表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テンキュウノアメ  作者: ルシア=A.E.
12/96

1.3.1 驚かされて、驚いて

——彼女はアメ。空降る雨と虹を纏う狐の類い。その背中に幼子を乗せ、輩の鶴と共に道を歩めど、その終わりは未だ見えず。果たして、彼の者たちが求める地は何処にありて。


「……聞いてない……聞いてないでしゅ……!」


「ん?何か言わねばならぬことでもあったかの?」


「んまんま!」


 海沿いにあった村を離れ。一路、西へと向かうことになったアメたち一向。

 そこには、半強制的にベビーシッター(?)を任されることになったシロもいて。南への道のりを知っている彼女が、道案内を兼ねることになったようである。


「なんなんでしゅか、この子……。人の子の皮を被った獣ではないでしゅか?!いきなり齧ってくるとか、死ぬかと思ったでしゅ……」


「……さっきまで死に場所を求めておった鶴とは思えぬ発言じゃのう?」


「それにあの乳の飲ませ方……何で口移しなんでしゅか?!その胸からぶら下がってるものは一体何なんでしゅ?ただの肉塊でしゅか?!」


「いや、ワシ、乳、出んし……。そこまで言うなら、おぬしが……あっ……」


「……なんでしゅ?狐しゃん。何か言いたいことがあるなら、はっきりと言うでしゅ!」ゴゴゴゴゴ


 アメの視線が、自分の胸元に向いている気配を察して、激怒した様子のシロ。もとは哺乳類ではなく鳥類の彼女が、人に変身すると、どんな見た目になるのかは……どうか察してほしい。


 そんな彼女たちは今、2人揃って、人の姿になり、ナツを背負って街道を歩いていた。

 というのも、骨折をしていないとはいえ、脇腹に大きな打撲を負ったシロのことを考えて、アメは彼女の傷の痛みが引くまでの間、人のようにゆっくりと街道を進むことにしたのである。これまで何百年どころか何千年もの間、一人で行動してきたアメだったが、一応、同行者に対しては、気を配っていたようだ。


「して、お主。もう死なずとも良いのか?」


「……わっちのことを無理矢理旅に引っ張ってきておいて、それを聞くでしゅか?まぁ……村を離れるときに、心の整理は付けたつもりでしゅけどね」


「ほう?」


 何だかんだと言って、短時間のうちに心の整理を付けていたらしいシロに対し、どこか感心したような表情を向けるアメ。

 するとシロは、整理したという心の中身について話し始めた。


「わっちはきっと、300年前のあの日、足だけでなく、心も罠に引っ掛かってしまったに違い無いでしゅ。あの人は……わっちのことを罠から逃してくれた時、本当はわっちの心も逃してくれていたはずなのに、わっちは自ら罠に嵌まってしまった……そう思うことにしたでしゅ」


「詩人じゃのう……」


「それでわっちは決めたでしゅ。これからは、この心に素直に生きよう、と!」


「ふむふむ……」


「でしゅから、狐しゃん。……わっちをお嫁にもらってくだしゃい!」かぁっ


「ふむ…………は?」


「どうやってやったかは知りましぇんが、狐しゃんは、わっちの命を救ってくれたでしゅ。なら、この命、狐しゃんに捧げるのが道理ではないかと思うのでしゅ!それに、この身体……狐しゃんに、もう隅々まで汚されてしまったでしゅから……」

 

「意味が分からぬ……」


「それに、狐しゃん……胸から乳が出てこないということは、雌というわけではないんでしゅよね?」


「お主……馬と鹿という文字を並べた言葉を知っておるかの?」


「あいにくわっちは、文字が読めないでしゅから、狐しゃんが何言ってるのか分かりましぇんねー」


「それ、絶対、分かってて言っておるじゃろ……」


 シロの言葉を聞いて、頭を抱えるアメ。そんな彼女には、シロがどこまで本気で言っているのかは分からなかったが、少なくとも、彼女が自分に対し、特別な感情を抱いていることだけは理解できたようである。もしもそうでないというのなら――わざわざ、終わりの見えない旅に同行するなど、あり得ないはずなのだから……。


「そう言えば狐しゃん?」


「なんじゃ?非常食なら寝ておるぞ?」


「まぁ……非常食ちゃんもそうなんでしゅけど、お二人に名前って無いんでしゅか?まぁ、非常食ちゃんが、ナツちゃん、という名前で呼ばれているのは聞きましたので良いんでしゅけど……問題は狐しゃんの方でしゅ。もしや、狐しゃん、自分のことを"狐"と言っちゃうような痛い狐しゃんではないでしゅよね?」


 その言葉を聞いたアメとしては、色々と思うことがあったらしく、眉をひそめてしまったようだ。だが、これからシロと共に旅をしていくことを考えて、隠さず名乗ることにしたようである。

 なお、彼女が他人に名乗るのは、今回が初めてだったりする。


「……アメじゃ」

 

「あー、降ってきたでしゅねー、雨……って、誤魔化さないで、教えるでしゅ!」


「じゃから言うておろう?アメじゃ、と!」

 

ザバァァァァァ……


「うわぁ……この人、雨女でしゅ……」


「まぁの?」どやぁ


「そうでしゅか……アメしゃんでしゅか……」


 アメの名乗りを聞いて、まるで噛み締めるかのように、その名を口にするシロ。

 

 それから彼女は、道端に生えていた大きなフキを根本から2本引きちぎると、その1本をアメへと手渡して……。それを受け取ったアメと共に、フキを雨傘替わりに差しながら、嬉しそうに山道を進んでいったようである。


何というか、展開が"円舞曲"に似かよってきたのじゃ……。

なお、GLではない模様、なのじゃ?


前書きに"——"を追加したのじゃ。

まぁ入れても入れなくても、大して変わらぬがの?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ