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テンキュウノアメ  作者: ルシア=A.E.
15/96

1.3.4 依頼を受けて、対処に悩んで

「お前さんたち、旅人かい?」


 アメとシロのことを家の中に連れ込んだのは、大柄でふくよかな女性だった。家の中にある道具などから推測するに、どうやら彼女は木こりらしい。

 そんな彼女の雰囲気としては既婚の女性で、子どもが何人かいそうな様子だった。だが、家の中には、子どもたちの気配も、旦那の気配も、感じられなかったようである。


「はいでしゅ。路銀が尽きてしまって、この村でひと稼ぎをしようかと考えていたでしゅ」


「ふーん。そっちの子連れの方もそうかい?」


「……うむ。ほとんどこやつに引っ張られて、付いてきたようなものじゃがの(ふぉぉぉ!ワシ、今、人と話をしておる!)」


「……アメしゃん、それ、本気で言ってるでしゅか?」


「まぁ、細かいことは気にするでない。して、お主。先ほどは随分と慌てておったようじゃが、何かあったのかのう?」

 

 と、急いで家の扉を締めた女性の行動を思い出しながら、そんな質問を投げ掛けるアメ。

 女性の行動を見る限り、彼女は家の外に、何か恐ろしいものがいるかのような行動を見せていた。しかし、アメがその気配を感じることはなく……。女性が一体何を恐れているのか、彼女は疑問に思っていたようだ。


 その質問に対して女性は、大きなため息を吐いてこう答えた。


「人喰い熊が出たんだよ。それでうちの村の連中が、かなりやられちまってねぇ……。今は、収穫の時期だっていうのに、皆、おっかなくて、家から出られなくなっちまってるんだよ。まったく、嫌になるねぇ……」


「熊のう……」

「熊しゃんでしゅか……」


 女性の口から"熊"という言葉を聞いてからというもの、複雑そうな表情を見せるアメとシロ。

 

 彼女たちにとっても、食物連鎖のヒエラルキーの頂点に位置する熊は、まさに天敵で、気配を感じたら、すぐに逃げるか隠れるかをしなければならない動物だった。そんな、熊が村の近くでたむろしていて、人々を襲って喰らっているという話を聞いて、2人とも心が穏やかではなかったらしい……。

 ……そういうことにしておこう。


「災難だったねぇ、お前さんたち。悪いことは言わないから、今、山を越えるのは()しといた方が良いさね」


「ふむ……(まぁ、顔を会わせねば、どうということはないがの)」

「そうでしゅか……(飛んで逃げれば、何てことはないでしゅけどね)」


 女性の話を右から左へと聞き流しながら、そんなことを考えるアメとシロ。

 そんな時だった。


「……!そうでしゅ!これでしゅ!」


 シロが何かを思い付いたらしい。

 それが何なのか、おおよその見当が付いたアメは、ジト目をシロへと向けながら、こう口にした。


「お主……まさかとは思うが、熊を退治しようなどとは考えておらぬじゃろうな?ワシはやらぬぞ?」


「……えっ?」


「お主、ワシを何じゃと思っておる……」


「そりゃぁもちろん……わっちのご主人様でしゅ?熊程度、一撃で葬りされると確信しているでしゅ!」

 

「…………」

 

「それにナツちゃんの防寒着を手っ取り早く手に入れるには、これしかないと思うでしゅけど?……村人しゃん?熊しゃんを退治したら、褒賞金は、たーんと貰えるでしゅか?」


「もしも熊を倒してくれりゃぁ、みんな大助かりだから、出んことは無いと思う。だけど、それを当てにするより、むしろ捕まえた熊を売った方が、金になると思うさね?もしかして、旅人さんたちは、狩人さんか何かい?」


「狩人……狩人のう……(ワシの主食は川魚じゃから……一応、狩人かのう?)」


「はいでしゅ!わっちたちに任せてくだしゃい!」

 

「ちょっ?!」


 一体どうやって熊を狩るというのか、想像すら出来なかったアメ。そんな彼女としては、シロが安易に熊退治の仕事を受けようとしていたのを聞いて、慌ててしまったようである。

 

 だが、時、すでに遅し……。


「じゃぁ、是非頼むよ。私から村長には伝えとくから、褒賞金についてはまかせときな。期待してるよ?」


 木こりの女性は、完全に乗り気になってしまったようだ。


 

「もう、どうするつもりじゃ?シロよ。お主まさか、出来なかったとき、とんずらするつもりではなかろうな?」


 周囲の調査を行うという口実の下、一旦、村から出たアメとシロ。そんな彼女たちは、村の周囲を歩きながら、受けた依頼について話し合っていたようだ。


「……人の仕事というのは、時に危険を伴うものなのでしゅ。短い時間でお金を稼ぐ場合は、特にでしゅ。もしも簡単にたくさんのお金を稼ぐ方法があったなら、先に人間しゃんたちの方が飛び付くでしゅから、もしもそんな仕事があったとしても、しゅぐに無くなってしまうはずでしゅ」


「そうなのやもしれぬが……お主、熊なんぞ、どうやって倒すつもりじゃ?」


「……ナツちゃんが目で殺しゅ?」


「んま?」


「どう考えたって無理――」

 

 と言いつつも、食べようとするたびに食べられないナツのことを考えて、実は彼女なら、本当に熊をどうにかできるのではないか、と思わなくもなかったアメ。

 ただ、それは、シロの冗談だということにすぐに気づいて、彼女は思考を戻したようである。

 

「で、真面目な話、どうするつもりじゃ?」


「まぁ、順当に考えれば……罠でしゅかね?」


「お主、罠なんぞ使えるのか?」


「えぇ、もちろん使えましゅよ?何百年もの間、罠の恐怖と戦ってきましたからねー。特にザルと豆の組み合わせは最強過ぎて、今でも恐ろしいでしゅ……」ぶるっ


「それ、鳥向けの罠じゃろ……」


「確かに、ザルと豆は、わっちたち向けの罠かもしれましぇんが、道具を使った罠という観点においては、熊しゃん向けの罠も基本的に同じことでしゅ。さぁ、腕がなりましゅねぇー」メキメキッ


「……まぁ、期待しておるぞ……」


 そうは口にするものの、内心では真逆のことを考えていたアメ。

 とはいえ、それ以外の方法で、熊を退治できないと思ったのか……。アメは、罠の設置を、シロに任せることにしたようである。


今後の文で、一つルールを設定することにしたのじゃ。

これまでアメのことを、『アメ』や『アメ狐』と表現してきたのじゃが、今後はアメが人の姿の場合には、『アメ狐』という言葉は使わないようにするのじゃ。

まぁ、アメはアメじゃから、どんな状態にあっても『アメ』という名前は使うがの?

シロ殿の方も然り、なのじゃ。

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