ストーリー 1,7
「なんだ、お前魔術師だったのか?」
「まさか、だって俺の世界に魔法なんてなかったし」
30歳までチェリーボーイなら魔法使いになれるらしいけども。
「そう言っても……さっきの魔法、最低でも中級程度の威力だったろ」
これは後から聞いたことだが、この世界の魔法は下級・中級・上級に分けられていて、杖なんかの補助具を使って中級を使えれば一人前と認められるらしい。
「もう一回試してみるか」
2,3個ばかり岩を刻んだところ、接触していないと効果が出ないということが分かった。
逆に接触さえしていれば、縦でも横でも簡単に切ることが出来た。対象物の大小も特に影響はないらしい。
「戦闘には使えないかなぁ。ゴーレム作るのとか砦の修理ぐらいなら……」
いまいち使い勝手の悪い能力をどう使うべきか考える。異変が起きたのは、ちょうどそのタイミングだった。
「……何の音でしょうか」
ミラが明後日の方を向いていたが、俺には何も聞こえない。ロキにも聞こえていないようだ。大きなウサ耳は伊達じゃないらしい。
「ん? あれは……」
「犬、かな?」
黒い点がどんどんと近付いてきた。犬のようだけど、何か違和感がある。
「……って、あれ魔物じゃん!」
黒点が大きくなるにつれて、その正体が明らかになる。ついこの間に出現ばかりの、歪なオオカミの姿をした魔物だった。
「チッ、逃げるのは無理か」
「キャアアア!」
俺以外の二人はそんな感じの反応をした。魔力を纏わせて魔物に向かうロキと、涙目で腰を抜かしているミラと。俺はただ硬直してしまっていた。
「シャオラァ!」
俺が呆けている間にも、ロキと魔物は複数回ぶつかりあっていた。とはいうものの、ロキはどうにも攻めあぐねているようにみえる。魔物が飛び掛かってくるのに合わせてパンチやキックを打っているが、その後の行動に二の足を踏んでいる。加勢したいけど、足手纏いだろうな。
「とにかく逃げよう。立てる?」
未だ蹲っているミラの手を掴んで、無理やりに立ち上がらせる。ひとまず砦まで戻らないと。
「いやぁぁぁ!」
「えっ、ごめん、って……ちょ、まじか!」
いつの間にか魔物がこっちに向かって来ていた。
「すまん、抜かれた!」
「謝られても困る!」
魔物は大口を開けて突進してくる。俺は咄嗟に体を投げ出して回避した。ミラを押し倒す格好になったが、気にしている余裕なんてなかった。
「また来た!」
初撃は運良く避けられたが、体勢の崩れた今の状態では身動きが取れない。何が言いたいかというと、まあ、あれだ。死ん―――
「―――でたまるかぁ!」
投げつけてやろうと手元にあった石を掴んだが、想像してた以上の重さを感じた。というよりも持った瞬間に急に重くなったような気がした。ともかく、俺はそれを振り回した。完全に無意識の行動だったと思う。
気付いたときには魔物は遠くに転がっていて、俺の手には剣が握られていた。
「……え、何これ?」
握った剣に視線が向く。装飾もほとんどない武骨な剣だ。戦場らしさはある、あるのだが……
「……これ、見たことあるぞ」
(プラモだけど)作ったこともある。色は違うが、某機動戦士シリーズの敵機装備だ。とてもじゃないが異世界にあるのは不自然だ。まさか、俺が作った?
「ってそんな場合じゃ……そんな場合か」
魔物は頭を砕かれて絶命していた。俺が吹き飛ばしたところをロキが仕留めたらしい。俺は、光の粒子になろうとしている魔物を横目に、ずっしりとした剣の重みを感じていた。
文章中の剣はグレイズ(ms)のバトルブレードです