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テンキュウノアメ  作者: ルシア=A.E.
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1.2.5 食べて、食べられて

諸事情により、いつもより修正が甘いやも知れぬが、その辺はお察しいただけると幸いなのじゃ。

「な、なぜじゃぁぁぁ?!なぜ足が止まらぬぅぅぅ?!」


「きゃっきゃ!きゃっきゃ!」


 猛烈な速度で森の中をひた走るアメ狐。その背中では、ナツが大喜びな様子で、足をバタバタとばたつかせて、はしゃいでいたようである。

 そんなアメたちは――やはり、道に迷っていたわけではなかった。もちろん、何か見えない強い力に引っ張られていたわけでもない。


「くっ……あのたわけめ!人の前で本来の姿を見せたりなんぞしたら、とって食われるか、なぶり殺しにされてしまうぞ?!」


「んまんま!」


「ほう?お主にも分かるか!ナツよ!」


「んま!」がぶぅ


「……実演せんでも良い……」


 ナツに背中の皮を握られ、そこを齧りつかれたアメ狐。その際、アメは、ナツに対し、昼の分の乳を与えていないことを思い出したらしく、彼女はこれが終わり次第、鹿を探しに行くことにしたようだ。

 なお、それを考えたアメが、普段とは異なり、どこか嬉しそうに目じりにシワを寄せていたようだが、その理由は不明である。


「見えてきたのじゃ!このまま行くぞ!ナツよ!しっかりと捕まっておるが良い!」


「んまーっ!」


 途切れていた森を勢いよく抜け、川に架かっていた簡易的な橋を乗り越え、そしてその向こう側に見えていた村へと飛び込むアメとナツ。

 すでにそこには人だかりができて、何やら問題が起こっている様子だった。


 

「あの人は……どこでしゅか?」ゆらり……


 海辺にある漁村。その内、人々の家がある区画の中を、まるで幽霊のように、半分人間、半分鶴の姿をしたシロ鶴が、彷徨うかのように歩いていた。

 そんな彼女が探していたのは、300年ほど前に命を助けてもらったという、男性の姿。今日、この日まで、たったの1日も忘れることの無かった彼の姿を、アメは家々を巡って、探し続けていたようだ。


「いない……いないでしゅ……」ゆらり……


「ひぃっ?!ば、化け物?!」


ドガッ!


「あの人は……どこにいるでしゅか?」ゆらり……


「うわぁぁぁぁ?!」


ドサッ!


 家々を覗き混むたびに、物をぶつけられ、罵声を浴びせかけられ、そして傷ついていくシロ鶴。しかし、どんなに酷い仕打ちを受けても、家々を巡る彼女の足が止まるようなことは無かった。

 

 人の人生よりも遥かに長い時間、絶えず、恋い焦がれ続けること。それがどれ程の苦しみと痛みを伴うものなのか、人には決して理解できないことだろう。

 だからこそ――人の想像を越えた想いに支配されていたからこそ、シロ鶴は、村人たちの酷い仕打ちを受けても、人のことを恨もうとは思わなかったようだ。人から受けるどんな痛みも、憎しみも、彼女が耐えてきたものに比べれば、些細なことでしかないのだから。


 それは、彼女が、村の中程に差し掛かったときの出来事だった。


「あっ……」


「…………?」

 

 とある家の軒先に、彼女が知っている顔があったようだ。


「生きてた……生きてたでしゅ!」


 そう言って、そこにいた男性へと抱きつこうとするシロ鶴。そんな彼女は、鶴と人、どっち付かずの姿ではなく、明確に人の姿へと変わって、男性へと駆け寄った。

 頭の中で何度も繰り返してきたシチュエーション。何百年もの間、待ち続けてきた瞬間。それが彼女の目の前に、あったのである。

 

 あと3歩。あと2歩。あと1歩……。

 そして、男性に抱きつこうとしたシロ鶴は――


「……近寄んじゃねぇ!化けもんが!」


ドゴッ……!


「ぐふっ?!」


ドシャッ!!


――拒絶の態度を示した男性に蹴られ、その反動で村の大通りまで、吹き飛ばされてしまった。

 

 結果、無防備な状態で、地に伏せることになったシロ鶴。そして、彼女のことを取り囲む村人たち。

 それからまもなくのこと。朦朧として変身が解けかかっていたシロ鶴の前へと、再び男性が姿を現した。

 

 そんな彼の手には、一本の長い棒が握られていた。漁師たちが海で魚を仕留めるために使う、(もり)である。

 それを見たシロ鶴は否応なしに悟ったようだ。『殺される』と……。

 

 それでもシロは、その場から逃げようとしなかった。その男性が、自身の知っている"男性"ではなく、彼の子孫だろうことが分かっていても、彼女はその背中を見せるような素振りすらしなかったのだ。

 そればかりか、彼女は、その大きな翼を男性へ向かって拡げると、嬉しそうに笑みを浮かべたようである。まるで――愛する男性を、自身の胸で受け止めるかのように。


 そして。

 "愛"とは対極の表情を浮かべた男性が、その銛を振りかざし、人だかりの中心で、それをひと思いに振り下ろした――そんな時である。


ドガッ!

ズシャァァァァッ!!


 銛がシロの身体に吸い込まれる直前、男性は銛ごと宙を舞った。

 その様子が余りにも衝撃的だったのか、何が起こったのか分からず、唖然とする村人たち。だが、その人だかりは、次の瞬間、蜘蛛の子を散らせるがごとく、逃げ惑うことになる。

 

 なぜなら――


「貴様らぁぁぁぁ!!ワシの獲物を横取りするたぁ、良い度胸じゃ!皆殺しにしてくれよう!」


――金色に輝く毛並みを持った、ヒグマの倍ほどの大きさはありそうな4本足の化け物が、漁師の男性どころか、村人たちの半数を吹き飛ばしながら、その場に現れかと思うと。迷うことなく――

 

ガブゥッ!


――と、シロ鶴に齧りついたからである。



眠いのじゃ……。

されど……妾、頑張ったのじゃ!


じゃが、もう……だめかもしれぬ…………zzz。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 10/89 ・背景がバニラアイス ・ぬえ~ん ・ストーリーが平常運転。うまく言えないけど、不自然さを感じない。 [気になる点] 作者がテレサじゃない……!? [一言] だめかもしれぬ…
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