ストーリー 1,6
「うーん」
俺はゴーレムの説明書を見ながら唸っていた。
「思ったよりも複雑じゃないんだな」
ゴーレムの作り方は意外に単純なものだった。要は石や木、金属等で人形を作り、そのどこかに動かすために魔法陣を刻み込めばいい。
「動かしてる間は術者の魔力が消費されるのか。後は消費量がサイズと比例する、と」
とりあえず一回作ってみるか。どっかで材料貰えないかな。
「なあ、この近くに岩か何かが沢山あるところとかないか?」
「え、あ、えっと……」
ゴーレム制作にあたって監視兼連絡役が一人付けられた。ミラという名前で動物の特徴を持った獣人という種族らしい。新人だから通常業務から外れても大丈夫だそうだ。
「そんなにビクビクされると、やり辛いんだけど……」
俺がゲートから出てきたと知っているために、目の前の兎娘は完全に怯えきっていた。
「まあいいや。軍事施設なら物資の管理してる部署ぐらいあるよな。そこまで案内してもらえない?」
話を切り出してから実際に案内してもらうまではしばらく掛かった。無理を言える立場じゃないのは分かるけど、出来れば別の人に変わってほしいと思ってしまった。
◇◇◇
「大きな岩? そんなもん、砦の周りにいくらでもあるぞ」
物資管理の担当者に話を聞いたところ、そういう答えが返ってきた。
「使ってもいいですか?」
「そりゃもちろん。ただ……採りに行くなら俺も着いていくぞ」
きっと監視のつもりなんだろうな。そうは言っても、詳しい人間が来てくれるのはありがたい。
「まだ名乗っていなかったな。後方班長のロキだ」
「暁勤です。よろしく」
こうして、監視役2人と一緒にゴーレムの素材の岩を集めに行くことになった。
◇◇◇
「……確かに、いくらでもあるな」
砦の外には、大きな岩が無尽蔵に転がっていた。というより岩しか存在してなかった。
「流石に大き過ぎるかな。とりあえず手頃なサイズの奴だけ持っていくか」
夢と同じゴーレムを造るならそれなりの大きさの岩が必要になるけど、3人で運べる大きさには限度がある。今日は試作だし、持てるだけ持って行けばいいだろう。そう考えて手近な岩を手に取る。ちょうど子供の頭ぐらいのサイズだ。
「おい、そんな大きさじゃ何も作れないだろ。ゴーレムってんならこれぐらいは必要じゃねぇか?」
「え? うわっ!」
ロキが涼しい顔をして巨大な岩を持ち上げていた。監視役の子も中々の大きさのものを持っている。
「何驚いてんだ? 身体強化は基本中の基本だろ。魔法は使えなくても、これまで出来ない訳じゃないんだよ」
不思議そうな顔をされても、こっちは魔法なんてない世界の出身だ。身体強化なんてせいぜいスポーツのドーピングぐらいしか聞いたことがない。……ドーピングを身体強化と呼んでいいのかはともかく。
「でも、俺にも魔力はあるんだから俺も使えるはずだよな」
「簡単だぞ。魔力を体に纏わせるんだよ」
纏わせる……そう言われてパッと思いついたのは、野菜な名前の戦闘民族だった。
「あの漫画みたいな感じで……はあっ!」
結果的には一応成功したといったところだろうか。ほんの僅かな時間だけだけど、それらしい現象が起こった。自分の体とほぼ同じサイズの岩を持ち上げるのには成功した。運ぶことまでは出来なかったけども。
「これでもまだ重い。もっと岩が小さければ……」
ふとそんなことを思い、たった今持ち上げた岩に手をついた。せめてこの半分なら持てるだろうな。
「……え?」
手をついたところが発光して岩が真っ二つに割れた。いや、断面が平らだから切れたと言うべきか。
「……え? 何これ、どういうこと?」
後ろの二人を見るも、返事は返ってこなかった。