由があったようだ。


「わっちも……アメしゃんに……温めてもらいたいでしゅ……」げっそり


 ……ようするに。

 アメはナツのことを温めながら寝ていたものの、シロは近づくことすら許されず……。彼女は一人離れて寂しそうに寝たのである。

 そのせいで彼女は、身体も心も、冷えきってしまっていたらしい。


「わっちのことを温めてくれるのは、このドジョウのお吸い物だけでしゅ……」ずずずずず


 と、昨晩のうちに近くの小川で捕獲しておいた小魚入りスープを啜るシロ。

 

 そんな彼女がすり寄ってくるのを、ナツを使って巧みに防いでいたアメだったが、シロの作るその具だくさんなスープだけは大歓迎だったようだ。


「確かに、この吸い物を飲むと、身体の芯から温まってくる気がするのう……」


「んま?」


「お主もこれが飲みたいか?じゃが、もう暫く辛抱するのじゃ。今のままでは熱いゆえ、お主の口には合わぬじゃろうからのう。もう少し冷めるのを待つが良い」


「んま!」


 アメの言葉を理解しているのか、未だ湯気の立っていた鍋を、おとなしく眺めるナツ。

 

 そんな彼女のことを、鍋の反対側から眺めていたシロは、その様子を見て目を細めると……。感心したような表情を見せながら、こんなことを口にした。。


「それにしてもナツちゃん、すごく賢いでしゅよね?」


「まぁ、人間じゃからのう」


「それはそうなんでしゅけど……人間の赤子って、普通、ナツちゃんほどは賢くないと思いましゅよ?(わっちがアメしゃんに近づこうとすると、必ず阻止しようとしましゅし……)」


「…………」にたぁ


「うっ?!(考えが読まれてる?!)」


「ふむ……では、こやつは、人間ではないのかもしれぬのう」


「どこからどう見てもナツちゃんは、人間の赤子でしゅ……。ちなみにでしゅけど、アメしゃんはナツちゃんのことを、どこで拾ってきたでしゅか?」


「…………」


「……どうしたんでしゅか?急に黙って……」


「……お主はワシに面白いことを言えと申しておるのかの?」


「そんなわけないじゃないでしゅか……」


 と言いながらも、人が自分の子供に言う謳い文句、"橋の下から拾ってきた" を思い出すシロ。

 一方のアメも、それに近い話を聞いたことがあったためか、何か機転の効いたことを言いたかったようだが、しかしすぐには浮かんでこなかったらしく……。結局、彼女は、素直に話すことにしたようだ。

 

「ナツと(おう)たのは、燃える河の中じゃった……」


「……そういう冗談はいらないでしゅよ?」


「いや、冗談ではのうて、本当のことじゃ。こやつ、燃える河に飲まれて死にそうじゃったから、もったいないと思うて、ワシの非常食にすることにしたのじゃ。良い話じゃろ?泣いても良いのじゃぞ?」


「非常食、という言葉が無ければ、良い話かもしれましぇんね。まぁ、どちらにしても、わっちは燃える河と言うものを見たことがないでしゅから、アメしゃんの言葉を聞いても、現実離れしたおとぎ話のようにしか思えましぇんけどね……」


「まったくお主と言うやつは……。そういうことを言うておるから、寝るときに近寄らせんのじゃ……」


「ごめんなしゃい!ごめんなしゃい!もう言いましぇん!信じましゅから、近寄らせてくだしゃい……」ぐしゅ

 

 そう言って泣きながら平謝りを始めるシロ。どうやら彼女はそれほどまでに、温もり(?)というものに飢えていたようだ。


 しかし、そのことには、あまり触れたくなかったのか……。アメは、泣きじゃくるシロのことをスルーすると、誤魔化すように話題を変えて、再び口を開いた。


「それでのう、シロよ。今日はワシはこの山を、一気に越えようと考えておる。それについて、異論はないかの?」


「ぐしゅっ……はいでしゅ。ナツちゃんの体力を考えると、頂上付近で長居はできましぇんし、わっちもあんまり寒い場所で眠りたくないでしゅからね……」ちらっ


「ん?何じゃ?ナツならいつでも貸してやるぞ?」


「んまぁ」だらぁ


「うっ……ア、アメしゃん、そろそろナツちゃんにご飯を食べさせてあげても良いと思うでしゅよ?涎がしゅごいことになってましゅから……」


「おぉ、そうじゃった。ほれ、ナツよ?吸い物じゃ?飲めるかの?」


「んまんま」ずぞぞぞぞ


「うむ。良い飲みっぷりじゃ!早よう肥えるのじゃぞ?」


「んまっ!」ずぞぞぞぞ


「歯が無いのに、具までよく食べましゅね……まぁでも、ドジョウしゃんは柔らかくて美味しいでしゅからねー。わっちの大好物でしゅ!」


 そう言いながら、自身のお椀の中に残っていたスープを美味しそうに啜るシロ。


 それから朝食を終えた3人は、いよいよ峠道へと進むことにしたようである。

 ただし、人の姿ではなく、獣の姿で。



そのうちシロ殿とナツ殿がどんな見た目なのか描きたいものじゃのう……。

まぁ、アメは、別の話で描いたことがあるから良いじゃろ。



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